運命と運命の人

なこ

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第8章

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ユアンとカイゼル、2人が忘れてしまった出来事。



▪️▪️▪️▪️▪️▪️▪️▪️▪️▪️▪️▪️▪️▪️



ユアンには10歳歳の離れた兄がいる。

兄のセレンは大きくて、おおらかで、いつもユアンを守ってくれる。ユアンは兄が大好きだ。

同い年の他の子と比べても小柄で、「孕み子」でもあるユアンは侯爵家で囲われるように生活していた。

「兄さま、おかえりなさい!」

遊び相手と言えばセレンぐらいしかいないユアンは、いつも兄の帰りを待ち焦がれていた。

「ああ、ユアン、ただいま。」

抱きついた兄の後ろに見た事のない人がいる。

「今日は親友を連れてきたんだ。ユアン、挨拶できるか?」

セレンが家に友人を連れて来るのは初めてのことだ。

兄よりも大きく、あまり見たことのない肌の色をした人だ。髪も目も真っ黒で、ユアンは少し怖くなった。

「…兄さま、のお友達?」

「そうだよ、ユアン。」

「……リシュリー ユアンです。7さいです。」

兄の陰に隠れるように、ユアンは辿々しい挨拶をした。

「7歳?小さいな。本当にセレンの弟なのか?」

「可愛いだろ。ユアンは母上似だからな。正真正銘の弟だぞ。まだ少し人見知りするんだ。」

そう言って、セレンはユアンの頭をがしがしと撫でると、抱き上げた。

「うわあ、兄さま。高い!」

きゃっ、きゃっ、とユアンは声に出して笑う。

「ふうん。弟か。カイゼルだ。好きに呼べばいい。」

「ユアン、カイゼルは王様の弟なんだぞ。すごいだろう。」

抱き上げられた目線はカイゼルのそれに近い。

「王さまの、弟…?ぼくと、おんなじ?」

「まあ、同じ弟だな。」

「そんなに大きいのに?」

「大きさは関係ないだろう。」

ぷはっ、とセレンが笑い出し、ユアンは不思議そうにカイゼルを見つめた。

カイゼルの真っ黒な瞳と目が合うと、慌ててセレンに抱きつく。

「カイゼル、ユアンをあんまり怖がらせるなよ。」

「何もしてないだろう。」

ユアンは生まれて初めて、少しだけドキドキとした。

それから、月に何度かカイゼルは侯爵家を訪れるようになった。

大抵セレンがずっと話しをしていて、カイゼルがそれに相槌を打つ。

ユアンは2人の近くで本を読んだり、絵を描いたり、勉強をしたり、カイゼルと話すことはなかった。

時折、カイゼルは声を出して笑う。

笑ってる。。。怖い、けど、怖くない?

ユアンはカイゼルが気になって仕方ない。

何かをしながら、いつもカイゼルのことをちらちらと気にしていた。

セレンの卒業を間近に控えた頃、カイゼルはいつもと違う、少し畏まった様子で侯爵家を訪れた。

「これまで度々お世話になりました。卒業後は王都の騎士団に所属する予定です。今後しばらくは訪れる時間もなくなるかと思い挨拶に参りました。」

父と母に挨拶をするカイゼルをユアンはじっと見ていた。

ユアンももう10歳だ。

この方とこのように会えるのも、きっと今日で最後だと思った。

いつものように、セレンとカイゼルが話す近くで、ユアンは本を読みながら2人の話しを聞いている。

いつものようにちらちらと、時折カイゼルの姿を盗み見ると、何回かに一回はカイゼと目が合う。

ユアンはその都度俯くだけだ。

「あの、セレン様、お客様がいらしているのですが…」

「誰だ?カイゼル、ユアン、すぐに戻るから少し待っていてくれ。」

急な呼び出しで、何の先触れもない来客に怪訝そうな顔をしながら、セレンは部屋を出ていった。

ユアンとカイゼルは、初めての2人きりだ。

ユアンが本を捲る音だけで、部屋の中はしんとしている。

セレンがいないだけなのに。

本を捲りつつも、ユアンはその内容など入ってこない。

…どうしよう。何か話さなきゃいけないかな?

「…いつも何を読んでいるんだ?」

カイゼルの方から話しかけられるとは思わず、ユアンはドキッとした。

「あ、あの、これなんですけど。」

「その年でこれを読んでいるのか。難しくはないか?」

「少し、難しくて。わからないところも、たくさんあります。」

「どの辺がわからない?」

「この辺が、まだぼくには難しいです。」

「そうだな。この解釈は何通りかあるが………」

「そうなのかあ!ずっと分からなくて、そんな解釈の仕方があるんですね!」

「ああ、そうだな。こんな本ばかり読んでいるのか?」

ユアンはぶんぶんと首を横に振ると、重なった本の中から、がさがさとだいぶくたびれた絵本を取り出した。

「これ!面白いんだよ!何回も読んでるの!読んだことある?」

先程までの大人びた様子から、一気に年齢相応の幼い風になる。

「これは、読んだ事はないな。そんなに面白いのか?」

「うん。とっても。ぼくが読んであげようか?」

「お前がか?」

「うんっ。あのね、ぼくは弟だけど、もしお兄ちゃんだったら、たくさん読んであげようと思ってね、いっぱい練習したの。」

「そうか。わたしも弟だからな。セレンが戻るまで読んでもらおうか。」

ユアンは嬉しそうに目を輝かせ、カイゼルを見上げた。

美しい翡翠の瞳だ。

「じゃ、じゃあ、隣りに来て!今から読んであげるね!」

カイゼルはふっと笑うと、ユアンの隣りに座った。

ユアンは何度も練習したと言う絵本の読みきかせをカイゼルに始めた。






















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