秘匿された第十王子は悪態をつく

なこ

文字の大きさ
23 / 102
黒髪の少年

22

しおりを挟む
「遅くなりました。すぐに朝食の準備を…。ずいぶんと、むくれておりますね。」

ルドルフが手際よく朝食の準備を整えてくれる。

「別に。お腹空いてないし。待ってないし。むくれてなんかいないぞ。」

お腹は空いているし、ずっと待っていた。それなのに、口から出るのは真逆の言葉だ。

「ユリウスを待っていたんですね。」

「別に。待ってないって言っただろ!」

ルドルフを責めてもしょうがないのに、つい責めるような強い口調になってしまう。

「王宮で色々ありまして…。とりあえず、召し上がって下さい。」

ルドルフの言葉は、どこか歯切れが悪い。そもそも色々って、漠然としすぎだろ。

「……ユリウスに、何かあったのか?」

「いえ。いや、そうですね。」

一体どっちなんだよ。

ルドルフは一緒に朝食を摂ることもなく、すぐにまた部屋を出て行ってしまった。

中途半端な状況報告が気になって、朝食どころじゃない。

手に取ったパンを一口だけ齧ると、窓辺に行って中庭を見渡す。今日に限ってどの窓も閉められたままで、母様たちの気配が感じられない。

やっぱり何かあったんだ。

こうしちゃいられない。今の状況はチャンスだ。

羽は以前失敗したが、一番単純な方法は試せていない。

寝室から掛け布を何枚も持ち出し、端と端を入念に結びつけると、一番大きなソファの足許にぐるぐるとまきつけ、またしっかりと結びつける。

うわあ、完璧なのでは?

掛け布の強度を確認して、窓から布を垂らしてみても、やっぱり誰も注意してくる人がいない。

念の為、フード付きのマントを羽織って、大きく深呼吸する。

大丈夫。行ける。

別に何処かに逃げ出すつもりじゃない。

ちょっと様子を見て、帰ってくればいい。

何が起こっているのか、確認して来るだけだ。

ユリウスに会いに行こうとしている訳じゃないからな!

ふんっ。

繋がった掛け布をロープ代わりに、ゆっくりと中庭に向かって降りて行く。

何度も母様たちの部屋の窓を確認したが、やっぱり誰も出てこない。

布の長さは十分じゃなかったが、これくらいなら簡単に飛び降りられる。

どんっと飛び降り空を仰ぎ見ると、中庭にいるのはやっぱり俺一人で、こんな簡単な方法でここまで降りられたことにひどく驚いた。

剣術大会のあの日に通った道順を思い出しながらなんとか門まで辿り着くと、さてどうしたものかと途方に暮れる。

そうだよな。

部屋を出ることばかりに気を取られ、門番の存在を忘れていた。

ここまで来て戻りたくなんかない。

「ユーリ!」

植栽の影に隠れ暫く悩んでいると、大きな呼び声が耳に響いてきた。

ユーリ……?

植栽の脇からそっと顔を出し、声の方に目を向けると、険しい顔をしたユリウスが早足でこちらに向かって来るのが見える。

試合中でさえ、いつもと同じ飄々とした様子だったのに、思わず尻込みしてしまうぐらい今の様子は険しい。

少し離れて後ろからついて来るのは、俺と同じ黒い髪をした見知らぬ奴だ。

「待って!ユーリ!」

後ろ姿しか見えないのに、二人の門番が驚いている様子が伝わって来る。

「何故待たねばならないのですか?それに、わたしの名はユーリではございません。」

門から少し離れた所で、ユリウスが振り返った。

「だって、どう見てもユーリだし。ねえ、ここは何処?ユーリもから来たんでしょう?お願いだから、ぼくも一緒に連れて行って。」

「何をお話しされているのか、理解できかねます。あなた様の件については、第一王子がなんとかなさるはずです。」

俺に背を向けたユリウスの表情は見えない。ユリウスが言うように、金髪の兄と数人の騎士が遅れてやって来た。

だいぶ慌てている。

少し離れた所にいるとは言え、思わず飛び出していた俺の姿など、誰の目にも入っていないようだ。

「いや、離して!ユーリといたい!こんな所でユーリに会えるなんて!」

嫌がるそいつは、兄と騎士達に王宮の方へと連れ去られて行った。

ずっとと叫び続けている。

ユーリ、だと?

俺でさえ、ユーリなんて慣れ慣れしく呼んだことなんてないぞ!

誰だよ、あいつ!

同じ黒髪だし!

門を通り抜けたユリウスと目が合う。

一瞬の瞬きの後、疾風が巻き起こったのかと思った。

あっという間に俺の元まで駆けつけ、何も言わずさっとローブに隠すよう抱きかかえる。

門番はきっと俺の存在に気がついていない。

「…ユリ…ウ」

「なぜですか?なぜここに?」

「それ、は…」

「何をなさるおつもりで?」

「……ウスが、」

「わたしが?」

淡々とした口調には、静かな怒りが感じられる。

お前が来ないからだろ。

なんでお前が怒ってるんだよ

それになんだよ、ユーリって……



























しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

主人公の義弟兼当て馬の俺は原作に巻き込まれないためにも旅にでたい

発光食品
BL
『リュミエール王国と光の騎士〜愛と魔法で世界を救え〜』 そんないかにもなタイトルで始まる冒険RPG通称リュミ騎士。結構自由度の高いゲームで種族から、地位、自分の持つ魔法、職業なんかを決め、好きにプレーできるということで人気を誇っていた。そんな中主人公のみに共通して持っている力は光属性。前提として主人公は光属性の力を使い、世界を救わなければいけない。そのエンドコンテンツとして、世界中を旅するも良し、結婚して子供を作ることができる。これまた凄い機能なのだが、この世界は女同士でも男同士でも結婚することが出来る。子供も光属性の加護?とやらで作れるというめちゃくちゃ設定だ。 そんな世界に転生してしまった隼人。もちろん主人公に転生したものと思っていたが、属性は闇。 あれ?おかしいぞ?そう思った隼人だったが、すぐそばにいたこの世界の兄を見て現実を知ってしまう。 「あ、こいつが主人公だ」 超絶美形完璧光属性兄攻め×そんな兄から逃げたい闇属性受けの繰り広げるファンタジーラブストーリー

【本編完結】最強魔導騎士は、騎士団長に頭を撫でて欲しい【番外編あり】

ゆらり
BL
 帝国の侵略から国境を守る、レゲムアーク皇国第一魔導騎士団の駐屯地に派遣された、新人の魔導騎士ネウクレア。  着任当日に勃発した砲撃防衛戦で、彼は敵の砲撃部隊を単独で壊滅に追いやった。  凄まじい能力を持つ彼を部下として迎え入れた騎士団長セディウスは、研究機関育ちであるネウクレアの独特な言動に戸惑いながらも、全身鎧の下に隠された……どこか歪ではあるが、純粋無垢であどけない姿に触れたことで、彼に対して強い庇護欲を抱いてしまう。  撫でて、抱きしめて、甘やかしたい。  帝国との全面戦争が迫るなか、ネウクレアへの深い想いと、皇国の守護者たる騎士としての責務の間で、セディウスは葛藤する。  独身なのに父性強めな騎士団長×不憫な生い立ちで情緒薄めな甘えたがり魔導騎士+仲が良すぎる副官コンビ。  甘いだけじゃない、骨太文体でお送りする軍記物BL小説です。番外は日常エピソード中心。ややダーク・ファンタジー寄り。  ※ぼかしなし、本当の意味で全年齢向け。 ★お気に入りやいいね、エールをありがとうございます! お気に召しましたらぜひポチリとお願いします。凄く励みになります!

婚約破棄された悪役令息は隣国の王子に持ち帰りされる

kouta
BL
婚約破棄された直後に前世の記憶を思い出したノア。 かつて遊んだことがある乙女ゲームの世界に転生したと察した彼は「あ、そういえば俺この後逆上して主人公に斬りかかった挙句にボコされて処刑されるんだったわ」と自分の運命を思い出す。 そしてメンタルがアラフォーとなった彼には最早婚約者は顔が良いだけの二股クズにしか見えず、あっさりと婚約破棄を快諾する。 「まぁ言うてこの年で婚約破棄されたとなると独身確定か……いっそのこと出家して、転生者らしくギルドなんか登録しちゃって俺TUEEE!でもやってみっか!」とポジティブに自分の身の振り方を考えていたノアだったが、それまでまるで接点のなかったキラキライケメンがグイグイ攻めてきて……「あれ? もしかして俺口説かれてます?」 おまけに婚約破棄したはずの二股男もなんかやたらと絡んでくるんですが……俺の冒険者ライフはいつ始まるんですか??(※始まりません)

【新版】転生悪役モブは溺愛されんでいいので死にたくない!

煮卵
BL
ゲーム会社に勤めていた俺はゲームの世界の『婚約破棄』イベントの混乱で殺されてしまうモブに転生した。 処刑の原因となる婚約破棄を避けるべく王子に友人として接近。 なんか数ヶ月おきに繰り返される「恋人や出会いのためのお祭り」をできる限り第二皇子と過ごし、 婚約破棄の原因となる主人公と出会うきっかけを徹底的に排除する。 最近では監視をつけるまでもなくいつも一緒にいたいと言い出すようになった・・・ やんごとなき血筋のハンサムな王子様を淑女たちから遠ざけ男の俺とばかり過ごすように 仕向けるのはちょっと申し訳ない気もしたが、俺の運命のためだ。仕方あるまい。 クレバーな立ち振る舞いにより、俺の死亡フラグは完全に回避された・・・ と思ったら、婚約の儀の当日、「私には思い人がいるのです」 と言いやがる!一体誰だ!? その日の夜、俺はゲームの告白イベントがある薔薇園に呼び出されて・・・ ーーーーーーーー この作品は以前投稿した「転生悪役モブは溺愛されんで良いので死にたくない!」に 加筆修正を加えたものです。 リュシアンの転生前の設定や主人公二人の出会いのシーンを追加し、 あまり描けていなかったキャラクターのシーンを追加しています。 展開が少し変わっていますので新しい小説として投稿しています。 続編出ました 転生悪役令嬢は溺愛されんでいいので推しカプを見守りたい! https://www.alphapolis.co.jp/novel/687110240/826989668 ーーーー 校正・文体の調整に生成AIを利用しています。

【本編完結】死に戻りに疲れた美貌の傾国王子、生存ルートを模索する

とうこ
BL
その美しさで知られた母に似て美貌の第三王子ツェーレンは、王弟に嫁いだ隣国で不貞を疑われ哀れ極刑に……と思ったら逆行!? しかもまだ夫選びの前。訳が分からないが、同じ道は絶対に御免だ。 「隣国以外でお願いします!」 死を回避する為に選んだ先々でもバラエティ豊かにkillされ続け、巻き戻り続けるツェーレン。これが最後と十二回目の夫となったのは、有名特殊な一族の三男、天才魔術師アレスター。 彼は婚姻を拒絶するが、ツェーレンが呪いを受けていると言い解呪を約束する。 いじられ体質の情けない末っ子天才魔術師×素直前向きな呪われ美形王子。 転移日本人を祖に持つグレイシア三兄弟、三男アレスターの物語。 小説家になろう様にも掲載しております。  ※本編完結。ぼちぼち番外編を投稿していきます。

【完結】双子の兄が主人公で、困る

  *  ゆるゆ
BL
『きらきら男は僕のモノ』公言する、ぴんくの髪の主人公な兄のせいで、見た目はそっくりだが質実剛健、ちいさなことからコツコツとな双子の弟が、兄のとばっちりで断罪されかけたり、 悪役令息からいじわるされたり 、逆ハーレムになりかけたりとか、ほんとに困る──! 伴侶(予定)いるので。……って思ってたのに……! 本編、両親にごあいさつ編、完結しました! おまけのお話を、時々更新しています。 本編以外はぜんぶ、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

ざこてん〜初期雑魚モンスターに転生した俺は、勇者にテイムしてもらう〜

キノア9g
BL
「俺の血を啜るとは……それほど俺を愛しているのか?」 (いえ、ただの生存戦略です!!) 【元社畜の雑魚モンスター(うさぎ)】×【勘違い独占欲勇者】 生き残るために媚びを売ったら、最強の勇者に溺愛されました。 ブラック企業で過労死した俺が転生したのは、RPGの最弱モンスター『ダーク・ラビット(黒うさぎ)』だった。 のんびり草を食んでいたある日、目の前に現れたのはゲーム最強の勇者・アレクセイ。 「経験値」として狩られる!と焦った俺は、生き残るために咄嗟の機転で彼と『従魔契約』を結ぶことに成功する。 「殺さないでくれ!」という一心で、傷口を舐めて契約しただけなのに……。 「魔物の分際で、俺にこれほど情熱的な求愛をするとは」 なぜか勇者様、俺のことを「自分に惚れ込んでいる健気な相棒」だと盛大に勘違い!? 勘違いされたまま、勇者の膝の上で可愛がられる日々。 捨てられないために必死で「有能なペット」を演じていたら、勇者の魔力を受けすぎて、なんと人間の姿に進化してしまい――!? 「もう使い魔の枠には収まらない。俺のすべてはお前のものだ」 ま、待ってください勇者様、愛が重すぎます! 元社畜の生存本能が生んだ、すれ違いと溺愛の異世界BLファンタジー!

「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。

キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ! あらすじ 「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」 貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。 冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。 彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。 「旦那様は俺に無関心」 そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。 バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!? 「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」 怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。 えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの? 実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった! 「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」 「過保護すぎて冒険になりません!!」 Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。 すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。

処理中です...