【完結】影を失くした令嬢と影だけの騎士

きゅちゃん

文字の大きさ
2 / 3

中編『お前の影は永遠に彷徨え』

しおりを挟む
修道院には行かなかった。二人は王都に戻った。

ヴァルターは見事にエリアナの影を演じた。太陽の下では地面に沿って伸び、室内では灯火の位置に応じて動く。遠目には、完璧に普通の影だった。

「ここが、私のかつての家だ」

王都の古い邸宅の前で、ヴァルターは言った。戦死後、屋敷は封鎖されていた。

「あなたの手がかりは、ここに?」

「私を呪った魔術師について、調べていた記録があるはずだ」

二人は——正確には、エリアナが鍵を壊して——屋敷に侵入した。埃に覆われた書斎で、彼女は古い日記を見つけた。

「『黒の魔女』...」

エリアナは読み上げた。

「戦場に現れた魔女。彼女は味方も敵も区別せず、影を操る魔法で兵士たちを襲った。私は彼女を倒したが、最期の呪いを受けた——『お前の影は永遠に彷徨え』と」

「でも、その魔女の正体については?」

「次のページに...あった。『魔女の正体は、レイラ・フォン・ノルトハイム。かつて王立魔法学院の首席だったが、影の研究に傾倒しすぎて追放された』」

エリアナは顔を上げた。

「ノルトハイム...それなら、彼女の研究資料が学院に残っているかも」

「しかし、君は学院に入れるのか?影のない者を、彼らが受け入れるとは思えないが」

ヴァルターの懸念はもっともだった。しかしエリアナの目には、もう迷いがなかった。

「私たちには、特別な武器があるわ」

「武器?」

「あなたよ、ヴァルター卿。影だけになったあなたは、誰にも見えない。つまり、最高の偵察員になれる」

ヴァルターは驚いたように沈黙した。そして、低く笑った。

「なるほど。君は、思ったより策士だな」

「生き延びるためには、何でもするわ」

エリアナは立ち上がった。彼女の足元で、影——ヴァルターが、くっきりと動いた。

王立魔法学院への潜入は、予想以上に簡単だった。

夜、警備が手薄になった時間を狙い、エリアナは裏門から侵入した。ヴァルターは彼女の影から離れ、自由に館内を偵察した。

「左の廊下、三つ目の扉だ」

ヴァルターの声が、エリアナの耳元で響いた。影になってからの彼は、エリアナと精神的に繋がることができた。

封印された資料室の中で、彼女は埃を被った古文書を見つけた。

「『影の分離と融合に関する研究』...これだわ」

ページをめくりながら、エリアナは息を呑んだ。

「影は魂の一部である。影を失った者は、不完全な存在となる。しかし、逆に言えば、影だけの存在も不完全だ。両者が出会ったとき、新たな可能性が生まれる——」

「どういう意味だ?」

「つまり...私たち二人は、お互いを補完し合える存在だということよ」

エリアナは資料を胸に抱いた。

「あなたは影だけで肉体がない。私は肉体があって影がない。もし、私たちが完全に融合すれば...」

「一人の完全な人間になる、とでも?」

ヴァルターの声は複雑だった。

「でも、それでは君か私、どちらかの人格が消える」

「そうね。だから、それは最後の手段」

エリアナは微笑んだ。

「私たちの目的は、二人とも元に戻ること。あなたは肉体を取り戻し、私は影を取り戻す。そのための方法を、必ず見つけるわ」

その決意は、ヴァルターの心にも火を灯した。

「...ありがとう、エリアナ」

影の騎士は初めて、彼女の名を呼んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された私はカエルにされましたが、悪役令嬢な妹が拾って舞踏会で全部ひっくり返します

まぴ56
恋愛
異世界貴族の私は、婚約者に捨てられ――口封じに“蛙”へ。 声も出せず噴水の縁で震える私を拾ったのは、嫌味たっぷりで見下すように笑う妹のミレイだった。 「汚らしいお姉さま――わたくしが連れ帰って、たっぷり苛めて差し上げますわ」 冷たく弄ぶふりをしながら、夜な夜な呪いの文献を漁るミレイ。 やがて迎える、王も出席する大舞踏会。ミレイの千里眼が映す“真実”が、裏切り者たちの仮面を剥ぎ取っていく―― 呪いが解ける条件は、最後のひと押し。 姉妹の絆が、ざまぁと逆転を連れてくる。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

どうやらお前、死んだらしいぞ? ~変わり者令嬢は父親に報復する~

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「ビクティー・シークランドは、どうやら死んでしまったらしいぞ?」 「はぁ? 殿下、アンタついに頭沸いた?」  私は思わずそう言った。  だって仕方がないじゃない、普通にビックリしたんだから。  ***  私、ビクティー・シークランドは少し変わった令嬢だ。  お世辞にも淑女然としているとは言えず、男が好む政治事に興味を持ってる。  だから父からも煙たがられているのは自覚があった。  しかしある日、殺されそうになった事で彼女は決める。  「必ず仕返ししてやろう」って。  そんな令嬢の人望と理性に支えられた大勝負をご覧あれ。

「お前みたいな卑しい闇属性の魔女など側室でもごめんだ」と言われましたが、私も殿下に嫁ぐ気はありません!

野生のイエネコ
恋愛
闇の精霊の加護を受けている私は、闇属性を差別する国で迫害されていた。いつか私を受け入れてくれる人を探そうと夢に見ていたデビュタントの舞踏会で、闇属性を差別する王太子に罵倒されて心が折れてしまう。  私が国を出奔すると、闇精霊の森という場所に住まう、不思議な男性と出会った。なぜかその男性が私の事情を聞くと、国に与えられた闇精霊の加護が消滅して、国は大混乱に。  そんな中、闇精霊の森での生活は穏やかに進んでいく。

【完結短編】ある公爵令嬢の結婚前日

のま
ファンタジー
クラリスはもうすぐ結婚式を控えた公爵令嬢。 ある日から人生が変わっていったことを思い出しながら自宅での最後のお茶会を楽しむ。

悪役令嬢に仕立て上げたいなら、ご注意を。

潮海璃月
ファンタジー
幼くして辺境伯の地位を継いだレナータは、女性であるがゆえに舐められがちであった。そんな折、社交場で伯爵令嬢にいわれのない罪を着せられてしまう。そんな彼女に隣国皇子カールハインツが手を差し伸べた──かと思いきや、ほとんど初対面で婚姻を申し込み、暇さえあれば口説き、しかもやたらレナータのことを知っている。怪しいほど親切なカールハインツと共に、レナータは事態の収拾方法を模索し、やがて伯爵一家への復讐を決意する。

【完結】悪役令嬢は婚約破棄されたら自由になりました

きゅちゃん
ファンタジー
王子に婚約破棄されたセラフィーナは、前世の記憶を取り戻し、自分がゲーム世界の悪役令嬢になっていると気づく。破滅を避けるため辺境領地へ帰還すると、そこで待ち受けるのは財政難と魔物の脅威...。高純度の魔石を発見したセラフィーナは、商売で領地を立て直し始める。しかし王都から冤罪で訴えられる危機に陥るが...悪役令嬢が自由を手に入れ、新しい人生を切り開く物語。

処理中です...