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最終章
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俺と同じ黒い髪には糸くずが付いたまま。慌ててやって来たのか、はあはあと息を切らしている。
「…これ、返すよ。」
マホが差し出した袋をユリウスは首を振って受け取ろうとはしなかった。
「いつか必ず必要になる。返す必要はない。…真帆、ここでの居場所は見つかったか?」
薄らと目に涙を浮かべて、マホは何度も頷いた。
ここに現れた頃よりも、今のマホは本当に綺麗だ。
「…うん。妃様方がよくしてくれる。もうすぐ店を持つことができるかもしれない。支援してくれる人が現れたから。」
「そうか、居場所を見つけたのだな。今のお前は、とてもいい顔をしている。」
そう言ってマホの髪に付いた糸くずをユリウスが払うと、マホの目からはぽろりと一粒涙が溢れた。
「うん。大変なことも多いけど、毎日楽しいよ。店を構えられたら、一番初めに支援してくれた人のために、最高の服を届けたいんだ。だから、頑張る。」
ユリウスが頷くと、マホは泣きながら笑みを浮かべた。
「…マホ、綺麗だな。今なら本当に聖女みたいに見えるぞ。」
着飾っていないのに、マホは輝いて見える。
「は?聖女とかもううんざりだから。ぼくは、ぼくだし。」
マホは俺に対しては、少しつんとした表情を向けた。
「…ごめんな、マホ。俺、ユリウスと行く。」
「なんで君に謝られなきゃいけないの。ユリウスを振ったのは、ぼくだから!ほら、もう行きなよ!」
マホに急かされるようにして、その場を後にする。
ユリウスだけを縁のようにしていたマホの姿はもうない。
ユリウスがいなくても、マホはこの世界で渡り人として生きて行く術を自ら手に入れた。
「ありがとう、ユリウス!必ずいい服を作るから!だから、楽しみにしてて!隣の君にも特別に作ってあげるから!」
背後からマホの声がする。
ユリウスは振り返ることなく、ふっと笑った。
マホの支援者はきっと…
振り返ると、俺はマホに大きく手を振った。
マホは姿が見えなくなるまでずっと、俺たちを見送っていた。
そうして俺は、ユリウスに導かれ、長年住み慣れた王宮を後にした。
用意されていた馬車に乗って王都を進むと、街は多くの人で溢れかえっている。
至る所に出店があり、歌を歌っている人、楽器を鳴らしている人、その周りでくるくると踊っている人、街中とても賑やかだ。
「…祭りか?いいな、皆んなとても楽しそうだ。」
初めて目にする光景に心が躍る。
「ええ、年に数回行われる祭りです。」
馬車の中から食い入るように見つめていると、多くの人が仮面を付けているのが分かる。
「なんで仮面を?」
「祭りの間は身分関係なく、自由に楽しめるからです。多くの貴族たちが仮面をつけて紛れ込んでいます。」
「へえ……そうなのか。」
「行ってみましょうか?」
「え!?いいのか!?」
「構いませんよ。ノア様ならきっとそう仰ると思っていました。この仮面を付けて下さい。」
目元だけが隠れるように作られた仮面を二人で身につけると、なんだかワクワクして自然と笑みが込みあげる。
「あ、マントを被らないと。マントもあるか?」
「いいえ、必要ありません。そのままで構いませんよ。」
「…でも、」
停めさせた馬車から、恐る恐る外に出る。
黒髪が目立ちはしないだろうか。
マホを襲ったような奴らに目をつけられないだろうか。
ワクワクする気持ちとは裏腹に、少しだけ躊躇していると、ユリウスは手を取って寄り添ってくれた。
「心配ですか?」
「だって、この髪色は目立つんだろう?」
「…大丈夫です。さあ顔を上げて、ノア様は堂々としていれば良いのです。」
行き交う人々の群れの中で立ちすくむと、はっとした。
何人もの黒髪の人々がいたからだ。
「…珍しいんじゃ、ないのか?」
「ここのところ、髪色を黒く染めるのが流行しています。もって二、三日です。数年前に狼に乗った黒髪の女神が現れてから、人気を博しております。」
狼…
黒髪の女神…?
どこかで聞いたような話しだ。
「やはり本物の美しさには敵いません。だいぶ伸びましたね、ノア様。」
鎖骨あたりまで伸びた髪をユリウスの手に掬い上げられると、急に気恥ずかしさが込み上げ、視線を逸らしてしまう。
「どうされました?今になって、後悔が込み上げて来ましたか?」
ぶんぶんと首を横に振って否定する。
「…ユリウスが、」
「わたしが?」
「なんか変わったから。前と違うし、その、なんていうか…」
「…?」
「恥ずかしいんだよ。ユリウスに見つめられたり、触れられたりすると。」
「嫌ですか?」
「嫌とかじゃなくて、その…」
ぐいっと顎を引かれ、半ば強引に目を合わせられると、身体の奥底からじわりと熱が込み上げた。
最近感じていた熱っぽさなんて比じゃないぐらいの熱量だ。
「公の場であのような発言をされていたのに。ノア様はまだ、どのように子を成すのか、きっとご存知ないのでしょうね。」
なんのことかと首を傾げると、ユリウスはまた声を出して笑った。
ずっと見たかった、ユリウスの本当の笑顔だ。
「ゆっくりとノア様の心が決まるまで、それからで良いのです。ですが、これぐらいはお許しください。」
きょとんとしたままの俺に、人混みの雑踏に紛れて、ユリウスからそっと軽く、優しい口付けが落とされた。
「…これ、返すよ。」
マホが差し出した袋をユリウスは首を振って受け取ろうとはしなかった。
「いつか必ず必要になる。返す必要はない。…真帆、ここでの居場所は見つかったか?」
薄らと目に涙を浮かべて、マホは何度も頷いた。
ここに現れた頃よりも、今のマホは本当に綺麗だ。
「…うん。妃様方がよくしてくれる。もうすぐ店を持つことができるかもしれない。支援してくれる人が現れたから。」
「そうか、居場所を見つけたのだな。今のお前は、とてもいい顔をしている。」
そう言ってマホの髪に付いた糸くずをユリウスが払うと、マホの目からはぽろりと一粒涙が溢れた。
「うん。大変なことも多いけど、毎日楽しいよ。店を構えられたら、一番初めに支援してくれた人のために、最高の服を届けたいんだ。だから、頑張る。」
ユリウスが頷くと、マホは泣きながら笑みを浮かべた。
「…マホ、綺麗だな。今なら本当に聖女みたいに見えるぞ。」
着飾っていないのに、マホは輝いて見える。
「は?聖女とかもううんざりだから。ぼくは、ぼくだし。」
マホは俺に対しては、少しつんとした表情を向けた。
「…ごめんな、マホ。俺、ユリウスと行く。」
「なんで君に謝られなきゃいけないの。ユリウスを振ったのは、ぼくだから!ほら、もう行きなよ!」
マホに急かされるようにして、その場を後にする。
ユリウスだけを縁のようにしていたマホの姿はもうない。
ユリウスがいなくても、マホはこの世界で渡り人として生きて行く術を自ら手に入れた。
「ありがとう、ユリウス!必ずいい服を作るから!だから、楽しみにしてて!隣の君にも特別に作ってあげるから!」
背後からマホの声がする。
ユリウスは振り返ることなく、ふっと笑った。
マホの支援者はきっと…
振り返ると、俺はマホに大きく手を振った。
マホは姿が見えなくなるまでずっと、俺たちを見送っていた。
そうして俺は、ユリウスに導かれ、長年住み慣れた王宮を後にした。
用意されていた馬車に乗って王都を進むと、街は多くの人で溢れかえっている。
至る所に出店があり、歌を歌っている人、楽器を鳴らしている人、その周りでくるくると踊っている人、街中とても賑やかだ。
「…祭りか?いいな、皆んなとても楽しそうだ。」
初めて目にする光景に心が躍る。
「ええ、年に数回行われる祭りです。」
馬車の中から食い入るように見つめていると、多くの人が仮面を付けているのが分かる。
「なんで仮面を?」
「祭りの間は身分関係なく、自由に楽しめるからです。多くの貴族たちが仮面をつけて紛れ込んでいます。」
「へえ……そうなのか。」
「行ってみましょうか?」
「え!?いいのか!?」
「構いませんよ。ノア様ならきっとそう仰ると思っていました。この仮面を付けて下さい。」
目元だけが隠れるように作られた仮面を二人で身につけると、なんだかワクワクして自然と笑みが込みあげる。
「あ、マントを被らないと。マントもあるか?」
「いいえ、必要ありません。そのままで構いませんよ。」
「…でも、」
停めさせた馬車から、恐る恐る外に出る。
黒髪が目立ちはしないだろうか。
マホを襲ったような奴らに目をつけられないだろうか。
ワクワクする気持ちとは裏腹に、少しだけ躊躇していると、ユリウスは手を取って寄り添ってくれた。
「心配ですか?」
「だって、この髪色は目立つんだろう?」
「…大丈夫です。さあ顔を上げて、ノア様は堂々としていれば良いのです。」
行き交う人々の群れの中で立ちすくむと、はっとした。
何人もの黒髪の人々がいたからだ。
「…珍しいんじゃ、ないのか?」
「ここのところ、髪色を黒く染めるのが流行しています。もって二、三日です。数年前に狼に乗った黒髪の女神が現れてから、人気を博しております。」
狼…
黒髪の女神…?
どこかで聞いたような話しだ。
「やはり本物の美しさには敵いません。だいぶ伸びましたね、ノア様。」
鎖骨あたりまで伸びた髪をユリウスの手に掬い上げられると、急に気恥ずかしさが込み上げ、視線を逸らしてしまう。
「どうされました?今になって、後悔が込み上げて来ましたか?」
ぶんぶんと首を横に振って否定する。
「…ユリウスが、」
「わたしが?」
「なんか変わったから。前と違うし、その、なんていうか…」
「…?」
「恥ずかしいんだよ。ユリウスに見つめられたり、触れられたりすると。」
「嫌ですか?」
「嫌とかじゃなくて、その…」
ぐいっと顎を引かれ、半ば強引に目を合わせられると、身体の奥底からじわりと熱が込み上げた。
最近感じていた熱っぽさなんて比じゃないぐらいの熱量だ。
「公の場であのような発言をされていたのに。ノア様はまだ、どのように子を成すのか、きっとご存知ないのでしょうね。」
なんのことかと首を傾げると、ユリウスはまた声を出して笑った。
ずっと見たかった、ユリウスの本当の笑顔だ。
「ゆっくりとノア様の心が決まるまで、それからで良いのです。ですが、これぐらいはお許しください。」
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