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第10章
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「何をしに、ここへ来た。」
向かい合い、ラグアルを見据えるカイゼルの目は鋭く、その威圧に従者たちは怯む。
ラグアルでさえも、背筋がぞくっとする程の威圧だ。
思わず息を呑むラグアルに、カイゼルは冷たく言い放つ。
「返答次第では、今すぐにここから追い出す。」
「…急に先触れもなく訪れたことは、お詫び申し上げます。ですが、リオが、訪れていないでしょうか。」
「リオ…?」
カイゼルは怪訝そうに顔を顰める。
「わたしの、番です。数日前から姿を消しているのです…。」
「何故お前の番がここへ来るのだ。」
「それは……。」
「お前は、ユアンに会いに来たのではないのか?」
「違います!ユアンに会おうとしているのは、恐らく……。リオ、です。」
「だとしたら、それは何故だ?何故お前の番が、ユアンに会おうとする?お前に黙って消えてまで。」
「………………。」
リオはラグアルがユアンを愛していると思い込んでいる。そう思わせたのは自分だ。
追い詰められて、ユアンになろうとさえしている。
ユアンは、あのような見た目だが、芯はしっかりとしている。貴族社会で生きる術を知っている。
リオは、こんなにも脆かったのだ。
しっかりとしているように見えて、リオの心はとても脆いものだった。
___もう少しで、お返しできます…
何を返そうと…。まさか…。
「リオは、もしかしたら………」
リオは、これまで一度も見たことのない大雪に、身体を震わせた。
もう少し厚着してくれば良かった。
辺境伯の邸は高台にある。
あそこに、ユアン様がいる……
ざくざくと、転ばないよう慎重に歩みを進めていく。
一歩一歩、その歩みはとても遅い。
ふらふらと腹を抱えながら門の前に着くが、門番は不審なリオに顔を顰める。
「ユアン様に、お会いしたい…」
「何者だ?そう簡単にお会いできる方ではない。軽々しく名前を呼ぶな。」
門番はけんもほろろにリオを追い返そうとする。
「お願い、お願いします。ユアン様に……」
「だめだ。帰れ!ここを通すことはできない!」
ここまで来て帰る訳にはいかない。リオは必死に喰らいつくが、門番の守りは固い。
「お願いします!せめて、俺が来たと、そう伝えて下さい!」
「俺と言うが、お前の名は?ユアン様がお前を知っているとでも?」
リオは愕然とした。
ユアンはリオの名すら、知らないかもしれない。
「それでも、お願いします。一瞬でもいいから、ユアン様に……」
「何と言われようと、無理だ。帰れ。」
もう、無理なのだろうか。
ユアンに会うことすら、今のリオには出来ないのだろうか。
やっと、ここまで来たのに……。
「…………待って!追い返さないで!!」
遠くから、丸々と着膨れした人物が駆け寄ってくる。
「ユアン様!走らないでください!また転んでしまいます!」
「…ユアンさ、ま?」
はあはあと、白い息を吐きながら、ユアンはリオの元へと辿り着いた。
「……こんな薄着で、カイゼル様に叱られますよ。さあ、早く中に。」
ユアンは纏っていた真っ白なマントをリオへと掛けた。
目を見開くリオに、ユアンは優しく微笑む。
部屋に戻り、落ち着かない気持ちのまま、着膨れした服もそのままに、ユアンはそわそわとしていた。
カイゼルとラグアルは何を話しているのだろう。
ラグアルがここを訪れてきた目的が何なのか、何の検討もつかない。
ふいに、窓の外に目をやると、門番が誰かと揉み合っている。
バルコニーに出て、目を細めて確認すると、その姿には見覚えがあるような気がする。
ラグアルは一人でここに来たのだろうか?
番のあの子を、置いて?
あそこにいるのは、もしかして……
カイゼルに部屋から出ないよう言われていたが、ユアンは門へと駆け出した。
そこにいたのは、やはりリオだった。
追い返される前に間に合って、本当に良かった。
触れたリオの身体は完全に冷え切り、ぶるぶると震えているのが伝わる。
血の気のないぐらい、顔は真っ青だ。
その様子を遠くから見ていたマリやリヒトが、慌ててやって来る。
「ユアン様!部屋を出てはなりません!」
険しいリヒトの表情に対し、マリは驚いた表情をしている。
「ユアン様、その方……」
「マリも、知っているでしょう?」
「ユアン様、だめだよ、その方は…」
リヒトとマリと、困惑している門番にユアンは静かに微笑んだ。
「ぼくの知り合いの方だから。さあ、中に入りましょう。リオさん。」
止めようとするリヒトとマリをユアンは制した。
「カイゼル様には、わたしがお伝えします。こんなに震えてる。わたしの部屋へお連れします。」
普段のユアンからは想像もつかない、毅然とした態度だ。
リヒトもマリも従わざるを得ない、静かな迫力がそこにはある。
「さあ、行きましょう、リオさん。」
ユアンはにっこりと、微笑んだ。
ユアンに手をひかれるまま、リオは後をついて行く。
ユアンの手は、ほんのりと温かい。
掛けられたマントからは、ユアンの優しい香りがほのかに漂い、何よりも温かい。
ユアンはリオの名前を知っていた。
リオさんと、呼んでくれた。
リオに微笑んでくれた。
罵られても、帰れと言われてもしょうがないと覚悟していたのに。
いつからだろう、ずっとユアンに会いたかった。
ユアンが目の前にいる。
そう思うだけで、リオは涙がぽろぽろと溢れ出てくる。
向かい合い、ラグアルを見据えるカイゼルの目は鋭く、その威圧に従者たちは怯む。
ラグアルでさえも、背筋がぞくっとする程の威圧だ。
思わず息を呑むラグアルに、カイゼルは冷たく言い放つ。
「返答次第では、今すぐにここから追い出す。」
「…急に先触れもなく訪れたことは、お詫び申し上げます。ですが、リオが、訪れていないでしょうか。」
「リオ…?」
カイゼルは怪訝そうに顔を顰める。
「わたしの、番です。数日前から姿を消しているのです…。」
「何故お前の番がここへ来るのだ。」
「それは……。」
「お前は、ユアンに会いに来たのではないのか?」
「違います!ユアンに会おうとしているのは、恐らく……。リオ、です。」
「だとしたら、それは何故だ?何故お前の番が、ユアンに会おうとする?お前に黙って消えてまで。」
「………………。」
リオはラグアルがユアンを愛していると思い込んでいる。そう思わせたのは自分だ。
追い詰められて、ユアンになろうとさえしている。
ユアンは、あのような見た目だが、芯はしっかりとしている。貴族社会で生きる術を知っている。
リオは、こんなにも脆かったのだ。
しっかりとしているように見えて、リオの心はとても脆いものだった。
___もう少しで、お返しできます…
何を返そうと…。まさか…。
「リオは、もしかしたら………」
リオは、これまで一度も見たことのない大雪に、身体を震わせた。
もう少し厚着してくれば良かった。
辺境伯の邸は高台にある。
あそこに、ユアン様がいる……
ざくざくと、転ばないよう慎重に歩みを進めていく。
一歩一歩、その歩みはとても遅い。
ふらふらと腹を抱えながら門の前に着くが、門番は不審なリオに顔を顰める。
「ユアン様に、お会いしたい…」
「何者だ?そう簡単にお会いできる方ではない。軽々しく名前を呼ぶな。」
門番はけんもほろろにリオを追い返そうとする。
「お願い、お願いします。ユアン様に……」
「だめだ。帰れ!ここを通すことはできない!」
ここまで来て帰る訳にはいかない。リオは必死に喰らいつくが、門番の守りは固い。
「お願いします!せめて、俺が来たと、そう伝えて下さい!」
「俺と言うが、お前の名は?ユアン様がお前を知っているとでも?」
リオは愕然とした。
ユアンはリオの名すら、知らないかもしれない。
「それでも、お願いします。一瞬でもいいから、ユアン様に……」
「何と言われようと、無理だ。帰れ。」
もう、無理なのだろうか。
ユアンに会うことすら、今のリオには出来ないのだろうか。
やっと、ここまで来たのに……。
「…………待って!追い返さないで!!」
遠くから、丸々と着膨れした人物が駆け寄ってくる。
「ユアン様!走らないでください!また転んでしまいます!」
「…ユアンさ、ま?」
はあはあと、白い息を吐きながら、ユアンはリオの元へと辿り着いた。
「……こんな薄着で、カイゼル様に叱られますよ。さあ、早く中に。」
ユアンは纏っていた真っ白なマントをリオへと掛けた。
目を見開くリオに、ユアンは優しく微笑む。
部屋に戻り、落ち着かない気持ちのまま、着膨れした服もそのままに、ユアンはそわそわとしていた。
カイゼルとラグアルは何を話しているのだろう。
ラグアルがここを訪れてきた目的が何なのか、何の検討もつかない。
ふいに、窓の外に目をやると、門番が誰かと揉み合っている。
バルコニーに出て、目を細めて確認すると、その姿には見覚えがあるような気がする。
ラグアルは一人でここに来たのだろうか?
番のあの子を、置いて?
あそこにいるのは、もしかして……
カイゼルに部屋から出ないよう言われていたが、ユアンは門へと駆け出した。
そこにいたのは、やはりリオだった。
追い返される前に間に合って、本当に良かった。
触れたリオの身体は完全に冷え切り、ぶるぶると震えているのが伝わる。
血の気のないぐらい、顔は真っ青だ。
その様子を遠くから見ていたマリやリヒトが、慌ててやって来る。
「ユアン様!部屋を出てはなりません!」
険しいリヒトの表情に対し、マリは驚いた表情をしている。
「ユアン様、その方……」
「マリも、知っているでしょう?」
「ユアン様、だめだよ、その方は…」
リヒトとマリと、困惑している門番にユアンは静かに微笑んだ。
「ぼくの知り合いの方だから。さあ、中に入りましょう。リオさん。」
止めようとするリヒトとマリをユアンは制した。
「カイゼル様には、わたしがお伝えします。こんなに震えてる。わたしの部屋へお連れします。」
普段のユアンからは想像もつかない、毅然とした態度だ。
リヒトもマリも従わざるを得ない、静かな迫力がそこにはある。
「さあ、行きましょう、リオさん。」
ユアンはにっこりと、微笑んだ。
ユアンに手をひかれるまま、リオは後をついて行く。
ユアンの手は、ほんのりと温かい。
掛けられたマントからは、ユアンの優しい香りがほのかに漂い、何よりも温かい。
ユアンはリオの名前を知っていた。
リオさんと、呼んでくれた。
リオに微笑んでくれた。
罵られても、帰れと言われてもしょうがないと覚悟していたのに。
いつからだろう、ずっとユアンに会いたかった。
ユアンが目の前にいる。
そう思うだけで、リオは涙がぽろぽろと溢れ出てくる。
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