運命と運命の人

なこ

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最終章

3

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深夜になっても、邸中の皆が見守り続ける中、カイゼルはずっとユアンに語り続けていた。

傍らにいる医者がユアンの脈を取りながら、居た堪れない表情で首を振る。

脈は少しずつ、弱まっている。

微かな脈すら、もう途絶え途絶えだ。

「……ユアン様に、お別れの、言葉を……」

ずっと語り続けていたカイゼルは息を呑んで固まる。

医者の言葉に、見守る人々の啜り泣く声が一際大きく響き渡る。

「だめ!まだ、あきらめないで!!カイゼル様、もっと、もっとユアン様を呼んで!!!」

マリが身を乗り出し、カイゼルに詰め寄ろうとする。

「やめろ、マリ、ユアン様はもう充分に頑張ったんだ!」

リヒトがマリを抑えつけ、止めようとする。

「だめ!まだ、だめ!カイゼル様の声なら、きっとユアン様に届くから!ユアン様はカイゼル様が戻ってくるまでずっと待っていたんだ!」

カイゼルが戻るまで、すでにユアンは堪えていた。

カイゼルが戻った途端、安心したのか弱り続ける一方だ。

「マリ、やめろ!これ以上は……もう、やめてくれ…」

マリを抑えつけるリヒトの声にも、嗚咽が混じる。

「お願い、カイゼル様!最後にもう一度でいい、ユアン様を呼んで!呼び戻してっ!!!」

泣き叫ぶマリに、啜り泣く声は鳴咽に変わる。

はっと我に返ったカイゼルは、ユアンに届くよう、声を張り上げて叫んだ。

「ユアン!戻って来い!わたしはここにいる!ユアン、聴こえているか!」

脈は、ぷつりと、途絶えた。

「ユアンっ!!!」

医者が臨終を告げようと口を開こうとした時、その身体は微かにぴくりと動いた。

カイゼルはそれを見逃さなかった。

「ユアン!ユアン!ユアンっ!!!」

驚く医者の前で、ユアンの口が微かに動く。

「……………み………ず……の、ど…」

傍らにずっと控えていた執事も、ユアンの微かな言葉を聞き逃さなかった。

震える手で、カイゼルに吸い飲みを渡す。

「ユアン、水か!水が欲しいのか!!」

急いでユアンの口元に水を注ぐが、水はたらたらと口から溢れ落ちるばかりだ。

みな、何が起こっているのかわからない。

固唾を飲んで、その状況を見守るしかない。

傍らにある水差しから、自らの口に水を含むと、カイゼルはゆっくりと、少しずつユアンの口にそれを注ぎ込んだ。

初めはたらたらと流れ落ちるだけだったそれは、少しずつユアンの中へ注ぎ込まれていく。

こくりと、僅かに喉元が上下する。

こくり、、、、こくり、、、と少しずつ。

カイゼルは何度も口に水を含んでは、ユアンへと注ぎ込む。

こくり、、こくり、こくり、、、

「んんっ……ふはっ…」

もう充分だと言わんばかりに顔を背けると、ユアンの瞳がゆっくりと開く。

そして、ゆっくりと、数回瞬きをし、カイゼルの姿をとらえる。

「……ふぅ……なんだ、か、いきかえっ、た、きぶ、ん、です…」

カイゼルの目の前には、カイゼルを不思議そうに見つめるユアンがいる。

「……カイゼル、さま?…ずっ、と、さがし、て、いたの…こんな…ちかく、に……」

「ユアン!戻って来たのか!ユアン、ユアンっ」

「だっ、て、ずっと、そば、にいる、て、やくそ、く……した、か、ら…」

ユアンが、生きている。動いている。

生きていて、自分へと話し掛けてくれる。

横たわったままのユアンを前に、カイゼルは号泣した。

誰の目を気にする事もなく、号泣した。

自分がこんな風に泣くなど、想像もつかなかった。

鳴咽と共に、溢れ出す涙が止まらない。

「…カイゼ、ル、さま?」

「ユアン、良かった。戻ってくれて、本当に……。愛してる。ユアン、愛してる。愛してるんだ…」

号泣するカイゼルに、ユアンは少し驚いた表情をして、それからふわっと微笑んだ。

「ぼく、も、あい、して、ます、よ…」

ふふふと笑う、いつものユアンだ。

見守っていた人々は歓喜の声を上げた。

ユアンが戻ってきた。

辺境に、この邸に、カイゼルの元に、ユアンが戻ってきた。

久しぶりに耳に届くユアンの声は、まだ弱々しく、辿々しいものだが、それでも、優しく響くユアンの声だ。

マリは座り込んだまま立ち上がることが出来ない。

安堵で、腰が抜けたままだ。

「…マリ、また、いい仕事をしたな。」

リヒトはマリを抱き上げた。

「よかった…ほんとに、よかった!リヒト、ユアン様が、戻ってきた……」

泣きじゃくるマリを抱え、リヒトはその場を後にした。

きっと、もう大丈夫だ。

他に見守っていた人々も、静かにその場を立ち去った。

ただ1人、まだ何が起こったのか分からない医者が、念のためにもう一度ユアンの脈を測ると、それはしっかりと脈打つものに変わっていた。

不思議そうに首を傾げる医者を執事が促し、部屋にはユアンとカイゼルだけが残された。

カイゼルはずっと号泣したままだ。

ユアンがそっと手を差し伸べると、その手を掴んで、顔を擦り付けたまま、号泣している。

「愛してる。愛してる。ユアン、愛してる。」

まるで一生分の愛を告げるかのように、カイゼルはユアンへと愛を伝え続ける。

そんなカイゼルを、ユアンは穏やかにずっと見つめている。

カイゼルから告げられた初めてのその言葉は、ユアンの傷付いた身体をゆっくりと、少しずつ癒してくれるかのように、身体の隅々まで染み渡っていく。

ぼくも、愛してる。

カイゼル様を、本当に、心から、愛しているよ…


















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