ニアの頬袋

なこ

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事務室はカオス

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そんなに、無理…

ニアの目の前には円卓があり、10人分程の豪華絢爛な料理が所狭しと並んでいる。

「さあ、食べろ。」
「遠慮しなくていいんだぞ。」
「ニア、腹が凹んでいるじゃないか。」
「頬も膨らんでいない。」
「ほら、口を開けろ。」

なんで…。

なんで、団長が5人もいるの…。

円卓を囲むのは、ニアと5人の団長だ。

しかも、みんな…。

なんで、裸?

無理、食べられない。

そもそも、何を食べさせようとしてるんだ?

ほら、ほら、ニア、ほら、さあ、、、

団長はみんな、笑顔だ。

5人もなんて、無理…

せめて、せめて、、、



「せめて、服ぐらい着て下さい!!!」



「ニア?起きているのか?」

うなされて、うんうんと唸っていたニアが、意味不明な叫び声を上げた。

そのニアがぼんやりと目を見開いた先にいるのは、騎士服に身を包んだ団長だ。

良かった。

服を着ている。

騎士服…いつもの団長だ。

「急に呼び出されたから、先に行くぞ。辛い時は休んでいていいからな。」

「…ほかの、団長は?」

「ふ、寝ぼけているのか?行ってくる。じゃあな。」

「…いって、らっしゃい。」

黒をベースにした第二騎士団の騎士服は、団長によく似合っている。

念の為辺りを確認するが、他に団長はいない。

…ん?先に行くって…。

「あっ、仕事!!!」

ニアは慌てて起き上がった。

下半身がずんと、重く感じる。

「だめだよ。昨日も休んだのに。ぼくも行かないと…。」

「ニア様、お目覚めですか?」

ラルフと入れ替わるように部屋へと入ってきたのは執事だ。

「あの、昨日も泊めていただいて、申し訳ありませんでした。ぼくも、仕事に行かないと…。」

「昨日の今日ですから、ラルフ様が仰っていたようにお休みしてはいかがでしょう?」

「いえ、下っ端ですけど、仕事はちゃんとしたいんです。」

「そうでございますか。いい心掛けでございます。お召し物は、こちらをどうぞ。」

「え、また着る物を用意してくれたんですか?」

「ええ、ラルフ様から言いつけられております。それに、今日はこちらをお召しいただいた方が宜しいかと。」

「…?」

「あちらに鏡がございますから、ご確認ください。では、朝食の準備をしますね。」

「…?」

用意されていたのは、詰襟で首元が隠れる仕立てになっている。

「なにこれっっっ!」

鏡を見て、ニアは叫んだ。

首元は鬱血痕でいっぱいで、見られたものじゃあない。

執事は全てお見通しのようだ。

恥ずかしい…。




事務室にはすでにエリックが待機していた。

「どういうことだ?なぜ急に?」

部屋に入ると、ラルフはすぐに詰問した。

「それはこっちが聞きたいぐらいだ。」

「用件は何だ?」

「個人的な案件らしい。」

「個人的?わたしのことか?」

「それは、わからない。ただ、二つ用件があると仰っていた。」

「二つ…?」

「一つは心当たりがあるだろ?」

「…ニアか。」

「まったく、お前があんな風に連れ去ったもんだから、皆んな大騒ぎだったんだ。」

「それにしたって、それだけで…。」

「ノエルも見ていたんだ。親父さんに伝えたんだろ。そこから伝わったんじゃないか?」

はあ、とラルフは大きく溜め息を吐いた。

「個人的な案件での訪問だから出迎えはいらないと言われているが、そうもいかないだろう。」

「いや、いらないって言うなら、それでいいだろ。」

「お前は良くても、こっちは良くないんだよ。騎士達に出迎えの準備をさせてくれ。」

「いや、いいって言ってるんだから…」

「ラルフ!第二騎士団としてはそうはいかないんだ。わかるだろ!」

「…分かったよ。今から準備させる。」

しぶしぶながら団長室に戻り、それから騎士達を招集し、ラルフは命じた。

「今日ここに、総司令官が訪れる。出迎えの準備を。」

ラルフに伝わるぐらいの緊張が騎士達に走る。

エリックが指揮する事務室にも、ぴりぴりとした緊張が走っていた。

ニアはもう起きただろうか。

こんなことなら、今日もニアを休ませれば良かった。

ニアのことだ。

身体を引き摺ってでも仕事に来るだろう。

ニアはそういう子だ。

反対されようと、ニアを手放すつもりは殊更ない。

逆にニアに何か手出ししようものなら、たとえ親でも許しはしない。

第一から第五まである騎士団全てを取り仕切る総司令官は、ラルフの父親だ。






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