運命と運命の人

なこ

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第10章

12

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ユアンの部屋には、執事が届けたであろう温かな飲み物が数口分減っただけ置かれており、リオの姿はなかった。

「…リオ?」

ラグアルの問い掛けに返事はなく、続き間であるカイゼルの部屋の方から、ことりと、音がする。

三人は顔を見合わせると、カイゼルの部屋へと足を踏み入れた。

リオは、カイゼルとユアンがいつも眠る寝台をぼうっと眺めている。

リオの表情は見えない。三人に背を向けるように、ただ立っている。

ユアンの白いマントを纏い、カイゼルの部屋に佇むリオは、まるでユアンのように見える。

「リオ!」

ラグアルの声にびくりと肩を震わせると、リオは振り向いた。

「…なぜ、ラグアル様が、ここに。」

「それは、わたしの台詞だろう。帰ろう、リオ。で帰ろう。リオ、無事で、本当によかった……。」

「…帰れない。もう帰る場所なんて、ない。」

「リオ………。」

リオは、ユアンとラグアルが並んで立つ姿を初めて目にした。

本当に、お似合いだ。

これが、本来の姿なんだ。

「ユアン様。ユアン様に、ラグアル様をお返しに来ました。今まで、ずっと、ごめんなさい。」

突然話しを振られ、ユアンは困惑した。

「何を言っているの?ぼくにはもう、婚約者がいる。ぼくはカイゼル様を愛してるの。ラグアル様を愛しているのは、リオさんでしょう?」

「違う!ユアン様だって、ラグアル様のこと、まだ愛してるはずだ!」

リオの剣幕に、三人は慄いた。

「とらないでって、そう言ったじゃないか!ラグアル様だって、ユアン、ユアンって、いつも寝言を言うぐらい、まだユアン様のこと愛してる!

みんな、嘘ばっかり!もう、いいんだよ!」

ユアンは息を呑んだ。

一瞬何のことだか、わからなかった。

、あの日ユアンは確かにそう言った。

カイゼルとて誤解していたのだ。リオがそう思うのも当然かもしれない。

をとらないで、と。

リオがこうなってしまった原因は、ラグアルだけではなかった。

自分が無意識に発したその言葉が、きっとさらにリオを追い詰めたのだと、ユアンは愕然とした。

「カイゼル、様?あの時は、助けてくれてありがとう。でも、ユアン様のこと、ラグアル様に返してあげて。お願い。」

リオはカイゼルへと詰め寄る。

「ユアンは、わたしのものだ。誰にも渡すつもりはない。」

カイゼルはそれに、無表情で答える。

?ものって、何?ユアン様はものじゃない!あなたは、ラグアル様ほどユアン様を愛してる?愛してるって、言い切れる?!」

無表情でいたカイゼルに、少しだけ微かな動揺が見て取れる。

「みんな、みんな、ユアン様がいいって言うんだね。」

リオは呆然と佇む三人に背を向けると、バルコニーへ続く扉を開いた。

部屋の中に、外の冷気が流れ込む。

リオは無意識に、ずっと腹をさすり続けている。

「ユアン様は、ここで寝て、こんな景色を見て、毎日過ごしているんだね。」

リオは白いマントを翻すように、二、三回、くるくると、回ってみせた。

「このマントも素敵だね。ユアン様に似合っている。こうしていたら、俺もユアン様みたいに見えるかなあ?」

とリオは笑っている。

「ラグアル様も、カイゼル様も、公爵家の人達も、いつも俺を見に来ていた貴族の人達も、みんな、みんな、ユアン様じゃなきゃだめなんだって。」

リオはお腹の子に話すように、ゆっくりと腹をさすり続けている。

じゃだめなんだ。ごめんな。」

空は青く澄んでいる。

リオは空を仰ぐ。

「ユアン様に、なりたかった。俺が、ユアン様だったら、よかったのに……」

「君は、君の気持ちはどうなるの!ラグアル様のこと愛しているんでしょう!それに、リオさんになれるのは、さんしかいないんだよ!」

どうしてリオは気が付かないんだろう。

ラグアルは、ユアンのことなど、全く目に入っていないというのに。

リオはずっとお腹をさすり続けている。

リオの中には………

「リオさん、部屋に戻ろう。それから、またゆっくりお話ししよう。ね、リオさ……」

リオへと近づくユアンの目の前で、空を見上げたままのリオの身体がふわっと後ろへ倒れ込む。

ああ、どうして…

きみの中には、もういるんでしょう……

大切な、命が………

離れゆくリオの腕をなんとか掴むと、引き戻す反動で、ユアンはくうに投げ出された。

駆け付けたカイゼルとラグアルが伸ばす手は、ユアンへと届かない。

「ユアン!!!!」

「ユアンっ!!!」




_____どすっ、と鈍い音が響く。





バルコニーの陰になり、その下は白く固まり氷と化している。

ユアンの身体は打ち付けられ、一度跳ね上がると、そのままぱたりと動かなくなった。

「ユアン様っ!」

「ユアンさま!!!」

リヒト、マリ、外にいた騎士達が叫びながら駆け寄る。

「ユアン様!!!」

「ユアンさまあああ!」

辺境の邸に、と呼ぶ叫び声が至る所から響き渡る。

倒れたユアンの身体からは、真っ赤な血がゆっくりと流れだし、血の溜まりとなっていく。

と幾重にも聞こえる声の中、リオは気を失った。

一人だけ、微かに、と叫ぶ声が聞こえている。

…?

違うよ。俺はなのに…。

















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