99 / 113
第10章
12
しおりを挟む
ユアンの部屋には、執事が届けたであろう温かな飲み物が数口分減っただけ置かれており、リオの姿はなかった。
「…リオ?」
ラグアルの問い掛けに返事はなく、続き間であるカイゼルの部屋の方から、ことりと、音がする。
三人は顔を見合わせると、カイゼルの部屋へと足を踏み入れた。
リオは、カイゼルとユアンがいつも眠る寝台をぼうっと眺めている。
リオの表情は見えない。三人に背を向けるように、ただ立っている。
ユアンの白いマントを纏い、カイゼルの部屋に佇むリオは、まるでユアンのように見える。
「リオ!」
ラグアルの声にびくりと肩を震わせると、リオは振り向いた。
「…なぜ、ラグアル様が、ここに。」
「それは、わたしの台詞だろう。帰ろう、リオ。二人で帰ろう。リオ、無事で、本当によかった……。」
「…帰れない。もう帰る場所なんて、ない。」
「リオ………。」
リオは、ユアンとラグアルが並んで立つ姿を初めて目にした。
本当に、お似合いだ。
これが、本来の姿なんだ。
「ユアン様。ユアン様に、ラグアル様をお返しに来ました。今まで、ずっと、ごめんなさい。」
突然話しを振られ、ユアンは困惑した。
「何を言っているの?ぼくにはもう、婚約者がいる。ぼくはカイゼル様を愛してるの。ラグアル様を愛しているのは、リオさんでしょう?」
「違う!ユアン様だって、ラグアル様のこと、まだ愛してるはずだ!」
リオの剣幕に、三人は慄いた。
「とらないでって、そう言ったじゃないか!ラグアル様だって、ユアン、ユアンって、いつも寝言を言うぐらい、まだユアン様のこと愛してる!
みんな、嘘ばっかり!もう、いいんだよ!」
ユアンは息を呑んだ。
一瞬何のことだか、わからなかった。
とらないで、あの日ユアンは確かにそう言った。
カイゼルとて誤解していたのだ。リオがそう思うのも当然かもしれない。
ラグアルをとらないで、と。
リオがこうなってしまった原因は、ラグアルだけではなかった。
自分が無意識に発したその言葉が、きっとさらにリオを追い詰めたのだと、ユアンは愕然とした。
「カイゼル、様?あの時は、助けてくれてありがとう。でも、ユアン様のこと、ラグアル様に返してあげて。お願い。」
リオはカイゼルへと詰め寄る。
「ユアンは、わたしのものだ。誰にも渡すつもりはない。」
カイゼルはそれに、無表情で答える。
「もの?ものって、何?ユアン様はものじゃない!あなたは、ラグアル様ほどユアン様を愛してる?愛してるって、言い切れる?!」
無表情でいたカイゼルに、少しだけ微かな動揺が見て取れる。
「みんな、みんな、ユアン様がいいって言うんだね。」
リオは呆然と佇む三人に背を向けると、バルコニーへ続く扉を開いた。
部屋の中に、外の冷気が流れ込む。
リオは無意識に、ずっと腹をさすり続けている。
「ユアン様は、ここで寝て、こんな景色を見て、毎日過ごしているんだね。」
リオは白いマントを翻すように、二、三回、くるくると、回ってみせた。
「このマントも素敵だね。ユアン様に似合っている。こうしていたら、俺もユアン様みたいに見えるかなあ?」
ふふふとリオは笑っている。
「ラグアル様も、カイゼル様も、公爵家の人達も、いつも俺を見に来ていた貴族の人達も、みんな、みんな、ユアン様じゃなきゃだめなんだって。」
リオはお腹の子に話すように、ゆっくりと腹をさすり続けている。
「リオじゃだめなんだ。ごめんな。」
空は青く澄んでいる。
リオは空を仰ぐ。
「ユアン様に、なりたかった。俺が、ユアン様だったら、よかったのに……」
「君は、君の気持ちはどうなるの!ラグアル様のこと愛しているんでしょう!それに、リオさんになれるのは、リオさんしかいないんだよ!」
どうしてリオは気が付かないんだろう。
ラグアルは、ユアンのことなど、全く目に入っていないというのに。
リオはずっとお腹をさすり続けている。
リオの中には………
「リオさん、部屋に戻ろう。それから、またゆっくりお話ししよう。ね、リオさ……」
リオへと近づくユアンの目の前で、空を見上げたままのリオの身体がふわっと後ろへ倒れ込む。
ああ、どうして…
きみの中には、もういるんでしょう……
大切な、命が………
離れゆくリオの腕をなんとか掴むと、引き戻す反動で、ユアンは空に投げ出された。
駆け付けたカイゼルとラグアルが伸ばす手は、ユアンへと届かない。
「ユアン!!!!」
「ユアンっ!!!」
_____どすっ、と鈍い音が響く。
バルコニーの陰になり、その下は白く固まり氷と化している。
ユアンの身体は打ち付けられ、一度跳ね上がると、そのままぱたりと動かなくなった。
「ユアン様っ!」
「ユアンさま!!!」
リヒト、マリ、外にいた騎士達が叫びながら駆け寄る。
「ユアン様!!!」
「ユアンさまあああ!」
辺境の邸に、ユアンと呼ぶ叫び声が至る所から響き渡る。
倒れたユアンの身体からは、真っ赤な血がゆっくりと流れだし、血の溜まりとなっていく。
ユアンと幾重にも聞こえる声の中、リオは気を失った。
一人だけ、微かに、リオと叫ぶ声が聞こえている。
リオ…?
違うよ。俺はユアンなのに…。
「…リオ?」
ラグアルの問い掛けに返事はなく、続き間であるカイゼルの部屋の方から、ことりと、音がする。
三人は顔を見合わせると、カイゼルの部屋へと足を踏み入れた。
リオは、カイゼルとユアンがいつも眠る寝台をぼうっと眺めている。
リオの表情は見えない。三人に背を向けるように、ただ立っている。
ユアンの白いマントを纏い、カイゼルの部屋に佇むリオは、まるでユアンのように見える。
「リオ!」
ラグアルの声にびくりと肩を震わせると、リオは振り向いた。
「…なぜ、ラグアル様が、ここに。」
「それは、わたしの台詞だろう。帰ろう、リオ。二人で帰ろう。リオ、無事で、本当によかった……。」
「…帰れない。もう帰る場所なんて、ない。」
「リオ………。」
リオは、ユアンとラグアルが並んで立つ姿を初めて目にした。
本当に、お似合いだ。
これが、本来の姿なんだ。
「ユアン様。ユアン様に、ラグアル様をお返しに来ました。今まで、ずっと、ごめんなさい。」
突然話しを振られ、ユアンは困惑した。
「何を言っているの?ぼくにはもう、婚約者がいる。ぼくはカイゼル様を愛してるの。ラグアル様を愛しているのは、リオさんでしょう?」
「違う!ユアン様だって、ラグアル様のこと、まだ愛してるはずだ!」
リオの剣幕に、三人は慄いた。
「とらないでって、そう言ったじゃないか!ラグアル様だって、ユアン、ユアンって、いつも寝言を言うぐらい、まだユアン様のこと愛してる!
みんな、嘘ばっかり!もう、いいんだよ!」
ユアンは息を呑んだ。
一瞬何のことだか、わからなかった。
とらないで、あの日ユアンは確かにそう言った。
カイゼルとて誤解していたのだ。リオがそう思うのも当然かもしれない。
ラグアルをとらないで、と。
リオがこうなってしまった原因は、ラグアルだけではなかった。
自分が無意識に発したその言葉が、きっとさらにリオを追い詰めたのだと、ユアンは愕然とした。
「カイゼル、様?あの時は、助けてくれてありがとう。でも、ユアン様のこと、ラグアル様に返してあげて。お願い。」
リオはカイゼルへと詰め寄る。
「ユアンは、わたしのものだ。誰にも渡すつもりはない。」
カイゼルはそれに、無表情で答える。
「もの?ものって、何?ユアン様はものじゃない!あなたは、ラグアル様ほどユアン様を愛してる?愛してるって、言い切れる?!」
無表情でいたカイゼルに、少しだけ微かな動揺が見て取れる。
「みんな、みんな、ユアン様がいいって言うんだね。」
リオは呆然と佇む三人に背を向けると、バルコニーへ続く扉を開いた。
部屋の中に、外の冷気が流れ込む。
リオは無意識に、ずっと腹をさすり続けている。
「ユアン様は、ここで寝て、こんな景色を見て、毎日過ごしているんだね。」
リオは白いマントを翻すように、二、三回、くるくると、回ってみせた。
「このマントも素敵だね。ユアン様に似合っている。こうしていたら、俺もユアン様みたいに見えるかなあ?」
ふふふとリオは笑っている。
「ラグアル様も、カイゼル様も、公爵家の人達も、いつも俺を見に来ていた貴族の人達も、みんな、みんな、ユアン様じゃなきゃだめなんだって。」
リオはお腹の子に話すように、ゆっくりと腹をさすり続けている。
「リオじゃだめなんだ。ごめんな。」
空は青く澄んでいる。
リオは空を仰ぐ。
「ユアン様に、なりたかった。俺が、ユアン様だったら、よかったのに……」
「君は、君の気持ちはどうなるの!ラグアル様のこと愛しているんでしょう!それに、リオさんになれるのは、リオさんしかいないんだよ!」
どうしてリオは気が付かないんだろう。
ラグアルは、ユアンのことなど、全く目に入っていないというのに。
リオはずっとお腹をさすり続けている。
リオの中には………
「リオさん、部屋に戻ろう。それから、またゆっくりお話ししよう。ね、リオさ……」
リオへと近づくユアンの目の前で、空を見上げたままのリオの身体がふわっと後ろへ倒れ込む。
ああ、どうして…
きみの中には、もういるんでしょう……
大切な、命が………
離れゆくリオの腕をなんとか掴むと、引き戻す反動で、ユアンは空に投げ出された。
駆け付けたカイゼルとラグアルが伸ばす手は、ユアンへと届かない。
「ユアン!!!!」
「ユアンっ!!!」
_____どすっ、と鈍い音が響く。
バルコニーの陰になり、その下は白く固まり氷と化している。
ユアンの身体は打ち付けられ、一度跳ね上がると、そのままぱたりと動かなくなった。
「ユアン様っ!」
「ユアンさま!!!」
リヒト、マリ、外にいた騎士達が叫びながら駆け寄る。
「ユアン様!!!」
「ユアンさまあああ!」
辺境の邸に、ユアンと呼ぶ叫び声が至る所から響き渡る。
倒れたユアンの身体からは、真っ赤な血がゆっくりと流れだし、血の溜まりとなっていく。
ユアンと幾重にも聞こえる声の中、リオは気を失った。
一人だけ、微かに、リオと叫ぶ声が聞こえている。
リオ…?
違うよ。俺はユアンなのに…。
37
あなたにおすすめの小説
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
【bl】砕かれた誇り
perari
BL
アルファの幼馴染と淫らに絡んだあと、彼は医者を呼んで、私の印を消させた。
「来月結婚するんだ。君に誤解はさせたくない。」
「あいつは嫉妬深い。泣かせるわけにはいかない。」
「君ももう年頃の残り物のオメガだろ? 俺の印をつけたまま、他のアルファとお見合いするなんてありえない。」
彼は冷たく、けれどどこか薄情な笑みを浮かべながら、一枚の小切手を私に投げ渡す。
「長い間、俺に従ってきたんだから、君を傷つけたりはしない。」
「結婚の日には招待状を送る。必ず来て、席につけよ。」
---
いくつかのコメントを拝見し、大変申し訳なく思っております。
私は現在日本語を勉強しており、この文章はAI作品ではありませんが、
一部に翻訳ソフトを使用しています。
もし読んでくださる中で日本語のおかしな点をご指摘いただけましたら、
本当にありがたく思います。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
番解除した僕等の末路【完結済・短編】
藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。
番になって数日後、「番解除」された事を悟った。
「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。
けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。
2026/02/14 累計30万P突破御礼バレンタインSS追加しました
2026/02/15 累計いいね♡7777突破御礼SS 19時に公開します。
様々な形での応援ありがとうございます!
愛する公爵と番になりましたが、大切な人がいるようなので身を引きます
まんまる
BL
メルン伯爵家の次男ナーシュは、10歳の時Ωだと分かる。
するとすぐに18歳のタザキル公爵家の嫡男アランから求婚があり、あっという間に婚約が整う。
初めて会った時からお互い惹かれ合っていると思っていた。
しかしアランにはナーシュが知らない愛する人がいて、それを知ったナーシュはアランに離婚を申し出る。
でもナーシュがアランの愛人だと思っていたのは⋯。
執着系α×天然Ω
年の差夫夫のすれ違い(?)からのハッピーエンドのお話です。
Rシーンは※付けます
※画像は男の子メーカーpicrewさんよりお借りしました。
欠陥αは運命を追う
豆ちよこ
BL
「宗次さんから番の匂いがします」
従兄弟の番からそう言われたアルファの宝条宗次は、全く心当たりの無いその言葉に微かな期待を抱く。忘れ去られた記憶の中に、自分の求める運命の人がいるかもしれないーー。
けれどその匂いは日に日に薄れていく。早く探し出さないと二度と会えなくなってしまう。匂いが消える時…それは、番の命が尽きる時。
※自己解釈・自己設定有り
※R指定はほぼ無し
※アルファ(攻め)視点
〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。
ごろごろみかん。
恋愛
婚約者には、何よりも大切にしている義妹がいる、らしい。
ある日、私は階段から転がり落ち、目が覚めた時には全てを忘れていた。
対面した婚約者は、
「お前がどうしても、というからこの婚約を結んだ。そんなことも覚えていないのか」
……とても偉そう。日記を見るに、以前の私は彼を慕っていたらしいけれど。
「階段から転げ落ちた衝撃であなたへの恋心もなくなったみたいです。ですから婚約は解消していただいて構いません。今まで無理を言って申し訳ありませんでした」
今の私はあなたを愛していません。
気弱令嬢(だった)シャーロットの逆襲が始まる。
☆タイトルコロコロ変えてすみません、これで決定、のはず。
☆商業化が決定したため取り下げ予定です(完結まで更新します)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる