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第10章
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「ラグアル様は、運命の番、リオ様に出会った瞬間からリオ様しか目に入らなくなったのでしょう?その惹かれ合う強制力がどれほどのものなのか、残念ながらわたしには、分かりません。」
ユアンが何を語ろうとしているのか、ラグアルとカイゼルは、ユアンの話しに聴き入る。
「ラグアル様は、一瞬でもわたしのことを想う瞬間はなかったのでしょうか?」
リオに溺れ、ユアンと対面するまで、ラグアルはユアンのことなど頭から消えていた。
「わたしたちは、三日後に婚姻を控えておりました。
愛し合っているものだと、信じておりました。
それなのに、わたしたちは、運命の番だからと、ただそれを受け入れてしまった。
ラグアル様がわたしを愛していたのなら、ラグアル様はその強制力に抗わねばなりませんでした。
そして、わたしは、ただ見ているだけではなく、ラグアル様を引き留めようと抗わねばならなかった。
たとえ、それがどんな結果になろうとも。」
ぱちぱちと、暖炉の炎が燃える音だけが、部屋には響いている。
ラグアルも、カイゼルも何も言うことができない。
「運命の番を前に、わたしたちは、あっさりとお互いを手放してしまいました。
その時に、ラグアル様とわたしの進むべき道は完全に別れてしまったのです。もう、決して交わることはありません。」
ふいに、ユアンは隣りのカイゼルへと顔を向け、その姿を確かめるように見つめると、ふわっと微笑んだ。
「ラグアル様、わたしは、ここにいるカイゼル様を愛しています。」
婚約時代、ラグアルに向けられていた微笑みは、今ではもうカイゼルにしか向けられない。
「もし、今、カイゼル様に運命の番が現れたら、わたしは抗います。抗って、抗って、それでもだめなら、その時は、殺してしまうかもしれません。」
もう一度、ラグアルへと向けられるその懐かしい翡翠の瞳は、真っ直ぐにラグアルを見据える。
「わたしにそれが現れたときは、カイゼル様に殺して欲しい。」
カイゼルは隣りのユアンの頬を撫でる。
「ユアン、殺しはしないと言っただろう。あまり物騒なことを言うな。閉じ込めると、そう言ったではないか。」
「そうでした。カイゼル様を閉じ込めるには、とても大きな部屋が必要になるでしょうね。」
ふふふと、笑うユアンは、穏やかな表情をしている。
それでも、その瞳はきっと本気だ。
隣りのカイゼルがどこまで本気に捉えているのかは、わからない。
ただ、もしその時が来たら、ユアンはきっと間違いなくそれをするだろう。
ラグアルは、そう確信した。
「ラグアル様とリオ様は運命の番です。だからもう、抗う必要はないのですか?」
ユアンは、ラグアルへと問い掛ける。
「ラグアル様のことを信じられなくなっているリオ様を、ただ見ているだけですか?どうしようと、困惑するだけなのですか?」
「……………………………。」
「ラグアル様がどんなにお辛くても、リオ様を愛しているならば、ラグアル様は抗うしかないのでは?
信じて貰えるまで、どんなことをしてでも。
それとも、ラグアル様のリオ様への想いはその程度のものですか?
運命の番とは、そんなものなのですか?」
ユアンの言葉は、ラグアルの胸へと鋭く突き刺ささる。
「どうなのです?ラグアル様?」
「………リオを愛している。たとえ、運命の番でなくとも。リオを守りたい。わたしには、リオが必要だ。」
「それを聞いて安心しました。では、参りましょう。」
ユアンは立ち上がり、座ったままの二人を急かす。
「さあ、リオ様の所へ戻りましょう。思いの外時間が掛かってしまいました。リオ様が心配です。」
先に立ち上がり、リオの元へ急ごうとするラグアルにユアンとカイゼルが続いた。
「あの、カイゼル様…。」
ユアンが、カイゼルの袖を引いて、ひそひそと囁く。
「リオ様に、カイゼル様から頂いたマントをお貸ししてしまいました。申し訳ありません…。」
「薄着だったのだろう。これから外に出るときは着込んで出るよう、ユアンが教えてやらねばな。」
「はい。そうですね、ふふふ。ありがとうございます。」
ユアンはそのままカイゼルの手を引き、自室へと急ぐ。
「リオ様に、ぼくの婚約者だと紹介しないと。愛している方だと言うのは、大袈裟でしょうか…」
「いや……。その方が、いいかもしれんな。」
過去に愛し合っていたユアンとラグアルを目の当たりにし、カイゼルは複雑な思いでいた。
二人は、確かに愛し合っていたと言う。
ラグアルは、ユアンに伝えていたはずだ。
カイゼルがまだ伝えることができずにいる、あの言葉を。
ユアンが何を語ろうとしているのか、ラグアルとカイゼルは、ユアンの話しに聴き入る。
「ラグアル様は、一瞬でもわたしのことを想う瞬間はなかったのでしょうか?」
リオに溺れ、ユアンと対面するまで、ラグアルはユアンのことなど頭から消えていた。
「わたしたちは、三日後に婚姻を控えておりました。
愛し合っているものだと、信じておりました。
それなのに、わたしたちは、運命の番だからと、ただそれを受け入れてしまった。
ラグアル様がわたしを愛していたのなら、ラグアル様はその強制力に抗わねばなりませんでした。
そして、わたしは、ただ見ているだけではなく、ラグアル様を引き留めようと抗わねばならなかった。
たとえ、それがどんな結果になろうとも。」
ぱちぱちと、暖炉の炎が燃える音だけが、部屋には響いている。
ラグアルも、カイゼルも何も言うことができない。
「運命の番を前に、わたしたちは、あっさりとお互いを手放してしまいました。
その時に、ラグアル様とわたしの進むべき道は完全に別れてしまったのです。もう、決して交わることはありません。」
ふいに、ユアンは隣りのカイゼルへと顔を向け、その姿を確かめるように見つめると、ふわっと微笑んだ。
「ラグアル様、わたしは、ここにいるカイゼル様を愛しています。」
婚約時代、ラグアルに向けられていた微笑みは、今ではもうカイゼルにしか向けられない。
「もし、今、カイゼル様に運命の番が現れたら、わたしは抗います。抗って、抗って、それでもだめなら、その時は、殺してしまうかもしれません。」
もう一度、ラグアルへと向けられるその懐かしい翡翠の瞳は、真っ直ぐにラグアルを見据える。
「わたしにそれが現れたときは、カイゼル様に殺して欲しい。」
カイゼルは隣りのユアンの頬を撫でる。
「ユアン、殺しはしないと言っただろう。あまり物騒なことを言うな。閉じ込めると、そう言ったではないか。」
「そうでした。カイゼル様を閉じ込めるには、とても大きな部屋が必要になるでしょうね。」
ふふふと、笑うユアンは、穏やかな表情をしている。
それでも、その瞳はきっと本気だ。
隣りのカイゼルがどこまで本気に捉えているのかは、わからない。
ただ、もしその時が来たら、ユアンはきっと間違いなくそれをするだろう。
ラグアルは、そう確信した。
「ラグアル様とリオ様は運命の番です。だからもう、抗う必要はないのですか?」
ユアンは、ラグアルへと問い掛ける。
「ラグアル様のことを信じられなくなっているリオ様を、ただ見ているだけですか?どうしようと、困惑するだけなのですか?」
「……………………………。」
「ラグアル様がどんなにお辛くても、リオ様を愛しているならば、ラグアル様は抗うしかないのでは?
信じて貰えるまで、どんなことをしてでも。
それとも、ラグアル様のリオ様への想いはその程度のものですか?
運命の番とは、そんなものなのですか?」
ユアンの言葉は、ラグアルの胸へと鋭く突き刺ささる。
「どうなのです?ラグアル様?」
「………リオを愛している。たとえ、運命の番でなくとも。リオを守りたい。わたしには、リオが必要だ。」
「それを聞いて安心しました。では、参りましょう。」
ユアンは立ち上がり、座ったままの二人を急かす。
「さあ、リオ様の所へ戻りましょう。思いの外時間が掛かってしまいました。リオ様が心配です。」
先に立ち上がり、リオの元へ急ごうとするラグアルにユアンとカイゼルが続いた。
「あの、カイゼル様…。」
ユアンが、カイゼルの袖を引いて、ひそひそと囁く。
「リオ様に、カイゼル様から頂いたマントをお貸ししてしまいました。申し訳ありません…。」
「薄着だったのだろう。これから外に出るときは着込んで出るよう、ユアンが教えてやらねばな。」
「はい。そうですね、ふふふ。ありがとうございます。」
ユアンはそのままカイゼルの手を引き、自室へと急ぐ。
「リオ様に、ぼくの婚約者だと紹介しないと。愛している方だと言うのは、大袈裟でしょうか…」
「いや……。その方が、いいかもしれんな。」
過去に愛し合っていたユアンとラグアルを目の当たりにし、カイゼルは複雑な思いでいた。
二人は、確かに愛し合っていたと言う。
ラグアルは、ユアンに伝えていたはずだ。
カイゼルがまだ伝えることができずにいる、あの言葉を。
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