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中編『お前の影は永遠に彷徨え』
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修道院には行かなかった。二人は王都に戻った。
ヴァルターは見事にエリアナの影を演じた。太陽の下では地面に沿って伸び、室内では灯火の位置に応じて動く。遠目には、完璧に普通の影だった。
「ここが、私のかつての家だ」
王都の古い邸宅の前で、ヴァルターは言った。戦死後、屋敷は封鎖されていた。
「あなたの手がかりは、ここに?」
「私を呪った魔術師について、調べていた記録があるはずだ」
二人は——正確には、エリアナが鍵を壊して——屋敷に侵入した。埃に覆われた書斎で、彼女は古い日記を見つけた。
「『黒の魔女』...」
エリアナは読み上げた。
「戦場に現れた魔女。彼女は味方も敵も区別せず、影を操る魔法で兵士たちを襲った。私は彼女を倒したが、最期の呪いを受けた——『お前の影は永遠に彷徨え』と」
「でも、その魔女の正体については?」
「次のページに...あった。『魔女の正体は、レイラ・フォン・ノルトハイム。かつて王立魔法学院の首席だったが、影の研究に傾倒しすぎて追放された』」
エリアナは顔を上げた。
「ノルトハイム...それなら、彼女の研究資料が学院に残っているかも」
「しかし、君は学院に入れるのか?影のない者を、彼らが受け入れるとは思えないが」
ヴァルターの懸念はもっともだった。しかしエリアナの目には、もう迷いがなかった。
「私たちには、特別な武器があるわ」
「武器?」
「あなたよ、ヴァルター卿。影だけになったあなたは、誰にも見えない。つまり、最高の偵察員になれる」
ヴァルターは驚いたように沈黙した。そして、低く笑った。
「なるほど。君は、思ったより策士だな」
「生き延びるためには、何でもするわ」
エリアナは立ち上がった。彼女の足元で、影——ヴァルターが、くっきりと動いた。
王立魔法学院への潜入は、予想以上に簡単だった。
夜、警備が手薄になった時間を狙い、エリアナは裏門から侵入した。ヴァルターは彼女の影から離れ、自由に館内を偵察した。
「左の廊下、三つ目の扉だ」
ヴァルターの声が、エリアナの耳元で響いた。影になってからの彼は、エリアナと精神的に繋がることができた。
封印された資料室の中で、彼女は埃を被った古文書を見つけた。
「『影の分離と融合に関する研究』...これだわ」
ページをめくりながら、エリアナは息を呑んだ。
「影は魂の一部である。影を失った者は、不完全な存在となる。しかし、逆に言えば、影だけの存在も不完全だ。両者が出会ったとき、新たな可能性が生まれる——」
「どういう意味だ?」
「つまり...私たち二人は、お互いを補完し合える存在だということよ」
エリアナは資料を胸に抱いた。
「あなたは影だけで肉体がない。私は肉体があって影がない。もし、私たちが完全に融合すれば...」
「一人の完全な人間になる、とでも?」
ヴァルターの声は複雑だった。
「でも、それでは君か私、どちらかの人格が消える」
「そうね。だから、それは最後の手段」
エリアナは微笑んだ。
「私たちの目的は、二人とも元に戻ること。あなたは肉体を取り戻し、私は影を取り戻す。そのための方法を、必ず見つけるわ」
その決意は、ヴァルターの心にも火を灯した。
「...ありがとう、エリアナ」
影の騎士は初めて、彼女の名を呼んだ。
ヴァルターは見事にエリアナの影を演じた。太陽の下では地面に沿って伸び、室内では灯火の位置に応じて動く。遠目には、完璧に普通の影だった。
「ここが、私のかつての家だ」
王都の古い邸宅の前で、ヴァルターは言った。戦死後、屋敷は封鎖されていた。
「あなたの手がかりは、ここに?」
「私を呪った魔術師について、調べていた記録があるはずだ」
二人は——正確には、エリアナが鍵を壊して——屋敷に侵入した。埃に覆われた書斎で、彼女は古い日記を見つけた。
「『黒の魔女』...」
エリアナは読み上げた。
「戦場に現れた魔女。彼女は味方も敵も区別せず、影を操る魔法で兵士たちを襲った。私は彼女を倒したが、最期の呪いを受けた——『お前の影は永遠に彷徨え』と」
「でも、その魔女の正体については?」
「次のページに...あった。『魔女の正体は、レイラ・フォン・ノルトハイム。かつて王立魔法学院の首席だったが、影の研究に傾倒しすぎて追放された』」
エリアナは顔を上げた。
「ノルトハイム...それなら、彼女の研究資料が学院に残っているかも」
「しかし、君は学院に入れるのか?影のない者を、彼らが受け入れるとは思えないが」
ヴァルターの懸念はもっともだった。しかしエリアナの目には、もう迷いがなかった。
「私たちには、特別な武器があるわ」
「武器?」
「あなたよ、ヴァルター卿。影だけになったあなたは、誰にも見えない。つまり、最高の偵察員になれる」
ヴァルターは驚いたように沈黙した。そして、低く笑った。
「なるほど。君は、思ったより策士だな」
「生き延びるためには、何でもするわ」
エリアナは立ち上がった。彼女の足元で、影——ヴァルターが、くっきりと動いた。
王立魔法学院への潜入は、予想以上に簡単だった。
夜、警備が手薄になった時間を狙い、エリアナは裏門から侵入した。ヴァルターは彼女の影から離れ、自由に館内を偵察した。
「左の廊下、三つ目の扉だ」
ヴァルターの声が、エリアナの耳元で響いた。影になってからの彼は、エリアナと精神的に繋がることができた。
封印された資料室の中で、彼女は埃を被った古文書を見つけた。
「『影の分離と融合に関する研究』...これだわ」
ページをめくりながら、エリアナは息を呑んだ。
「影は魂の一部である。影を失った者は、不完全な存在となる。しかし、逆に言えば、影だけの存在も不完全だ。両者が出会ったとき、新たな可能性が生まれる——」
「どういう意味だ?」
「つまり...私たち二人は、お互いを補完し合える存在だということよ」
エリアナは資料を胸に抱いた。
「あなたは影だけで肉体がない。私は肉体があって影がない。もし、私たちが完全に融合すれば...」
「一人の完全な人間になる、とでも?」
ヴァルターの声は複雑だった。
「でも、それでは君か私、どちらかの人格が消える」
「そうね。だから、それは最後の手段」
エリアナは微笑んだ。
「私たちの目的は、二人とも元に戻ること。あなたは肉体を取り戻し、私は影を取り戻す。そのための方法を、必ず見つけるわ」
その決意は、ヴァルターの心にも火を灯した。
「...ありがとう、エリアナ」
影の騎士は初めて、彼女の名を呼んだ。
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