秘匿された第十王子は悪態をつく

なこ

文字の大きさ
63 / 102
シオン

61

しおりを挟む
断るつもりではいたが、シュヴァリエの態度と父の面目を考え、さてどうしたものかと逡巡しながら顔合わせの場へと向かう。

陛下とルドルフ様はいらしたが、肝心の第十王子はまだ到着していない。

シュヴァリエを筆頭に、第一王子から第三王子、そしてシュヴァリエの元婚約者と婚約した第四王子まではすぐに顔が浮かぶ。

第五王子以降がどのような方たちだったか、なんとか思いだそうと努力したが、結局ぼんやりとしか思い浮かべることが出来なかった。

そろそろ到着しても良さそうなものの、まだ姿を現さない。

実の父親とは言え陛下をこのようにお待たせする王子など、たかがしれている。

余程の世間知らずか、いまだ病で床に伏せたままか。

貧乏くじを引くとは正にこういうことだ。

隣に立つ父の薄くなった髪を眺めながら、断り文句は何にしようかとそればかりを考えていると、低く通る声が響き待ち人の到来を伝えた。

聞き覚えのある声は、ユリウス様のものだ。

団長の任を解かれ、今は秘密裏に行われている重大な任務を任されているのではないかと噂されていた。

騎士団の中には、貴族としての家格が低いという理由だけでユリウス様を蔑む者たちがいる。

彼らはユリウス様の実力を全く理解していない。

冷静な判断と的確な指示、そしてあの剣の腕前はきっとルドルフ様でも敵わないはずだ。

剣を挟んでユリウス様と向かい合うと、積み重ねてきた経験の差を痛感する。

歳上といってもたかが数年だけであるのに、ユリウス様には長く深い歴史の流れのような風格が漂っていた。

なぜここにユリウス様が?

ユリウス様が道を開け脇に控えると、漆黒で艶やかな髪を緩く纏め上げた華奢な人物が姿を現した。

小柄で華奢ではあるが足取りはしっかりとしている。そこに病故の弱々しさは感じられない。

前を見据えたまますうっと我々の前を通り過ぎ、陛下の横へと腰を下ろす。

正面を向いて、ちらりとこちらを一瞥したその姿に、父とわたしは言葉を失った。

それはまるで、完成された一つの美術品のようであった。

日焼けなど知らない真っ白な肌は艶やかで、薄紫色の瞳には長い睫毛が深く影を落とす。

紅を刺した様に赤く色づく小さな口が、隣に並ぶ陛下に一言二言何かを話しかけている。

動いているからこそ、この方が生きた人物であると理解でき、そしてまたこのような方が実在することに、わたしたち親子は絶句した。




「…ずいぶん遅かったじゃないか。断られて落ち込んでいたのか?」

部屋に戻るとシュヴァリエがすでに待ち構えていた。

「勝手に入るなと言ってるだろう。」

「ふん。お前とわたしの間柄だ。そんなの今更だろう。」

侍女から用意された茶を飲みながら、シュヴァリエはすっかり寛いでいる様子だ。

ここはわたしの部屋なんだが。

「想像していた姿とは全く違った…。あの見た目はある意味凶器だ。」

「…それは、どういう意味だ?」

父の狼狽した姿を思い出すと、今でも笑いが込み上げてくる。

「ノア様は、なぜか父上ばかりにちらちらと目をやって、終いには微笑みかけるものだから、父上が卒倒しかけて大変だったんだ。」

「…ノアが?」

「ああ。父上のことを婚約者だと勘違いされては困ると、初めは正直焦ったよ。」

「…まさか、流石にそれはないだろう。」

「まあな。」

それでもあの態度の意味がわからず、思い出すだけで可笑しくてしょうがない。

つられてシュヴァリエも笑い出した。

あの陛下すら、声に出して笑っていた。

「あの子は、面白い子だろう?」

「ああ。とても気に入ったよ。」

シュヴァリエが真顔に戻る。

「…気に入った?お前まさか…。」

「すぐにとは言わないが、いずれ婚約して欲しいと申し込んだ。今は他に気になる相手がいるようだが、それでも結局わたしを選ぶことになるさ。」

ノア様のユリウス様への態度は誰が見ても明らかなぐらい分かりやすかった。

仮病を使ってユリウス様に抱き上げられた時の、してやったり風な顔は忘れられない。

黙っていれば神の化身のような姿なのに、ちょっとした動きや仕草、態度や口調は全て人間味溢れる素直さだ。

一旦人前に出れば、あっという間に周囲を魅了し尽くすだろう。

「…随分と自信があるようだが、断ると言っていなかったか?」

シュヴァリエの声色が変わる。

「護衛としてずっとユリウス様といたんだ。ユリウス様しか知らないのだから、今はあれでしょうがないだろう。これからはわたしにも分があると思わないか?」

「…惚れたのか。」

「惚れるなんて、薄っぺらい言葉では言い表せないさ。ノア様への想いを例えるなら、崇めるといった感じに近いかもしれない。」

「お前、何か企んでいるんじゃないのか。」

「そんな訳ないだろう。陛下からのご指名だ。わたしとノア様の婚約に、なぜお前が反対するんだ?…ああ、そうか。マホはユリウス様を慕っていたよな。ノア様とユリウス様が結ばれれば、マホは諦めざるを得ないもんな。」

シュヴァリエの表情に溜飲が下がる。

いつも余裕そうに振る舞うすました表情より、この方がずっと好ましい。

ぎろりと睨みを効かせると、シュヴァリエは部屋を出て行った。

少し言い過ぎたか?

いや、あれぐらい言わせてもらないとな。

置き去りにされたシュヴァリエの飲みかけの茶をそのまま全部飲み干す。

それにしても、一番分からないのはユリウス様だ。

あの方の考えだけは、想像のしようがない。










しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

あと一度だけでもいいから君に会いたい

藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。 いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。 もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。 ※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります

好きな人がカッコ良すぎて俺はそろそろ天に召されるかもしれない

豆ちよこ
BL
男子校に通う棚橋学斗にはとってもとっても気になる人がいた。同じクラスの葛西宏樹。 とにかく目を惹く葛西は超絶カッコいいんだ! 神様のご褒美か、はたまた気紛れかは知らないけど、隣同士の席になっちゃったからもう大変。ついつい気になってチラチラと見てしまう。 そんな学斗に、葛西もどうやら気付いているようで……。 □チャラ王子攻め □天然おとぼけ受け □ほのぼのスクールBL タイトル前に◆◇のマークが付いてるものは、飛ばし読みしても問題ありません。 ◆…葛西視点 ◇…てっちゃん視点 pixivで連載中の私のお気に入りCPを、アルファさんのフォントで読みたくてお引越しさせました。 所々修正と大幅な加筆を加えながら、少しづつ公開していこうと思います。転載…、というより筋書きが同じの、新しいお話になってしまったかも。支部はプロット、こちらが本編と捉えて頂けたら良いかと思います。

裏乙女ゲー?モブですよね? いいえ主人公です。

みーやん
BL
何日の時をこのソファーと過ごしただろう。 愛してやまない我が妹に頼まれた乙女ゲーの攻略は終わりを迎えようとしていた。 「私の青春学園生活⭐︎星蒼山学園」というこのタイトルの通り、女の子の主人公が学園生活を送りながら攻略対象に擦り寄り青春という名の恋愛を繰り広げるゲームだ。ちなみに女子生徒は全校生徒約900人のうち主人公1人というハーレム設定である。 あと1ヶ月後に30歳の誕生日を迎える俺には厳しすぎるゲームではあるが可愛い妹の為、精神と睡眠を削りながらやっとの思いで最後の攻略対象を攻略し見事クリアした。 最後のエンドロールまで見た後に 「裏乙女ゲームを開始しますか?」 という文字が出てきたと思ったら目の視界がだんだんと狭まってくる感覚に襲われた。  あ。俺3日寝てなかったんだ… そんなことにふと気がついた時には視界は完全に奪われていた。 次に目が覚めると目の前には見覚えのあるゲームならではのウィンドウ。 「星蒼山学園へようこそ!攻略対象を攻略し青春を掴み取ろう!」 何度見たかわからないほど見たこの文字。そして気づく現実味のある体感。そこは3日徹夜してクリアしたゲームの世界でした。 え?意味わかんないけどとりあえず俺はもちろんモブだよね? これはモブだと勘違いしている男が実は主人公だと気付かないまま学園生活を送る話です。

【完結】君を上手に振る方法

社菘
BL
「んー、じゃあ俺と付き合う?」 「………はいっ?」 ひょんなことから、入学して早々距離感バグな見知らぬ先輩にそう言われた。 スクールカーストの上位というより、もはや王座にいるような学園のアイドルは『告白を断る理由が面倒だから、付き合っている人がほしい』のだそう。 お互いに利害が一致していたので、付き合ってみたのだが―― 「……だめだ。僕、先輩のことを本気で……」 偽物の恋人から始まった不思議な関係。 デートはしたことないのに、キスだけが上手くなる。 この関係って、一体なに? 「……宇佐美くん。俺のこと、上手に振ってね」 年下うさぎ顔純粋男子(高1)×精神的優位美人男子(高3)の甘酸っぱくじれったい、少しだけ切ない恋の話。 ✧毎日2回更新中!ボーナスタイムに更新予定✧ ✧お気に入り登録・各話♡・エール📣作者大歓喜します✧

【8+2話完結】氷の貴公子の前世は平社員〜不器用な恋の行方〜

キノア9g
BL
氷の貴公子と称えられるユリウスには、人に言えない秘めた想いがある――それは幼馴染であり、忠実な近衛騎士ゼノンへの片想い。そしてその誇り高さゆえに、自分からその気持ちを打ち明けることもできない。 そんなある日、落馬をきっかけに前世の記憶を思い出したユリウスは、ゼノンへの気持ちに改めて戸惑い、自分が男に恋していた事実に動揺する。プライドから思いを隠し、ゼノンに嫌われていると思い込むユリウスは、あえて冷たい態度を取ってしまう。一方ゼノンも、急に避けられる理由がわからず戸惑いを募らせていく。 近づきたいのに近づけない。 すれ違いと誤解ばかりが積み重なり、視線だけが行き場を失っていく。 秘めた感情と誇りに縛られたまま、ユリウスはこのもどかしい距離にどんな答えを見つけるのか――。 プロローグ+全8話+エピローグ

婚約破棄を望みます

みけねこ
BL
幼い頃出会った彼の『婚約者』には姉上がなるはずだったのに。もう諸々と隠せません。

推しにプロポーズしていたなんて、何かの間違いです

一ノ瀬麻紀
BL
引きこもりの僕、麻倉 渚(あさくら なぎさ)と、人気アイドルの弟、麻倉 潮(あさくら うしお) 同じ双子だというのに、なぜこんなにも違ってしまったのだろう。 時々ふとそんな事を考えてしまうけど、それでも僕は、理解のある家族に恵まれ充実した引きこもり生活をエンジョイしていた。 僕は極度の人見知りであがり症だ。いつからこんなふうになってしまったのか、よく覚えていない。 本音を言うなら、弟のように表舞台に立ってみたいと思うこともある。けれどそんなのは無理に決まっている。 だから、安全な自宅という城の中で、僕は今の生活をエンジョイするんだ。高望みは一切しない。 なのに、弟がある日突然変なことを言い出した。 「今度の月曜日、俺の代わりに学校へ行ってくれないか?」 ありえない頼み事だから断ろうとしたのに、弟は僕の弱みに付け込んできた。 僕の推しは俳優の、葛城 結斗(かつらぎ ゆうと)くんだ。 その結斗くんのスペシャルグッズとサイン、というエサを目の前にちらつかせたんだ。 悔しいけど、僕は推しのサインにつられて首を縦に振ってしまった。 え?葛城くんが目の前に!? どうしよう、人生最大のピンチだ!! ✤✤ 「推し」「高校生BL」をテーマに書いたお話です。 全年齢向けの作品となっています。 一度短編として完結した作品ですが、既存部分の改稿と、新規エピソードを追加しました。 ✤✤

【完結】僕はキミ専属の魔力付与能力者

みやこ嬢
BL
【2025/01/24 完結、ファンタジーBL】 リアンはウラガヌス伯爵家の養い子。魔力がないという理由で貴族教育を受けさせてもらえないまま18の成人を迎えた。伯爵家の兄妹に良いように使われてきたリアンにとって唯一安らげる場所は月に数度訪れる孤児院だけ。その孤児院でたまに会う友人『サイ』と一緒に子どもたちと遊んでいる間は嫌なことを全て忘れられた。 ある日、リアンに魔力付与能力があることが判明する。能力を見抜いた魔法省職員ドロテアがウラガヌス伯爵家にリアンの今後について話に行くが、何故か軟禁されてしまう。ウラガヌス伯爵はリアンの能力を利用して高位貴族に娘を嫁がせようと画策していた。 そして見合いの日、リアンは初めて孤児院以外の場所で友人『サイ』に出会う。彼はレイディエーレ侯爵家の跡取り息子サイラスだったのだ。明らかな身分の違いや彼を騙す片棒を担いだ負い目からサイラスを拒絶してしまうリアン。 「君とは対等な友人だと思っていた」 素直になれない魔力付与能力者リアンと、無自覚なままリアンをそばに置こうとするサイラス。両片想い状態の二人が様々な障害を乗り越えて幸せを掴むまでの物語です。 【独占欲強め侯爵家跡取り×ワケあり魔力付与能力者】 * * * 2024/11/15 一瞬ホトラン入ってました。感謝!

処理中です...