運命と運命の人

なこ

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第6章

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妻になりたいと願ったあの日から、カイゼルの姿を見ていない。

同じ邸にいると言うのに。

カイゼルは怒っているのだろうか、それとも呆れているのだろうか。

考え直せと言われても、カイゼルへの想いを自覚してしまった今、ユアンはもうどうすることもできない。

カイゼルは、前妻のことを愛していたのだろうか。

もう誰も娶る気がないほどに。

今もまだ愛しているのかもしれない。

それでも、自分の気持ちを変えることはできない。

待ち続けるだけでは、きっと何も変わらない。

ユアンは意を決して、カイゼルの部屋へと向かった。



思いがけず急に開かれた扉と、カイゼルのいつもとは違うその姿にユアンは驚いた。

ゆったりとしたシャツは胸元が顕になるほど開かれており、髪も無造作で、少し酒の匂いが漂う。

寛いだその姿からはどこか色香が漂い、ユアンはどきりと、胸が高鳴った。

ぱさりと掛けられたガウンに包まれると、そこから漂うカイゼルの匂いに、ユアンの身体は薄らと熱をおびてゆく。

部屋に入ると、カイゼルの座る長椅子の後方に見えるのは、あの寝台だ。

「どこでもいい。空いてる所に座れ。」

ユアンと名を呼ばれ、カイゼルを何度も受け入れたあの場所だ。

頬が赤らむのを隠すように、それでも少しでもカイゼルの隣がいいと、ユアンは長椅子の端へと、すっと腰をおろした。

 

「そろそろ、カイゼル様の返事をおききしたいのです。」



カイゼルは隣へと座るユアンから顔を逸らし、こちらを見ようともしない。



ぱちぱち…            ぱちぱち…



火の粉が弾ける音だけが、部屋には響いている。



「…お前はまだ、あの男のことを愛しているのだろう。」



ぱち…        ぱち…         ぱちぱち…



「…ラグアル様のことをご存知なのですか?」


ラグアルのことをまるで見知っているかのような言葉に、ユアンは少し驚いた。

カイゼルの口からラグアルの話しが出るのは、ここに来て初めてのことだ。

カイゼルはそれには答えてくれない。



「…愛して、いました。今は……」

「もう、よい。お前が責任を感じる必要はない。王都に戻れ!お前なら、いくらでも縁談がある。」

「カイゼル様!聞いてください!」

まるでこちらを見ようともせず、突き放そうとするその姿にユアンの声も荒ぶる。

「カイゼル様のことを、お慕いしているのです!いつからかは、わかりません。お側に、いたい。そう思うのは、いけないことですか?!」

いつからか、自分でもわからない。

それでも、この気持ちを否定するのだけはやめて欲しい。

「お前は…何を…言っているのだ。」

「カイゼル様!ぼくじゃ、だめですか…?」

ぼくでは、ふさわしくないですか?

まだ、亡くなった奥様を愛しているのですか?

「…ユアン、お前は、まさか、わたしを…」

逸らされ続けていたカイゼルの漆黒の瞳がユアンへと向けられる。その漆黒の瞳は、どこまでも透明で奥深く、そして、今は揺らいでいる。


「はい。ぼくは…」

「それ以上は、言うな。」

「ぼくは…」

「言うな!」



カイゼルに抱きしめられ、ユアンは言葉を失った。


「言うなと、そう言った、だろう。」

「…なぜ、ですか?」

どうして、言わせてくれないの?

「お前には、わたしのような者ではだめだ。」

ぼくを、愛することはできないから?

「カイゼル様が、いいのです。」

「だめだ。」

どうして。

「カイゼル様を、ぼくにください。」

「だめだ。」

どうして。

「では、ぼくを…もらってください。」

「…本気、なのか?」

ユアンは、カイゼルにきつく、抱きついた。

「この場所を、ぼくだけのものにしたいと、そう思うのは、浅ましいことですか…?」

カイゼルのこの匂いも、厚い胸板も、低く耳元に響くその声も、全部、ぼくだけのものにしたい。

「……わからない。わたしには、わからんのだ。」

「わからなくても、いいのです。ぼくはカイゼル様の隣にいたい。

それだけでは、だめですか?」

カイゼルの心に別の人がいても、それがもうこの世にはいない方でも、ユアンを愛してくれなくても、それでも、せめて隣にいさせて欲しい。

「ユアン、お前は、本当に、それで、いいのか?」

カイゼルの胸に縋りつきながら、ユアンは何度も頷いた。

カイゼル様、お願いなのです。

ここから出ていけとは、帰れとだけは、

言わないで。

お願いだから。

せめて、ここにいさせて。。。










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