運命と運命の人

なこ

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第10章

9

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「何をしに、ここへ来た。」

向かい合い、ラグアルを見据えるカイゼルの目は鋭く、その威圧に従者たちは怯む。

ラグアルでさえも、背筋がぞくっとする程の威圧だ。

思わず息を呑むラグアルに、カイゼルは冷たく言い放つ。

「返答次第では、今すぐにここから追い出す。」

「…急に先触れもなく訪れたことは、お詫び申し上げます。ですが、リオが、訪れていないでしょうか。」

「リオ…?」

カイゼルは怪訝そうに顔を顰める。

「わたしの、番です。数日前から姿を消しているのです…。」

「何故お前の番がここへ来るのだ。」

「それは……。」

「お前は、ユアンに会いに来たのではないのか?」

「違います!ユアンに会おうとしているのは、恐らく……。リオ、です。」

「だとしたら、それは何故だ?何故お前の番が、ユアンに会おうとする?お前に黙って消えてまで。」

「………………。」

リオはラグアルがユアンを愛していると思い込んでいる。そう思わせたのは自分だ。

追い詰められて、ユアンになろうとさえしている。

ユアンは、あのような見た目だが、芯はしっかりとしている。貴族社会で生きる術を知っている。

リオは、こんなにも脆かったのだ。

しっかりとしているように見えて、リオの心はとても脆いものだった。

___もう少しで、お返しできます…

何を返そうと…。まさか…。

「リオは、もしかしたら………」





リオは、これまで一度も見たことのない大雪に、身体を震わせた。

もう少し厚着してくれば良かった。

辺境伯の邸は高台にある。

あそこに、ユアン様がいる……

ざくざくと、転ばないよう慎重に歩みを進めていく。

一歩一歩、その歩みはとても遅い。

ふらふらと腹を抱えながら門の前に着くが、門番は不審なリオに顔を顰める。

「ユアン様に、お会いしたい…」

「何者だ?そう簡単にお会いできる方ではない。軽々しく名前を呼ぶな。」

門番はけんもほろろにリオを追い返そうとする。

「お願い、お願いします。ユアン様に……」

「だめだ。帰れ!ここを通すことはできない!」

ここまで来て帰る訳にはいかない。リオは必死に喰らいつくが、門番の守りは固い。

「お願いします!せめて、俺が来たと、そう伝えて下さい!」

「俺と言うが、お前の名は?ユアン様がお前を知っているとでも?」

リオは愕然とした。

ユアンはリオの名すら、知らないかもしれない。

「それでも、お願いします。一瞬でもいいから、ユアン様に……」

「何と言われようと、無理だ。帰れ。」

もう、無理なのだろうか。

ユアンに会うことすら、今のリオには出来ないのだろうか。

やっと、ここまで来たのに……。

「…………待って!追い返さないで!!」

遠くから、丸々と着膨れした人物が駆け寄ってくる。

「ユアン様!走らないでください!また転んでしまいます!」

「…ユアンさ、ま?」

はあはあと、白い息を吐きながら、ユアンはリオの元へと辿り着いた。

「……こんな薄着で、カイゼル様に叱られますよ。さあ、早く中に。」

ユアンは纏っていた真っ白なマントをリオへと掛けた。

目を見開くリオに、ユアンは優しく微笑む。



部屋に戻り、落ち着かない気持ちのまま、着膨れした服もそのままに、ユアンはそわそわとしていた。

カイゼルとラグアルは何を話しているのだろう。

ラグアルがここを訪れてきた目的が何なのか、何の検討もつかない。

ふいに、窓の外に目をやると、門番が誰かと揉み合っている。

バルコニーに出て、目を細めて確認すると、その姿には見覚えがあるような気がする。

ラグアルは一人でここに来たのだろうか?

番のあの子を、置いて?

あそこにいるのは、もしかして……

カイゼルに部屋から出ないよう言われていたが、ユアンは門へと駆け出した。

そこにいたのは、やはりリオだった。

追い返される前に間に合って、本当に良かった。

触れたリオの身体は完全に冷え切り、ぶるぶると震えているのが伝わる。

血の気のないぐらい、顔は真っ青だ。

その様子を遠くから見ていたマリやリヒトが、慌ててやって来る。

「ユアン様!部屋を出てはなりません!」

険しいリヒトの表情に対し、マリは驚いた表情をしている。

「ユアン様、その方……」

「マリも、知っているでしょう?」

「ユアン様、だめだよ、その方は…」

リヒトとマリと、困惑している門番にユアンは静かに微笑んだ。

「ぼくのの方だから。さあ、中に入りましょう。さん。」

止めようとするリヒトとマリをユアンは制した。

「カイゼル様には、わたしがお伝えします。こんなに震えてる。わたしの部屋へお連れします。」

普段のユアンからは想像もつかない、毅然とした態度だ。

リヒトもマリも従わざるを得ない、静かな迫力がそこにはある。

「さあ、行きましょう、さん。」

ユアンはにっこりと、微笑んだ。

ユアンに手をひかれるまま、リオは後をついて行く。

ユアンの手は、ほんのりと温かい。

掛けられたマントからは、ユアンの優しい香りがほのかに漂い、何よりも温かい。

ユアンはリオの名前を知っていた。

リオさんと、呼んでくれた。

リオに微笑んでくれた。

罵られても、帰れと言われてもしょうがないと覚悟していたのに。

いつからだろう、ずっとユアンに会いたかった。

ユアンが目の前にいる。

そう思うだけで、リオは涙がぽろぽろと溢れ出てくる。








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