ニアの頬袋

なこ

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ニアの目の前では、式がどうのと二人の大柄な男たちが盛り上がっている。

すごく、居た堪れない。

「あの…、結婚って、ぼく、まだそこまでは…」

ぎろりとおじさんに睨まれる。

「なんと、やはりラルフでは役不足ですかな。」

「いえ、そういうんじゃ…」

「ニア、あんなにわたしを受け入れてくれたのに、その程度の想いしかなかったのか…」

「いえ、だから、そういうんじゃ…」

食い入るように二人が見つめてくる。

結婚と言われても、ニアにはまだ実感が湧かない。

だって、恋心というものを初めて知ったばかりだ。

「ニア様、ラルフはきっとニア様を大事にされますぞ。そうだな、ラルフ。」

「ええ、ニア以外は考えられません。こんなに滾らせてくれるのは、ニアだけですから。」

「な、ラルフ、お前、まさか、すでにニア様を…」

「第十王子の子なんて知らなかったもので、すでに手中にしてしまいました。ですから、責任を取らねばなりません。」

ちょ、ちょっと、そこまで言わなくても…

「こんな小さな身体で、ラルフを…なんとおいたわしい…」

「あの湖で、主もニアに惚れたようです。渡しはしませんが。惚れたと言うことは、ニアを認めたということでしょう。」

ん、湖?主?惚れた?

「ほう、あの主が。人間に興味を持つだけでも珍しいものを。」

「それに、ニアはあの実の効果を享受しました。」

「はっはっはっ、ニア様にあの実を食べさせるとは、相当惚れ込んだのだな、ラルフ。」

あの実?

「これは、我が一族として、ニア様を手放すことなどもうできませんなあ。」

「ええと、二人とも何を話しているのか、ちょっとよく分からないんですけど…。」

ラルフがニアを抱き寄せる。

「ニア、あの湖にいた狼は我が一族と共に、あの場所を守り続ける主なんだ。」

「ぼくを食べようとした狼!」

「いや、違う。いや、そうか?違う意味で喰おうとしていたようだが、まあ、それはいい。」

「やっぱり、食べようとしてたんだ!」

「大丈夫だ。お前を喰わせはしないから。あの主が認めないと、わたしの伴侶にはなれん。さらに言えば、ニアが食べた赤い実があっただろう。」

「あの、実が白くて、甘い…」

「そうだ。あの実はあの森でしか取れない。あの実には少しだけ催淫効果があるんだ。」

「さ、さいいん?」

「少し、とろんと、いい気持ちになっただろう?」

「そう言われれば、少し…」

「それも、認められた証拠だ。普通の者が食べると、少しいい気持ちどころか、乱れ狂う。」

「乱れ…ひどい!そんな実を食べさせたなんて!」

「乱れたニアも見たかったが、ニアなら大丈夫だと思ったんだ。」

「どうして!!!」

「わたしがニアを愛しているから。」

「…は?」

「わたしが愛してるんだから、あの森もあの主もきっと、認めてくれると思った。」

「はあ???」

「まあ、まあ、ニア様、ほれ、口を。」

「え、口?」

総司令官がニアの口に飴玉を放り込む。

大きな飴玉を二つも。

「ニア様がお好きだった飴玉ですぞ。」

ニアの左右の頬に林檎味と、桃味が一つずつ。

「あ、懐かひい。この味。」

「そのお顔、久しぶりに見ましたなあ。」

ニアの両頬はまあるく膨らんでいる。

「王に王子の様子を窺ってこいと言われ、あの頃何度も訪れましたが、そのお顔を見るのが楽しうて仕方なかったものです。」

司令官はにこにこと、ニアの頬を眺めている。

「な、父上、こんな方法があったとは、さすがです!」

団長ってば、また、訳の分からないことを…

「ニアの頬を膨らませるのに、こんな方法が…。こうすれば、いつでも見られるではありませんか!」

「ラルフも、この顔が好きか?」

「ええ。この顔に、頬に惚れたんですよ。」

にこにこと、飴玉を頬張るニアを二人が見ている。

団長の変態ぶりは、もしかしたら、父親のそれを受け継いでいるのかもしれない。

つんと、右頬をラルフがつつく。

「なんと、ラルフ!そのような!」

「父上も、ほら。」

おそるおそる左頬をラルフの父親がつつく。

「おお!これは!」

つんつんと、二人が興奮した様子で両頬をつついてくる。

ニアは諦めて、好きにさせた。

飴玉は、甘くて美味しい。

「…おいひい。」

変態だな。

二人とも、変態だ。

ニアに対して変態になる団長を好きになってしまったんだから、もうしょうがないな、と思う。
















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