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忘れられた悪魔

きっと大丈夫

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「…それは多分悪魔の仕業だな。人間の記憶を奪って魔力に変えてる悪魔がいるって聞いた事がある。なんでも、記憶のすり替えも出来るらしい」

「…じゃあ、りひとは記憶を奪われちゃったの…?もう、おれ、二度と、思い出して、もらえないの……っ?」

「大丈夫だ。その悪魔を祓えばリヒトはちゃんとルカくんのこと思い出すから」


涙に遮られつつ、ゆっくり、一つずつ、先程あった出来事を話すおれを、四人はおれが話し終わるまで黙って見守ってくれた。

そうしてなんとか最後まで話し終わったおれに突き付けられたのは、あまりに残酷な現実。

もう二度と、リヒトのあたたかい腕に抱き締めてもらえないかもしれない。
絶望で目の前が真っ暗になり、いっその事消えてしまいたいとまで思ったけれど、ケンさんが、悪魔を祓えば思い出す、と言ってくれたお陰でなんとか持ち直すことが出来た。


「この前リヒトが言ってた、カリーナって女が絡んでるっぽいかな?」

「ああ、十中八九絡んでるだろうな」

「その、カリーナって女の人と、一緒だったよ、リヒト…いつもおれとしてるみたいに、ぴったりくっついてた…」

「…この前話聞いた時はすごく迷惑そうで、顔も見たくないって感じだったから…もしかしたらリヒト、悪魔に記憶とられてからカリーナとルカの記憶を上手いこといじられちゃったのかもしれないね。今は多分、カリーナを恋人だと思い込んでるんだ」


ケンさんとクオンの会話を聞きながら、朝家で見た光景を思い出す。
二人の雰囲気から多分そうなんだろうなと予想はついたけど、改めて言葉にされると苦しくて堪らない。

だって、昨日の夕方出掛ける前、「愛してる」と優しいキスをしてもらったばかりなのだ。
それがまさか、次の日の朝に急にこんなことになるだなんて。
そう簡単に受け入れられるはずがない。

ちゃんと現実を受け入れて、解決に向けて力を尽くさなきゃいけないのは分かってる。

でも…。


「…とにかく、ここにいたらリヒトに見付かるのも時間の問題だ。俺とクオンで、リヒトから出来る限り話を聞き出しとくから、ルカくんは一旦カイとリアムと一緒に俺の家で待機してろ。いいな?」


そう言うケンさんの声はいつになく真剣で、表情も。
ケンさんだけじゃない、クオンも、リアムも、カイも、みんな、いつもの祓魔師と悪魔同士とは思えない和やかな雰囲気は消えて、眉間に皺を寄せた険しい顔をしていて、他人のことなのにすごく真面目に向き合ってくれていることがひしひしと伝わってきた。

ケンさんのゴツゴツした手が、おれの頭をわしわしと雑に撫でる。

リヒトの撫で方とは全然違うそれは、だけどなんだかすごく頼もしくて、この人達がいてくれればなんとかなる、きっと大丈夫、だってリアムとカイみたいなすごく強い悪魔を使い魔にしちゃった人達なんだから。
と、少しずつ気持ちが楽になっていくのが分かった。
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