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はじまり

ターゲット

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「ここ…かな…」


リストの情報を元に、辿り着いたのは一軒の民家だった。

至って普通の、人間の家。

もう人間界で言うところの夜中だし、灯りはついていないから恐らくターゲットは夢の中だ。

もし起きなければそのまま手早く精液だけ頂いてしまえばいいし、起きてしまったらこの女性と間違われる外見を活かして誘惑してみよう。

男性を襲うのは始めてだから少し緊張しつつ、魔力を使ってターゲットの家に侵入した。

窓の鍵を魔力で外し、音を立てずに寝室に降り立つと、やはりターゲットはベッドの上で静かに寝息を立てていた。

ゆっくりとベッドに近付き、顔を覗き込む。

淫魔が襲う人間を選ぶ為のリストには、氏名、年齢、性別、居住地、家族構成、写真が載っていて、おれが選んだターゲットは、氏名の欄に魔界の文字でリヒト・ブラウと書かれていた。

何故おれがその男をターゲットに選んだかと言うと、理由は色々ある。
例えば、なんだかひょろっとしていて弱そうだったから。
ひょろっとしてる...というのは少し違うかもしれない、別に痩せ細っているわけじゃないし、身長も高そうだったけれど、鍛え抜かれた身体、というわけではなさそうだったからきっと力も強くないだろうと思った。

ガタイの良い男を選んでしまうと、おれみたいに弱い悪魔は万一反撃されたりした場合ちょっと手こずる可能性がある。

…まぁ最終的には魔力を使ってねじ伏せればいいんだけど。

今はこの弱りきっている魔力を極力使いたくないから、できるだけ素手でも勝てそうな相手を選んだ。

それと家族がいる場合、大声を上げられたりしてバレてしまうと面倒だから、一人暮らしというところもその男を選ぶ決め手になった。

あとなにげに結構重視したのが、見た目の問題だ。
無精髭モジャモジャとか、脂ぎってるとか、贅肉タプタプのおじさんより、どうせ襲うなら清潔感がある若い男のほうがいいに決まってる。

おれがターゲットに選んだその男は、知的そうなブルーの瞳に彩られた切れ長の目にスっと通った鼻筋、薄めの唇がクールな印象で、このクールな顔が性行為の時はどんな風に歪むんだろうと興味があった。

今は瞼が閉じられているが、写真で見た通りの整った顔立ちに、下腹部が疼くのを感じる。

今まで女を襲いに行った時には感じなかったそれを不思議に思いながらも、早く精液を奪いこの場から立ち去りたくて、そっとターゲットに馬乗りになり、唇を重ねた。

経験は一度も無いけど、性行為のやり方は淫魔の本能として備わっているので問題無いだろう。

初めて味わう人間の唾液はとても甘くて、それだけでも力が湧いてくるような気がする。

おいしい...。

もっと、もっと味わいたい。

徐々にキスを深くしていき、口内を貪るように舌で舐め啜り、男の衣服に手を掛けた、次の瞬間。

視界がぐるりと反転し、男に覆いかぶさっていた筈の身体は逆にベッドに押さえ付けられていた。
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