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第18話

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 そういえば、あのリーダーさん、メリンダのことで、『兄としてこの場で謝罪しておく』って言ってたわよね。ってことは当然、あの人、メリンダのお兄さんってわけよね。私は何とか会話のとっかかりを掴もうと、今思ったばかりのことを、そのまま口に出した。

「ねえ、あの兵士たちのリーダーさん、メリンダのお兄さんなの?」

「そうですけど……それが何か?」

 おっ。

 やっと『はい』『そうですね』『わかりました』以外の言葉が返って来た。これでなんとか会話になりそうだ。私はちょっぴりウキウキとして、語り続ける。

「キリッとしてて、かっこいい人だったわね。それに、まだ若いのに、兵士たちのリーダーを務めてるなんて、凄いじゃない」

「そういうお世辞は本人に言ってください。私に言われても困ります」

 うわあ……ツンツンしてるなあ……

 別にお世辞ではなく、純粋に思ったことを言っただけなんだけど、どうやら、あまりお兄さんの話はしたくないらしい。……いや、単に私と話がしたくないだけかも。

 これ以上話しかけても、鬱陶しがられるだけかと思い、私は黙った。しかし、しばらく無言で歩き続けると、意外にもメリンダの方から声をかけられる。

「……さっきは、ごめんなさい」

「えっ? 何が?」

 意外な謝罪の言葉に、私は思わず足を止めて聞き返す。メリンダも歩みを止め、きちんと私に向き直り、それから、深々と頭を下げた。

「あなたの言うことを、最初から嘘だと決めつけて、すいませんでした。事を荒立てて、兵士隊が出張ってくるほどの騒動になってしまったのも、私の浅はかな行動が原因です。正式に謝罪します……」

 先程までスーパー塩対応だった少女が、突然沈痛な面持ちで謝罪してきて、私はどう返答するべきか、一瞬迷う。……少しだけ考えて、変に取り繕ったりせず、正直な気持ちを話すことにした。

「もういいわよ。市民権を得るために、大げさなアピールをする人もいっぱいいるから、私もそういう連中の一人だと思って、ムッとしたんでしょ? それに、売り言葉に買い言葉でカッとなった私も悪いし、『浅はかな行動』はお互い様の、喧嘩両成敗ってことで、この話はおしまいにしましょうよ、ね?」

 私の言葉に、メリンダはまたしてもそっけなく「はい」と言うだけだったが、夜の闇の中でも、その表情にはホッとした笑みが浮かんでいた。

 それは私が初めて見る、メリンダの笑顔だった。
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