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重い扉の外へ
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「さあ、家族全員が揃うのは初めてのことだ。こんなに嬉しいことはないよ。そう思うだろ?」
しんと静まり返り、なんとも言えない雰囲気なのに、父さんはただ一人楽しそうに笑っている。
「食事が冷めてしまうね。さあ、いただこうか。」
そう言って父さんがワインに口をつけると、晩餐が始まった。
流石にどの王子たちもマナーは完璧だ。
俺だって母様たちにみっちりと仕込まれているので、そこは問題ない。
もっと大勢の人がいるかと思っていたが、部屋には俺たち家族と、ルドルフ、ユリウスだけ。
少しほっとして、緊張も解れてくる。
ただなあ……。
なんて言うか……。
………静かだなあ。
これだけ人数がいるのに、ユリウスと二人だけで食事をしている時の方が、賑やかじゃないか?
賑やかっていうより、だいたい俺が一人で何か話してるんだけど。
入り口付近では、ルドルフとユリウスが待機している。
二人ともお腹空いてるんじゃないか。
一緒に食べられたらいいのに。
「…ノア、食欲がないように見えるけど、どうしたんだい?」
父さんが余計なことを言うので、全員の視線が一斉に俺に集中する。
「…え?いや、そんなこと…」
確かにいつもよりすすまない。
皿の上はほとんど手付かずだ。
視線が、特に王子たちからのそれが痛い。
「…ああ、そうだ。紹介が遅れたね。この黒髪の子は、第十王子でお前たちの末の弟になるノアだ。隣にいるニイナが母親で、第十妃になる。」
遅すぎるだろ。
兄さん達からしたら、誰だこいつって感じじゃないか。
「…父上、これは、どういうことでしょうか?母上は、知っていらしたのですか?」
ここに来て、父さん以外が初めて口を開いた。第一王子…面倒だから1番でいいか。
「シュヴァリエ、口を慎め。」
隣に座る一妃に嗜められ、1番はぐっと言葉を飲み込んでいるみたいだ。
だよな、いきなり現れて弟だって言われてもな。
今まで何処で何してたんだよって、思うよなあ。俺だって、よく分からないのに。
それにしても、金髪きらきらだな…。
…あ、目が合ってしまった。
「…その髪は、其方、まさか…」
苦虫でも潰したような顔をして、1番は俺から視線を外そうとしない。
「シュヴァリエ、見たままじゃないか。ニイナは黒髪だ。彼奴と同じ、彼奴より前に此処へ来た渡り人だ。ノアはその血を受け継いでいるんだよ。」
母様たちは素知らぬ素振りで淡々と食事を続けている。それぞれ隣りに座っている王子たちは、もう驚きを隠す様子もなく、純粋にただ驚いていると言った感じだ。
「ノアは、特異な体質でね。だからずっと療養させていたんだ。見てごらん、こんなにか細く小さいのに、他から害されるようなことがあったら大変だろう。」
…今までのあれは、療養だったのか?特異な体質って、やっぱり変な病気なんだろうか。
最近は鍛えているし、元気だし、細くて小さいとか言われるのは心外だ。
「ニイナもノアも、綺麗な黒髪だろう。…ああ、彼奴もそうであったな。なあ、シュヴァリエ。今日も今頃、何処ぞの夜会へと繰り出しているんじゃないか。」
彼奴って、マホのことか?
「ニイナは教会を拠点に、この国の医療に貢献している。これまでの渡り人も、何かしらこの国の発展に貢献してきた。彼奴はどうだ?何か、貢献しているか?」
父さんは笑顔だけど、目が笑っていない。
張り詰めた空気が、ひりひりと痛い。
「…………それは、」
1番は俯いて黙り込んでしまった。
「何も責めている訳じゃあない。ただ尋ねただけじゃないか。…ある意味貢献してくれているよ。わたしと、ノアのためにね。」
「は?え?…俺?」
急に矛先を向けられても…
なんで、俺?
「え、俺?」
思わずユリウスの方を振り返ってしまった。
ユリウスも少し驚いているようだ。
傍目に見ても分からないぐらいすんとしているけど、ずっと一緒にいた俺には分かる。
「マホのおかげで、やっといい相手が見つかりそうだ。」
「相手って……え、俺?」
父さんに顔を戻すと、父さんはいつもの重苦しい愛情いっぱいの笑顔で俺を見つめている。
「本当は誰にも渡したくないんだけど、しょうがないから諦めたよ。その代わり、いい相手が見つかりそうだ。」
「だから、何の話しだよ。」
1番以外の王子たちの視線が、俺と父さんを行き来しておろおろとしていたようだが、そんなの全く気が付かなかった。
「何って、ノアの婚約相手だよ。」
「………………はあああああ???」
せっかく大人しくしていたのに。
母さんは苦笑いで、母様たちは額に手を当てて大きくため息を吐いた。
しんと静まり返り、なんとも言えない雰囲気なのに、父さんはただ一人楽しそうに笑っている。
「食事が冷めてしまうね。さあ、いただこうか。」
そう言って父さんがワインに口をつけると、晩餐が始まった。
流石にどの王子たちもマナーは完璧だ。
俺だって母様たちにみっちりと仕込まれているので、そこは問題ない。
もっと大勢の人がいるかと思っていたが、部屋には俺たち家族と、ルドルフ、ユリウスだけ。
少しほっとして、緊張も解れてくる。
ただなあ……。
なんて言うか……。
………静かだなあ。
これだけ人数がいるのに、ユリウスと二人だけで食事をしている時の方が、賑やかじゃないか?
賑やかっていうより、だいたい俺が一人で何か話してるんだけど。
入り口付近では、ルドルフとユリウスが待機している。
二人ともお腹空いてるんじゃないか。
一緒に食べられたらいいのに。
「…ノア、食欲がないように見えるけど、どうしたんだい?」
父さんが余計なことを言うので、全員の視線が一斉に俺に集中する。
「…え?いや、そんなこと…」
確かにいつもよりすすまない。
皿の上はほとんど手付かずだ。
視線が、特に王子たちからのそれが痛い。
「…ああ、そうだ。紹介が遅れたね。この黒髪の子は、第十王子でお前たちの末の弟になるノアだ。隣にいるニイナが母親で、第十妃になる。」
遅すぎるだろ。
兄さん達からしたら、誰だこいつって感じじゃないか。
「…父上、これは、どういうことでしょうか?母上は、知っていらしたのですか?」
ここに来て、父さん以外が初めて口を開いた。第一王子…面倒だから1番でいいか。
「シュヴァリエ、口を慎め。」
隣に座る一妃に嗜められ、1番はぐっと言葉を飲み込んでいるみたいだ。
だよな、いきなり現れて弟だって言われてもな。
今まで何処で何してたんだよって、思うよなあ。俺だって、よく分からないのに。
それにしても、金髪きらきらだな…。
…あ、目が合ってしまった。
「…その髪は、其方、まさか…」
苦虫でも潰したような顔をして、1番は俺から視線を外そうとしない。
「シュヴァリエ、見たままじゃないか。ニイナは黒髪だ。彼奴と同じ、彼奴より前に此処へ来た渡り人だ。ノアはその血を受け継いでいるんだよ。」
母様たちは素知らぬ素振りで淡々と食事を続けている。それぞれ隣りに座っている王子たちは、もう驚きを隠す様子もなく、純粋にただ驚いていると言った感じだ。
「ノアは、特異な体質でね。だからずっと療養させていたんだ。見てごらん、こんなにか細く小さいのに、他から害されるようなことがあったら大変だろう。」
…今までのあれは、療養だったのか?特異な体質って、やっぱり変な病気なんだろうか。
最近は鍛えているし、元気だし、細くて小さいとか言われるのは心外だ。
「ニイナもノアも、綺麗な黒髪だろう。…ああ、彼奴もそうであったな。なあ、シュヴァリエ。今日も今頃、何処ぞの夜会へと繰り出しているんじゃないか。」
彼奴って、マホのことか?
「ニイナは教会を拠点に、この国の医療に貢献している。これまでの渡り人も、何かしらこの国の発展に貢献してきた。彼奴はどうだ?何か、貢献しているか?」
父さんは笑顔だけど、目が笑っていない。
張り詰めた空気が、ひりひりと痛い。
「…………それは、」
1番は俯いて黙り込んでしまった。
「何も責めている訳じゃあない。ただ尋ねただけじゃないか。…ある意味貢献してくれているよ。わたしと、ノアのためにね。」
「は?え?…俺?」
急に矛先を向けられても…
なんで、俺?
「え、俺?」
思わずユリウスの方を振り返ってしまった。
ユリウスも少し驚いているようだ。
傍目に見ても分からないぐらいすんとしているけど、ずっと一緒にいた俺には分かる。
「マホのおかげで、やっといい相手が見つかりそうだ。」
「相手って……え、俺?」
父さんに顔を戻すと、父さんはいつもの重苦しい愛情いっぱいの笑顔で俺を見つめている。
「本当は誰にも渡したくないんだけど、しょうがないから諦めたよ。その代わり、いい相手が見つかりそうだ。」
「だから、何の話しだよ。」
1番以外の王子たちの視線が、俺と父さんを行き来しておろおろとしていたようだが、そんなの全く気が付かなかった。
「何って、ノアの婚約相手だよ。」
「………………はあああああ???」
せっかく大人しくしていたのに。
母さんは苦笑いで、母様たちは額に手を当てて大きくため息を吐いた。
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