運命と運命の人

なこ

文字の大きさ
76 / 113
第8章

8

しおりを挟む
あれほど楽しみにしていた外出から戻ってきたリオの姿に、ラグアルは眉を顰めた。

怯えたように震えながら、ごめんなさい、ごめんなさいと、何かにずっと謝り続けている。

「一体、どうしたんだ?何があった?リオ?」

リオは何も語らない。

ラグアルがリオを抱きしめようとするが、リオはそれを拒絶する。

「…リオ?」

呆然とするラグアルの横をすり抜けるように、リオは寝室に入るとそのまま寝台に潜り込んだ。

リオがラグアルを拒絶するのは初めてのことだ。

ラグアルはリオに付けた従者を呼び出した。

「…何があった?」

呼びつけられた2人の従者は震え上がった。

無表情に見据えるラグアルは、いつものラグアルとは違う。

すぐに答えられない2人に、一段と低い声が問い掛ける。

「何があった、と聞いているが?」

2人の従者は互いに見つめ合うと、恐る恐るその時の状況を語り始めた。

「……ユアンが?」

ユアンは2人のことを知らないだろうが、公爵家に仕えるものでユアンを知らない者はいない。

「…間違いないのか?」

「ま、間違いありません。ユアン様を見間違えるなど、決してございません!」

2人も驚いたのだ。なぜあの場にユアンが現れたのか。動揺し、引き止めることも出来なかった。

ラグアルは頭を抱えた。

噂では、王都を離れどこかで静養しているのではないかと耳にしていたが、実際、誰もその居場所を知る者はいなかった。

「…王都に、いたのか?」

「わ、わかりません。何も知りません!お止めできず、申し訳ございません!」

真っ青な顔色で謝り続ける従者たちの声はラグアルに届いていない。

「ユアンは、誰と、いた?」

2人は、ごくりと唾を飲み込んだ。

「おそらく、あの紋章は……」

ラグアルの圧に、2人の震えは止まらない。

「紋章は?」

「おそら、く……辺境の…」

「辺境?」

「…辺境の騎士が1人と…」

「他にも、いたのか?」

「…王弟でもある、辺境伯様かと、存じ上げます。」

「………まさか。なぜだ?」

「それは、存じ上げません……。ですが、あのお方は、間違いなく、そのお方だと。」

ラグアルは耳を疑った。

王宮ですれ違ったあの方と、ユアンが?

疑問ばかりが浮かび上がる。

ユアン……なぜ。なぜあの方と…。

ただ一つ、確かなことは、リオとユアンが偶然にもかち合ってしまったという事実だ。

「もう、下がっていい。」

2人の従者は逃げるようにその場を立ち去った。

ラグアルが寝室へ戻ると、リオは寝台に蹲ったまま振り返ることもない。

「…リオ。どうしたんだ?」

「…………。」

「リオ、ユアンと…」

がばりと、リオが起き上がった。

泣きそうな、睨むような、複雑な表情をしてラグアルを見上げる。

「ラグアル様は、わたしの、いや俺の好きな物が何か知ってる?」

今までのリオとは雰囲気が違う。

「リオ、何を……」

「俺は知ってる。ラグアル様は、少し脂っぽいのが苦手だろう。いつも脂身を残してる。あっさりとした魚や野菜の方が好きなんだ。それから、鮮やかな大輪の花より、鈴蘭みたいなひっそりとした花の方が好きだろ。それから、ユアン様が好きだった音楽が好きで、好きな色は、翡翠色で、ユアン様の色だ!」

「…………!」

ラグアルは初めてみるリオの姿に、驚きを隠せない。

「ラグアル様は、知ってる?俺が好きな物。」

ラグアルは何も答えられない。

言葉が出てこない。

「知らないだろ?知りたいとも思わないだろ?」

ふ、は、はっ、はははははははははは

リオは突然笑い出した。

「ラグアル様は運命の番だから俺を選んだだけなんだよ。ラグアル様の心の中には、いつだってユアン様がいるんだ。

俺が、どんなに頑張ったって、無理なんだ。ユアン様になんてなれない!」

「違う!リオ、わたしは…」

「ラグアル様は、まだユアン様を愛してる。」

「リオ……」

「…違うって、俺を愛してるって、愛してるのは俺だけだって、嘘でも言えばいいのに!」

「っ、リオ!」

「……ごめんなさい。ラグアル様。もう、無理です。もう、無理………」

リオの瞳から涙が溢れ出す。

抱きしめようとするラグアルをリオは振り払う。

「少し、1人に、して、ください。ごめん、なさい。」

ラグアルは、何も言う事ができなかった。

リオは、愛しい「運命の番」なのに。何も。

その日から誰も近づけようとせず、リオは1人部屋に閉じこもったまま寝込んでしまった。











しおりを挟む
感想 64

あなたにおすすめの小説

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

【bl】砕かれた誇り

perari
BL
アルファの幼馴染と淫らに絡んだあと、彼は医者を呼んで、私の印を消させた。 「来月結婚するんだ。君に誤解はさせたくない。」 「あいつは嫉妬深い。泣かせるわけにはいかない。」 「君ももう年頃の残り物のオメガだろ? 俺の印をつけたまま、他のアルファとお見合いするなんてありえない。」 彼は冷たく、けれどどこか薄情な笑みを浮かべながら、一枚の小切手を私に投げ渡す。 「長い間、俺に従ってきたんだから、君を傷つけたりはしない。」 「結婚の日には招待状を送る。必ず来て、席につけよ。」 --- いくつかのコメントを拝見し、大変申し訳なく思っております。 私は現在日本語を勉強しており、この文章はAI作品ではありませんが、 一部に翻訳ソフトを使用しています。 もし読んでくださる中で日本語のおかしな点をご指摘いただけましたら、 本当にありがたく思います。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。 2026/02/14 累計30万P突破御礼バレンタインSS追加しました 2026/02/15 累計いいね♡7777突破御礼SS 19時に公開します。 様々な形での応援ありがとうございます!

愛する公爵と番になりましたが、大切な人がいるようなので身を引きます

まんまる
BL
メルン伯爵家の次男ナーシュは、10歳の時Ωだと分かる。 するとすぐに18歳のタザキル公爵家の嫡男アランから求婚があり、あっという間に婚約が整う。 初めて会った時からお互い惹かれ合っていると思っていた。 しかしアランにはナーシュが知らない愛する人がいて、それを知ったナーシュはアランに離婚を申し出る。 でもナーシュがアランの愛人だと思っていたのは⋯。 執着系α×天然Ω 年の差夫夫のすれ違い(?)からのハッピーエンドのお話です。 Rシーンは※付けます ※画像は男の子メーカーpicrewさんよりお借りしました。

欠陥αは運命を追う

豆ちよこ
BL
「宗次さんから番の匂いがします」 従兄弟の番からそう言われたアルファの宝条宗次は、全く心当たりの無いその言葉に微かな期待を抱く。忘れ去られた記憶の中に、自分の求める運命の人がいるかもしれないーー。 けれどその匂いは日に日に薄れていく。早く探し出さないと二度と会えなくなってしまう。匂いが消える時…それは、番の命が尽きる時。 ※自己解釈・自己設定有り ※R指定はほぼ無し ※アルファ(攻め)視点

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。

ごろごろみかん。
恋愛
婚約者には、何よりも大切にしている義妹がいる、らしい。 ある日、私は階段から転がり落ち、目が覚めた時には全てを忘れていた。 対面した婚約者は、 「お前がどうしても、というからこの婚約を結んだ。そんなことも覚えていないのか」 ……とても偉そう。日記を見るに、以前の私は彼を慕っていたらしいけれど。 「階段から転げ落ちた衝撃であなたへの恋心もなくなったみたいです。ですから婚約は解消していただいて構いません。今まで無理を言って申し訳ありませんでした」 今の私はあなたを愛していません。 気弱令嬢(だった)シャーロットの逆襲が始まる。 ☆タイトルコロコロ変えてすみません、これで決定、のはず。 ☆商業化が決定したため取り下げ予定です(完結まで更新します)

処理中です...