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重い扉の外へ
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夕暮れ時が近づくにつれ、母様たちの慌ただしさは一段と増した。
ふりふりしてたり、レースがたくさんついていたり、ひらひらしてたり、そんな服は拒否して、結局さらさらとした着心地重視の服にしてもらった。
とっくに俺の準備はできている。
今は一人、部屋の中でぐうたらしているところだ。
こうしていると、いつもと変わらない。
ぎっーーーっと扉が開いて、今にもユリウスが夕飯を運んできてくれそうな気配がする。
ああ、ほらまさに扉が開くところだ。
「…ノア、準備は整っておるか?」
「ノア、そろそろ時間だよ。」
一妃と母さんを先頭に、そこにいたのはすっかり着飾った十人の妃たちだった。
後ろには、正装したユリウス。黒っぽい騎士服がよく似合っている。
「俺はとっくに準備万端だけど。もう、行くのか?」
「ああ、そうじゃ。そろそろ行かねばな。」
そうか、時間か。
窓辺に向かうと、ユリウスが近づいてきて、首を横に振る。
「ノア様、もう梯子は必要ございません。」
「え?だって、今から王宮に行くんだろ。」
梯子がなきゃ降りられないじゃないか。
「…ノア、もういいのじゃ。ユリウス、ノアをこちらへ。」
そうか、もう梯子を使わなくていいのか。結構気に入っていたのにな。
ユリウスに促されるまま、一妃の間向かいまで来ると、屈んだ一妃にそっと抱きしめられる。
それから、全員が一人ずつ抱きしめてくれた。
こんな風に抱きしめられるのは久しぶりで、照れ臭くて恥ずかしい。
皆んな、ふわふわといい匂いがした。
頭を撫でられたり、頬擦りされたり、九妃なんかは少し涙ぐんでいた。
「ノア、王宮ではもっとちゃんといい子にするんだよ。」
そう言って、最後に抱きしめてくれたのは母さんだ。
「さあ、今生の別れでもあるまいて。ノア、行くぞ。よいな。」
あ、本当に行くんだ。
剣術大会のときとは違う。今日は俺の姿のまま、本当にここから出られるんだ。
ユリウスが重い扉を開き、ぞろぞろと艶やかなドレスを身に纏った十人が部屋を出て行く。
「…ノア様、参りましょう。」
ユリウスが扉を開いたまま、心配そうに俺を見ているのが分かる。
なぜか躊躇して動けないままの俺を、先に行く十人も心配そうに振り返っている。
意を決して一歩、ニ歩とゆっくりと前に進むと、重い音をたてて扉が閉められた。
「ユリウス、お前も抱きしめるか?」
「…いえ、わたしは、」
手を伸ばしてみたものの軽く拒否され、ちっ、と舌打ちをしたら、七妃からぎろりと睨まれてしまった。
だってそういう流れだっただろ?
進まなきゃ行けないのに、足が重い。
立ち止まったままの俺にそっと触れて、ユリウスが背中を押してくれる。
「…恐れることなど、何もございません。参りましょう。」
ユリウスと視線を交わし、互いに頷き合うと、前を行く十人に足並みを揃えて俺も漸く歩き出した。
門番はいなく、代わりにルドルフが待ち構えており、そのまま歩みを進めて行く。
王宮までの回廊を進むが、誰もいない。
王宮に入っても、誰もいない。
想像していた様子とは異なり、進む道はどこもしんと静まり返っている。
今までいた後宮とは比べ物にならないぐらい広い回廊をどんどんと進んで行く。
誰も一言も話さない。
カツカツと足音だけが響く。
時折確認するようにユリウスを振り返ると、ユリウスは黙って頷いてくれた。
歩みを進める度に、少しずつ緊張が増していく中、先頭を行く一妃の足が止まったのは、一際豪奢な扉の前だ。
「ノア様、近くで控えておりますので、どうかご安心を。」
背後から囁くユリウスの声に、最後にもう一度と振り返ると、躊躇うように伸ばされた手が、本当に軽く、触れるか触れないかぐらいの感触で俺の頬に触れた。
「…うん。ちゃんとする。だからユリウスも安心して見守っていてくれ。」
ユリウスは少しだけ口角をあげて、また小さく頷いてくれた。
豪奢な扉が開かれると、そこには父さん、いや王と九人の王子たちが既にずらりと並んで席についていた。
長いテーブルの上には、豪華な食事が所狭しと用意してある。
夜だと言うのに、部屋の中は眩しいぐらい煌びやかだ。
最後尾にいた母さんと俺が入室すると、王子たちが目を丸くした。
息を呑む声が聞こえる。
…………………。
…………………いやいや、見過ぎだろ。
俺だって第一王子以外は初めてだけど、そんなあからさまに見ようとは思わないぞ。
特にその第一王子、なんでそんなにじっと見つめてくるんだ?
よく分からないけど、俺ってどこか変なのか?
特異体質?だからか?
ちらっと目をやった金髪きらきらの第一王子は、なぜだか以前より少しやつれているように見えた。
ふりふりしてたり、レースがたくさんついていたり、ひらひらしてたり、そんな服は拒否して、結局さらさらとした着心地重視の服にしてもらった。
とっくに俺の準備はできている。
今は一人、部屋の中でぐうたらしているところだ。
こうしていると、いつもと変わらない。
ぎっーーーっと扉が開いて、今にもユリウスが夕飯を運んできてくれそうな気配がする。
ああ、ほらまさに扉が開くところだ。
「…ノア、準備は整っておるか?」
「ノア、そろそろ時間だよ。」
一妃と母さんを先頭に、そこにいたのはすっかり着飾った十人の妃たちだった。
後ろには、正装したユリウス。黒っぽい騎士服がよく似合っている。
「俺はとっくに準備万端だけど。もう、行くのか?」
「ああ、そうじゃ。そろそろ行かねばな。」
そうか、時間か。
窓辺に向かうと、ユリウスが近づいてきて、首を横に振る。
「ノア様、もう梯子は必要ございません。」
「え?だって、今から王宮に行くんだろ。」
梯子がなきゃ降りられないじゃないか。
「…ノア、もういいのじゃ。ユリウス、ノアをこちらへ。」
そうか、もう梯子を使わなくていいのか。結構気に入っていたのにな。
ユリウスに促されるまま、一妃の間向かいまで来ると、屈んだ一妃にそっと抱きしめられる。
それから、全員が一人ずつ抱きしめてくれた。
こんな風に抱きしめられるのは久しぶりで、照れ臭くて恥ずかしい。
皆んな、ふわふわといい匂いがした。
頭を撫でられたり、頬擦りされたり、九妃なんかは少し涙ぐんでいた。
「ノア、王宮ではもっとちゃんといい子にするんだよ。」
そう言って、最後に抱きしめてくれたのは母さんだ。
「さあ、今生の別れでもあるまいて。ノア、行くぞ。よいな。」
あ、本当に行くんだ。
剣術大会のときとは違う。今日は俺の姿のまま、本当にここから出られるんだ。
ユリウスが重い扉を開き、ぞろぞろと艶やかなドレスを身に纏った十人が部屋を出て行く。
「…ノア様、参りましょう。」
ユリウスが扉を開いたまま、心配そうに俺を見ているのが分かる。
なぜか躊躇して動けないままの俺を、先に行く十人も心配そうに振り返っている。
意を決して一歩、ニ歩とゆっくりと前に進むと、重い音をたてて扉が閉められた。
「ユリウス、お前も抱きしめるか?」
「…いえ、わたしは、」
手を伸ばしてみたものの軽く拒否され、ちっ、と舌打ちをしたら、七妃からぎろりと睨まれてしまった。
だってそういう流れだっただろ?
進まなきゃ行けないのに、足が重い。
立ち止まったままの俺にそっと触れて、ユリウスが背中を押してくれる。
「…恐れることなど、何もございません。参りましょう。」
ユリウスと視線を交わし、互いに頷き合うと、前を行く十人に足並みを揃えて俺も漸く歩き出した。
門番はいなく、代わりにルドルフが待ち構えており、そのまま歩みを進めて行く。
王宮までの回廊を進むが、誰もいない。
王宮に入っても、誰もいない。
想像していた様子とは異なり、進む道はどこもしんと静まり返っている。
今までいた後宮とは比べ物にならないぐらい広い回廊をどんどんと進んで行く。
誰も一言も話さない。
カツカツと足音だけが響く。
時折確認するようにユリウスを振り返ると、ユリウスは黙って頷いてくれた。
歩みを進める度に、少しずつ緊張が増していく中、先頭を行く一妃の足が止まったのは、一際豪奢な扉の前だ。
「ノア様、近くで控えておりますので、どうかご安心を。」
背後から囁くユリウスの声に、最後にもう一度と振り返ると、躊躇うように伸ばされた手が、本当に軽く、触れるか触れないかぐらいの感触で俺の頬に触れた。
「…うん。ちゃんとする。だからユリウスも安心して見守っていてくれ。」
ユリウスは少しだけ口角をあげて、また小さく頷いてくれた。
豪奢な扉が開かれると、そこには父さん、いや王と九人の王子たちが既にずらりと並んで席についていた。
長いテーブルの上には、豪華な食事が所狭しと用意してある。
夜だと言うのに、部屋の中は眩しいぐらい煌びやかだ。
最後尾にいた母さんと俺が入室すると、王子たちが目を丸くした。
息を呑む声が聞こえる。
…………………。
…………………いやいや、見過ぎだろ。
俺だって第一王子以外は初めてだけど、そんなあからさまに見ようとは思わないぞ。
特にその第一王子、なんでそんなにじっと見つめてくるんだ?
よく分からないけど、俺ってどこか変なのか?
特異体質?だからか?
ちらっと目をやった金髪きらきらの第一王子は、なぜだか以前より少しやつれているように見えた。
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