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34話 朝からベーコンエッグ

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 何かの焼ける良い匂いで目を覚まし、まだ重たい瞼を持ち上げる。
 すると台所に人の姿を取って料理をしているミワが見え、まだ完全には覚醒し切れていない頭で匂いからベーコンエッグを作っているのだと察する。
 よく見れば身長が足りず、以前実家から送られて来たお高い蜂蜜の入っていた木箱に乗っているのが分かる。

「やっと起きたか小娘。今日は吾輩が飯を食わせてやろう」

「それは嬉しいけど泡吹き出てるよ?」

 私が指差したフライパンを見たミワは慌てた様子でIHを切る。
 それによって蓋の隙間から漏れ出ていた泡の勢いが収まり、掃除が少し面倒なくらいの被害で収まった。

「今度から私が居ない時にそれ使うの禁止ね」

「ぐぬぅ……」

 落ち込んだような、悔しそうな、そんな何とも言えない表情を浮かべるミワの可愛らしさで、まだ覚醒し切っていなかった脳が完全に覚醒する。
 私はさっぱりした寝覚めに心地よさを感じながら起き上がり、両腕を天に向けて伸ばす。
 そうして血の流れが良くなったのを感じ取りながらベッドから出て、フライパンからベーコンエッグを取り出す作業に苦戦するミワの隣に近付いて。

「お母さんに任せて」

「吾輩は貴様の子供ではない」

 反抗的にそんな事を言うが、傍から見れば母と娘のようにしか見え無いだろう。
 しかし、自分には出来ない事を理解しているようで、ミワは大人しく後ろへ下がった。

「あちゃー、ちょっと焦げちゃってるね」

「初めてにしては上出来だろう?」

「まあね。パンを焼くタイミングも完璧だし」

 私は言いながらトースターからこんがり焼けたパンを取り出し、ベーコンエッグと玉ねぎをパンで挟み、昨日の夜も食べたベーコンエッグサンドが完成した。
 朝から良い匂いを嗅いだせいで、いつもより大分早く起きたというのに空腹から腹が鳴る。
 
「先に食べるか?」

「自分で作ったんだから先に食べなよ。少し焦げてるけど、そのくらいなら美味しいと思うし」

「ならば、有難く頂こう」

 ミワは皿を両手でしっかり持って、とてとてと小さな足音を立てて食卓へ歩いて行った。
 そんな愛らしい様子を眺めながら空腹に押される様にして私もベーコンエッグの用意を始める。
 朝からこの量を食べれば、昼休憩に入る前から空腹に苛まれるなんてことにはならなさそうだ。
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