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母さんと母様
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「は!?」
「なっ!」
俺とルドルフが大きな声を出すと、母さんはいたずらそうに笑って見せた。
「当然だけど、陛下とナターシャ様を含め、妃たちは皆んな知っているよ。」
「は!?」
「なっ!」
もう一度二人の声が重なった。
「そんなに驚くことかい?だって、ノアも黒髪じゃないか。黒髪は渡り人特有の髪色なんだろう?」
母さまがルドルフに問いかけるが、ルドルフは動揺が隠しきれない様子だ。
「…過去には王族が渡り人を娶ったことがあると、文献に記載されております。渡り人の血を引き継ぐものが王族に現れてもおかしくありません。
ノア様は…特異な体質をお持ちですので、過去の王族がたの血を複雑に受け継いだのかと、勝手にそう解釈しておりました。」
特異な体質?初めて聞いたぞ。
俺の身体、どこか変なのかな?
だから、閉じ込められてるのか?
「ねえ、特異な体質って何?俺、なんか変な病気なの?早く死んじゃうとか?」
まだ死にたくない。まだまだ、たくさんしたいことあるし、俺が死んだらユリウスはあいつの護衛になってしまうかもしれない。
「も、申し訳ございません!ノア様!決してそのような!」
ルドルフが今度は顔面蒼白になって、慌てている。
これは、言っちゃいけないことだったのかもな。
「ふっ、ノア、何言ってるんだ。ノアが死ぬ訳ないだろう。こんなに可愛い子が死ぬなんて言っちゃだめだよ。さあ、隣においで。」
促されるまま母さんの隣りに座るが、なんせ居心地が悪い。黒髪黒目の母さんは初めてだし、素顔の母さんはびっくりするぐらい綺麗で、他の妃たちにも全くひけを取らないだろう。
「…頭、撫でないで。」
薬品でかぶれた手が、優しく頭を撫で回す。
「久しぶりに会うんだから、それにもっとよく顔を見せて。」
深く透明な黒い瞳が、俺の顔を覗き込んでくる。
「ノアの目は、陛下の色をよく受け継いでいるね。綺麗だ。黒髪と紫の瞳なんて、とてもエキゾチックで美しい。そう思わないかい?ねえ、ルドルフ?」
エキゾチックなんて言葉を聞いたことがない。ちらっとルドルフを見ると、きっとルドルフもそうだ。
「…エキゾ、は存じ上げませんが、ノア様は大変に美しく成長しております。」
美しい!?
ルドルフから美しいなんて言われると、痒い。身体がかゆかゆする。
「なんだよ、ルドルフ、美しいとか、気持ち悪いんだけど…」
今まで一度もそんなこと言ったことないくせに。ほんとは、思ってもいないだろうにさ。
「さあさあ、話しがまたそれてしまった。ノアと話していると、これだからいけないね。いつもこんな感じだから、わたしが渡り人だって言うのも、とうに話してしまっていたような気になっていたのかもしれない。」
ぽんぽんと手を叩いて、母さんが仕切り直してくれる。
「そうだよ!母さん、渡り人なの?マホと一緒!?」
「さっきから出てくる、マホと言う人の事を教えてくれるかい?ノアが話すと混乱するから、ルドルフから聴きたいな。」
母さんは向かいにルドルフを座らせ、寛いだ様子で話しに聞き入り始めた。
ルドルフの端的な話し方はとても分かりやすい。
母さんは余計なことは言わず、何度も頷きながら話を聞いていた。
「…へえ。そんなことがあったのか。」
ルドルフの話しが終わると、とんとんと人差し指を頬にあてながら、母さんは何かを考え込み始めた。
暫くの間、沈黙が続く。
「…聖女ねえ。悪い事したなあ。」
???
俺とルドルフが顔を見合わせて首を傾げる。
「ノアを孕っているとき、暇でさ、こうして異世界に来たんだからって、向こうで流行ってた小説の真似事みたいなのを描き始めたんだよ。」
ん?
「ノアも好きで読んでただろう。聖女が出てくる話し。」
んん?
「実際はこの国に聖女なんていなかったんだけど、なぜだか人気が出てさ、他の妃たちにも勧められて、こっそり本を出したら、これがまた売れてねえ。」
んんん?
「え、あれ母さんが書いたの?」
「そうだよ。向こうではありふれた話しだったのに、こちらでは新鮮だったようだ。」
「でも、きらきらしてたって!マホが手をかざすと、きらきらって!母さんもきらきらできるのか!?」
思わず立ち上がってしまった。
ルドルフは頷いている。
俺は見てないけど、ルドルフはきっと実際にその場で見ているはずだ。
「きらきらかあ…。最初はわたしも、そうなのかと勘違いしたんだ。マホという子が来て、どのくらいになる?」
「一月になろうかと…」
「じゃあ、そろそろ消えるよ。」
「消える?」
また俺とルドルフの声が重なる。
「きらきらなんて、一瞬だから。」
消える?
えええ、消えるの?
あいつのことは、きっと好きになれないだろうけど、きらきらは見たかったな。
「なんでそんなにがっかりしてるんだい。ノアは面白いなあ。」
くつくつと笑う母さんの声が部屋に響く中、ずっと待ち望んでいた別の声が響いた。
低く通る、落ち着いた声。
「ノア様」
ユリウスだ!
「なっ!」
俺とルドルフが大きな声を出すと、母さんはいたずらそうに笑って見せた。
「当然だけど、陛下とナターシャ様を含め、妃たちは皆んな知っているよ。」
「は!?」
「なっ!」
もう一度二人の声が重なった。
「そんなに驚くことかい?だって、ノアも黒髪じゃないか。黒髪は渡り人特有の髪色なんだろう?」
母さまがルドルフに問いかけるが、ルドルフは動揺が隠しきれない様子だ。
「…過去には王族が渡り人を娶ったことがあると、文献に記載されております。渡り人の血を引き継ぐものが王族に現れてもおかしくありません。
ノア様は…特異な体質をお持ちですので、過去の王族がたの血を複雑に受け継いだのかと、勝手にそう解釈しておりました。」
特異な体質?初めて聞いたぞ。
俺の身体、どこか変なのかな?
だから、閉じ込められてるのか?
「ねえ、特異な体質って何?俺、なんか変な病気なの?早く死んじゃうとか?」
まだ死にたくない。まだまだ、たくさんしたいことあるし、俺が死んだらユリウスはあいつの護衛になってしまうかもしれない。
「も、申し訳ございません!ノア様!決してそのような!」
ルドルフが今度は顔面蒼白になって、慌てている。
これは、言っちゃいけないことだったのかもな。
「ふっ、ノア、何言ってるんだ。ノアが死ぬ訳ないだろう。こんなに可愛い子が死ぬなんて言っちゃだめだよ。さあ、隣においで。」
促されるまま母さんの隣りに座るが、なんせ居心地が悪い。黒髪黒目の母さんは初めてだし、素顔の母さんはびっくりするぐらい綺麗で、他の妃たちにも全くひけを取らないだろう。
「…頭、撫でないで。」
薬品でかぶれた手が、優しく頭を撫で回す。
「久しぶりに会うんだから、それにもっとよく顔を見せて。」
深く透明な黒い瞳が、俺の顔を覗き込んでくる。
「ノアの目は、陛下の色をよく受け継いでいるね。綺麗だ。黒髪と紫の瞳なんて、とてもエキゾチックで美しい。そう思わないかい?ねえ、ルドルフ?」
エキゾチックなんて言葉を聞いたことがない。ちらっとルドルフを見ると、きっとルドルフもそうだ。
「…エキゾ、は存じ上げませんが、ノア様は大変に美しく成長しております。」
美しい!?
ルドルフから美しいなんて言われると、痒い。身体がかゆかゆする。
「なんだよ、ルドルフ、美しいとか、気持ち悪いんだけど…」
今まで一度もそんなこと言ったことないくせに。ほんとは、思ってもいないだろうにさ。
「さあさあ、話しがまたそれてしまった。ノアと話していると、これだからいけないね。いつもこんな感じだから、わたしが渡り人だって言うのも、とうに話してしまっていたような気になっていたのかもしれない。」
ぽんぽんと手を叩いて、母さんが仕切り直してくれる。
「そうだよ!母さん、渡り人なの?マホと一緒!?」
「さっきから出てくる、マホと言う人の事を教えてくれるかい?ノアが話すと混乱するから、ルドルフから聴きたいな。」
母さんは向かいにルドルフを座らせ、寛いだ様子で話しに聞き入り始めた。
ルドルフの端的な話し方はとても分かりやすい。
母さんは余計なことは言わず、何度も頷きながら話を聞いていた。
「…へえ。そんなことがあったのか。」
ルドルフの話しが終わると、とんとんと人差し指を頬にあてながら、母さんは何かを考え込み始めた。
暫くの間、沈黙が続く。
「…聖女ねえ。悪い事したなあ。」
???
俺とルドルフが顔を見合わせて首を傾げる。
「ノアを孕っているとき、暇でさ、こうして異世界に来たんだからって、向こうで流行ってた小説の真似事みたいなのを描き始めたんだよ。」
ん?
「ノアも好きで読んでただろう。聖女が出てくる話し。」
んん?
「実際はこの国に聖女なんていなかったんだけど、なぜだか人気が出てさ、他の妃たちにも勧められて、こっそり本を出したら、これがまた売れてねえ。」
んんん?
「え、あれ母さんが書いたの?」
「そうだよ。向こうではありふれた話しだったのに、こちらでは新鮮だったようだ。」
「でも、きらきらしてたって!マホが手をかざすと、きらきらって!母さんもきらきらできるのか!?」
思わず立ち上がってしまった。
ルドルフは頷いている。
俺は見てないけど、ルドルフはきっと実際にその場で見ているはずだ。
「きらきらかあ…。最初はわたしも、そうなのかと勘違いしたんだ。マホという子が来て、どのくらいになる?」
「一月になろうかと…」
「じゃあ、そろそろ消えるよ。」
「消える?」
また俺とルドルフの声が重なる。
「きらきらなんて、一瞬だから。」
消える?
えええ、消えるの?
あいつのことは、きっと好きになれないだろうけど、きらきらは見たかったな。
「なんでそんなにがっかりしてるんだい。ノアは面白いなあ。」
くつくつと笑う母さんの声が部屋に響く中、ずっと待ち望んでいた別の声が響いた。
低く通る、落ち着いた声。
「ノア様」
ユリウスだ!
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