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第10章
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ユアンの私室は、温かく、落ち着いた雰囲気に包まれている。
ユアン様の香り………
ユアンのマントを纏い、ユアンの部屋にいる。
そして、ユアンがいる。
リオはまるで、ユアンになったような錯覚に陥いる。
「ここの寝台は一度も使っていないから、少し横になって休んでいてね。今、温かい飲み物を用意してもらうから。」
「あ、これ、お返ししないと…。」
リオは掛けられたマントを脱ごうとして、ユアンに止められた。
「もう少し身体が温まるまで、そのままで。」
「でも……。」
ユアンはもう一度マントを掛け直すと、楽にしていてと言い、部屋を出た。
部屋の外では執事が既に待機している。
「身体が冷え切っています。すぐに温かい飲み物を用意して下さい。客室をすぐに温めて整えるように。わたしは、カイゼル様にお知らせしてきます。」
「お部屋は準備を始めております。飲み物はわたくしがお届けしてもよろしいでしょうか。」
「ええ、お願いします。」
ユアンは執事のことを信頼している。リオのことは心配だが、今は一旦執事に任せておけば、間違いない。
どうしても、ラグアルに言いたいことがある。
カイゼルとラグアルがいるだろう応接の間へと、ユアンは足早に向かった。
扉を叩く音と共にユアンの声が響く。
「カイゼル様、ユアンです。わたしも同席してよろしいでしょうか。」
部屋にいるものとばかり思っていたユアンの突然の訪れに、カイゼルは顔を顰めた。
あれほど、部屋から出ないよう念を押したと言うのに。
「リオ様がいらっしゃっております。入ってもよろしいでしょうか。」
リオという言葉に、ラグアルがいち早く反応し、カイゼルに懇願の目を向ける。
長い長い溜め息の後、カイゼルはユアンの入室を許可した。
部屋へ入ってきたユアンは、ラグアルのことなど目に入らないように、カイゼルの隣りへと赴く。
「カイゼル様、部屋にいるよう申し付けられておりましたが、不測の事態がおきました。部屋を出たこと申し訳ございません。」
カイゼルの目を真っ直ぐに見つめ、それか深々と礼をした。
「…不測の事態とはなんだ?」
「ラグアル様の番様が先程こちらにいらっしゃいました。ラグアル様にお話しがございます。同席してもよろしいでしょうか。できれば、三人だけでお話しがしたいのです。」
「…そうか。わたしの隣りに。」
そう言いながら、カイゼルがラグアルの従者たちを一瞥すると、彼らはそれだけで部屋を出て行った。
部屋の中は、カイゼル、ラグアル、ユアンの三人だけだ。
カイゼルに導かれるまま、その隣りに腰を下ろし、ふうと息を整えると、ユアンは初めてラグアルへと視線を向けた。
「……ご無沙汰しております、ラグアル様。」
「………ユアン。」
二人が面と向かって対面するのは、いつぶりだろうか。
ユアンがラグアルへ別れを告げた、あの日以来のことだ。
あの頃より、ユアンは少し大人びて、仄かに色香が漂う。
あの頃と同じ、美しい顔なのに、ラグアルには悲壮感が漂う。
ユアンはラグアルへと静かに微笑んだ。
「ラグアル様。お聞かせ下さい。」
「何を…。」
「なぜリオ様はお一人でここまでいらしたのですか?」
「それ、は………。」
「なぜあのような姿で?あのように震え、たった一人でこちらへ?もし、わたしが気がつかなければ、今頃どうなっていたかわかりません。」
ユアンからは、静かな怒りが漂う。
カイゼルも初めて目にする姿だ。
「リオは、無事なんだろうか…。」
「ええ、今はわたしの部屋で休ませております。」
「……そうか、無事か、リオは、そうか…………よかった。無事で、よかっ、た。ありがとうユアン。」
ラグアルは安堵したのか、目頭を押さえ、しばらく動くことができなかった。
ユアンとカイゼルはその様子を静かに見守る。
「…リオは、わたしが、今だにユアンを愛していると、そう思い込んで、いる。確かに、わたしはユアンの事を、長い間忘れられずにいたんだ………。」
「っ、お前は、やはり!」
ラグアルへ飛び掛かろうとする勢いのカイゼルをユアンは制した。
「ですが、今は違いますよね。ラグアル様はリオ様を追いかけていらしたのでしょう。違いますか?」
「…そうだ。すまない、ユアン。わたしはやはり、リオを愛している。運命の番だからと、当たり前に思い過ぎていた。こうなって、やっとそれだけではない、リオが大切だと分かった。」
「お前は、ユアンを前に、それを今ここで言うのか!」
声を荒らげるカイゼルをユアンは宥めるように制する。
「いいんです。それでいいんですよ、カイゼル様。ぼくには、カイゼル様がいるから。」
「リオは、返そうとしていた。何のことだか、わたしにはわからなかった。何を返そうとしているのか、リオはおそらく、ユアンを……………わたしに、返そうとしている。」
「一体何を言っているんだ!」
立ち上がろうとするカイゼルにユアンが抱きつく。
「大丈夫です。大丈夫ですから、カイゼル様。今のラグアル様を見ていれば、わかります。ラグアル様はリオ様を本当に愛しています。」
ユアンはもう一度、ラグアルへと向き合った。
「ラグアル様、リオ様はずっと誤解したままなのですね。誤解を解こうとなさったのですか?」
「何度も愛していると、リオだけだと言っても、もう今のリオには、まるで響かない。どうしたらいいのか、わたしにはもう……。」
ラグアルは項垂れている。
「ラグアル様。わたしたちは、運命を、運命の番という存在を、安易に受け入れてしまいました。わたしも、ラグアル様も。わたしたちは、何も抗わなかった。そう思いませんか?」
ユアンが、ラグアルへと静かに語り始めた。
ユアン様の香り………
ユアンのマントを纏い、ユアンの部屋にいる。
そして、ユアンがいる。
リオはまるで、ユアンになったような錯覚に陥いる。
「ここの寝台は一度も使っていないから、少し横になって休んでいてね。今、温かい飲み物を用意してもらうから。」
「あ、これ、お返ししないと…。」
リオは掛けられたマントを脱ごうとして、ユアンに止められた。
「もう少し身体が温まるまで、そのままで。」
「でも……。」
ユアンはもう一度マントを掛け直すと、楽にしていてと言い、部屋を出た。
部屋の外では執事が既に待機している。
「身体が冷え切っています。すぐに温かい飲み物を用意して下さい。客室をすぐに温めて整えるように。わたしは、カイゼル様にお知らせしてきます。」
「お部屋は準備を始めております。飲み物はわたくしがお届けしてもよろしいでしょうか。」
「ええ、お願いします。」
ユアンは執事のことを信頼している。リオのことは心配だが、今は一旦執事に任せておけば、間違いない。
どうしても、ラグアルに言いたいことがある。
カイゼルとラグアルがいるだろう応接の間へと、ユアンは足早に向かった。
扉を叩く音と共にユアンの声が響く。
「カイゼル様、ユアンです。わたしも同席してよろしいでしょうか。」
部屋にいるものとばかり思っていたユアンの突然の訪れに、カイゼルは顔を顰めた。
あれほど、部屋から出ないよう念を押したと言うのに。
「リオ様がいらっしゃっております。入ってもよろしいでしょうか。」
リオという言葉に、ラグアルがいち早く反応し、カイゼルに懇願の目を向ける。
長い長い溜め息の後、カイゼルはユアンの入室を許可した。
部屋へ入ってきたユアンは、ラグアルのことなど目に入らないように、カイゼルの隣りへと赴く。
「カイゼル様、部屋にいるよう申し付けられておりましたが、不測の事態がおきました。部屋を出たこと申し訳ございません。」
カイゼルの目を真っ直ぐに見つめ、それか深々と礼をした。
「…不測の事態とはなんだ?」
「ラグアル様の番様が先程こちらにいらっしゃいました。ラグアル様にお話しがございます。同席してもよろしいでしょうか。できれば、三人だけでお話しがしたいのです。」
「…そうか。わたしの隣りに。」
そう言いながら、カイゼルがラグアルの従者たちを一瞥すると、彼らはそれだけで部屋を出て行った。
部屋の中は、カイゼル、ラグアル、ユアンの三人だけだ。
カイゼルに導かれるまま、その隣りに腰を下ろし、ふうと息を整えると、ユアンは初めてラグアルへと視線を向けた。
「……ご無沙汰しております、ラグアル様。」
「………ユアン。」
二人が面と向かって対面するのは、いつぶりだろうか。
ユアンがラグアルへ別れを告げた、あの日以来のことだ。
あの頃より、ユアンは少し大人びて、仄かに色香が漂う。
あの頃と同じ、美しい顔なのに、ラグアルには悲壮感が漂う。
ユアンはラグアルへと静かに微笑んだ。
「ラグアル様。お聞かせ下さい。」
「何を…。」
「なぜリオ様はお一人でここまでいらしたのですか?」
「それ、は………。」
「なぜあのような姿で?あのように震え、たった一人でこちらへ?もし、わたしが気がつかなければ、今頃どうなっていたかわかりません。」
ユアンからは、静かな怒りが漂う。
カイゼルも初めて目にする姿だ。
「リオは、無事なんだろうか…。」
「ええ、今はわたしの部屋で休ませております。」
「……そうか、無事か、リオは、そうか…………よかった。無事で、よかっ、た。ありがとうユアン。」
ラグアルは安堵したのか、目頭を押さえ、しばらく動くことができなかった。
ユアンとカイゼルはその様子を静かに見守る。
「…リオは、わたしが、今だにユアンを愛していると、そう思い込んで、いる。確かに、わたしはユアンの事を、長い間忘れられずにいたんだ………。」
「っ、お前は、やはり!」
ラグアルへ飛び掛かろうとする勢いのカイゼルをユアンは制した。
「ですが、今は違いますよね。ラグアル様はリオ様を追いかけていらしたのでしょう。違いますか?」
「…そうだ。すまない、ユアン。わたしはやはり、リオを愛している。運命の番だからと、当たり前に思い過ぎていた。こうなって、やっとそれだけではない、リオが大切だと分かった。」
「お前は、ユアンを前に、それを今ここで言うのか!」
声を荒らげるカイゼルをユアンは宥めるように制する。
「いいんです。それでいいんですよ、カイゼル様。ぼくには、カイゼル様がいるから。」
「リオは、返そうとしていた。何のことだか、わたしにはわからなかった。何を返そうとしているのか、リオはおそらく、ユアンを……………わたしに、返そうとしている。」
「一体何を言っているんだ!」
立ち上がろうとするカイゼルにユアンが抱きつく。
「大丈夫です。大丈夫ですから、カイゼル様。今のラグアル様を見ていれば、わかります。ラグアル様はリオ様を本当に愛しています。」
ユアンはもう一度、ラグアルへと向き合った。
「ラグアル様、リオ様はずっと誤解したままなのですね。誤解を解こうとなさったのですか?」
「何度も愛していると、リオだけだと言っても、もう今のリオには、まるで響かない。どうしたらいいのか、わたしにはもう……。」
ラグアルは項垂れている。
「ラグアル様。わたしたちは、運命を、運命の番という存在を、安易に受け入れてしまいました。わたしも、ラグアル様も。わたしたちは、何も抗わなかった。そう思いませんか?」
ユアンが、ラグアルへと静かに語り始めた。
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