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第20話

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 中学生の時、林間学校でテントの設営をやったことがあるけど、あれ、結構面倒なんだよな。設営場所に、石みたいなものが落ちてないかちゃんと確認して、四隅もしっかり固定しなきゃいけないから。

 そんなことを思っていると、ルイーズが風の魔法を使い、そこらに転がっていた石を吹き飛ばした。すっかり平らになった地面に、折りたたまれている携帯テントを投げると、それはひとりでに大きくなり、自分で根を張るように地面に固定された。これもきっと、魔法の力によるものなのだろう。

 うーむ、たった10秒でテントの設置が完了してしまった。

 便利すぎるな、魔法。

 攻撃手段としても超強力だし、日常生活でも役に立つ場面が非常に多い。

 ……よく考えたら、異世界人たちは、魔法という凄い力を使えるんだから、わざわざ俺たちみたいな子供を召喚しなくても、世界中から強力な魔法使いを集めて、その人たちが世界の危機を救えばいいんじゃないの?

 その当然の疑問を、夕食のとき、俺はルイーズに言ってみた。

 焚き火の前で頬杖を突き、ルイーズは揺らめく炎を眺めながら答える。

「世界中から精鋭を集めても、あんまり意味ないのよ。この世界の危機である『モンスターの大量発生』の原因が何なのか分からないからね。ひとつやふたつ、モンスターの群れをやっつけたところで、奴らは無限に湧いて来る。だから、その大もとを断つために、シャンパ人の勇者が4人必要だって話よ」

「ふうん、4人か。今、何人集まってるんだろうな」

「噂では、この前の召喚で3人集まったらしいわ。あと一人で、このどうしようもない世界は救われるってわけね」

「どうしようもない世界って……なんだかトゲのある言い方だなあ」

「だって、どうしようもないでしょ? 自分たちが助かるために、まったく無関係の人間を無理やり呼び出して、役に立たないと思った人は、ちっぽけな手切れ金を渡して捨ててしまう。そんな王が国の舵取りをしてる世界なんて、正直、このまま亡んじゃったほうがいいんじゃないかとも思うわ」

 ……先程の、町での態度から薄々分かっていたが、ルイーズはこの世界と、この世界に住まう人々のことを、あまり良く思っていないようである。

 この世界には、エルフを差別する人間もいるらしいから、そういうことが原因なのだろうか。とはいえ、さすがにそのあたりのことをずけずけと聞くほど、俺はデリカシーのない人間ではないつもりだ。

 だから、とりあえず黙って食事を続けることにした。ルイーズも静かに食事を続け、焚き火がはぜるパチパチという音だけが、虫の鳴き声すらない雑木林に木霊していた。
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