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第3部 群雄割拠編
第40話 決着!伝説の終演!
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「チンキュウを…返せ…!」
怒りに震えるリョフは一人前に歩き出した。
「リョフは一人だ!カコウトン・カコウエンはそのまま文芸部を押さえよ!その他の者はリョフを取り押さえよ!」
「リョフ様、お戻りください!貴方がいなければ教室を守れる者がおりません!」
「チンキュウ…
一人…にして…悪かっ…た」
「お前の…罪…は…」
「私の…罪…だ…!」
「リョフ…様…」
「食い止めよ!ソウソウ軍を部室に入れるな!」
「チョーリョー、助けに来たぞ!」
「コウジュン殿!助かった!」
「コウジュン!カコウトンが相手だ!防衛戦では陥陣営の本領は発揮できまい!」
「一度破った相手だ。ちょうどいいハンデだ!」
「チョーリョー!貴方の相手はこのカンウです!決着をつけましょう!」
「私は既に貴方に二度敗れている。今さら決着も無かろう」
「前回、目的を果たしたのは貴方です。だから一勝一敗です。我が名はカンウ!武の礼です、貴方も名乗りなさい!」
「ふ…我が名はチョーリョー!行くぞカンウ!」
文芸部・準備室~
リョフは一人で飛び出し、俺は部屋に取り残された。
一応、俺主人公なんだけどな。今回完全に囚われの姫じゃないか。
外が騒がしくなってきた。この騒動に紛れれば脱出できるだろう。何とか逃げ出してカンウ・チョーヒと合流しよう。
リョフに黙って抜け出すのは良心の呵責があるが、俺が留まる方が争いの種になる。
もっとも、ソウソウのことだ。俺がいようといまいとリョフを潰す気かもしれない。
それでも俺がいれば彼女を逃がしてやれるかもしれない。もう俺はリョフを戦わせたくはない。
「先ほどから何ぶつぶつ一人で喋ってるんですか、リュービさん?」
「わっ、チントウ。いつの間に」
「リュービさん、ソウソウ軍の総攻撃が始まりました。今のうちに脱出しましょう!」
「わかった、すぐ出よう」
俺はチントウの案内で、教室を抜け出した。ソウソウの包囲を受けてか、あちこちで部員達の怒号が飛び交い、とても一丸となって対処できる状況ではなさそうだ。
「人に見つかると面倒ですからね、危ない、隠れて!」
「ぎゃ!」
「すみませんリュービさん、大丈夫ですか?」
「い、いや、緊急事態だからね、気にしないでくれ。早く行こう」
チントウ、結構力強いんだな…しかし、俺のことは文芸部はもちろん、今回の捕縛事件でリョフ軍の連中にもよく知られているだろうから仕方ないな。
「危ない、チントウ。隠れて!
…ふぅ、通り過ぎたみたいだな」
「あ、あにょ…リュービしゃん…」
気づけば俺はチントウを抱きしめて壁の影に隠れていた。
「ご、ごめん。考えたらチントウは別に隠れる必要なかったよね」
「ひ、ひえ、き、緊急事態ですし、気にしにゃいでくだしゃい…
その…別に嫌というわけでは…」
「おい!お前らこんな時に何イチャイチャしてやがる!…お前はリュービ!」
「しまった、見つかった!」
短髪に眼鏡をかけた男子生徒が俺に襲いかかってきた。
「お前を逃がしたら何言われるかわかったもんじゃねぇ!」
「危ない、リュービさん逃げて!」
男は殴りかかってきたが、チョーヒの拳に比べれば全然遅い。俺は男の拳をかわすと、顔面に当て身一発、体勢を崩したところで、腕を掴み投げ飛ばした。
「お、お見事です…リュービさん」
「日頃のカンウやチョーヒとの特訓が役に立ったよ。
…ところでコイツは誰だ?」
「その人はホッケー部のヨウホウです。エンジュツからリョフに寝返りました」
「ホッケー部のヨウホウ…どこかで聞いたような…あ、リカク・カクシに手を貸した奴か!伸びてるならちょうどいい。コイツを連れて帰ろう」
「一応、脱出用に用意した縄ならこちらにあります」
「ありがとう…よし、こんなもんかな」
俺は気を失ったヨウホウを縛り上げた。しかし、男一人担ぐのは面倒だな。
立ち上がろうとしたその時、こちらに駆け足で向かってくる足音が聞こえた。まずいな、こちらに真っ直ぐ向かってきている。
やり過ごせそうにないな。こうなったら物陰に隠れて奇襲をかけるしかない。ヨウホウだって倒せたんだ、やってみるか。
俺は壁に隠れ、息を殺し、足音の主を待ち構えた。
今だ!
足音の主が壁に差し掛かると同時に俺は殴りかかった!
「邪魔すんじゃねーぜ!
…アニキ!」
「チョーヒ!?」
壁から現れたのはお団子ヘアーの義妹・チョーヒだった。俺は咄嗟に拳をそらした。
そして、反射で飛んできたチョーヒの拳が、俺に気づいて鼻先で止まる。
良かった。チョーヒが相手じゃ命がいくつあっても足りないところだった…
「アニキー!!」
「げふっ!」
チョーヒは全速力で俺の胸目掛けて飛びかかってきた。車にはねられたような衝撃で俺の体が吹き飛ばされ、床に押し倒された。
「アニキー!会いたかったよ~!」
「ぐはっ!…チョーヒ、そんなに強く抱きつかれると苦しい…」
「うるさい!心配したんだからな!このくらい我慢しろ!」
「ごめんな、チョーヒ、よしよし」
「へへへ、アニキ~
…なんかアニキからリョフの匂いがする」
「え゛っ!」
「そういやアニキ、ずっとリョフに抱きつかれてたんだったな…」
「チョーヒ…さん…?」
チョーヒはなおも抱きついたまま、俺を覗きこむように睨み付けてくる。
「イタタタタ…チョーヒそんなに体を擦り付けるな」
「うるさい!オレの匂いになるまで我慢しろ!」
「そんな擦り付けられると、ちょっと色々まずいんだが…男的に…」
「オホン、リュービさん、チョーヒさん、今そんなことしてる時間はありませんよ!」
「すみませんチントウさん!」
俺とチョーヒは素早く立ち上がり、気をつけの姿勢を取る。
「まあ、いいですけどね!」
「何か怒ってます?」
「怒ってません!
とにかく早く脱出しますよ!」
「そうだ、チョーヒ。コイツを運ぶのを手伝ってくれ」
「なんだコイツ?」
「コイツはヨウホウ、リカク・カクシの協力者さ」
「アニキ、お手柄じゃねーか。よし、運んでやるぜ!」
俺達は無事文芸部を脱出し、正面入口までやってきた。既に大勢は決したようで、リョフ軍の姿はほとんど見えない。
「兄さん!良かった、無事だったんですね!」
俺達に気づいて長い黒髪の義妹・カンウがこちらに向かってきた。
「カンウ!会えて良かった!
ところでリョフはどうなった!」
「それが…」
「ふー…ふー…」
校門の上によじ登り、鼻息荒くソウソウ軍を睨み付けるポニーテールの少女・リョフがそこにいた。
その鬼気迫る姿は確かに鬼神の名に違わない出で立ちだ。
周囲を取り囲む無数のソウソウ軍をただ見てることしかできない様子だった。
「取り囲んでるんですが、抵抗が激しくて…でも時間の問題だと思います。
兄さん!近づいては危険です!」
俺は群衆をかき分け、リョフの元に走った。
「リョフ!」
「リュービ…抜け…出した…か…
もう…お別れ…なの…か…」
「リョフ!俺はここにいる!君を怖がったりしない。だから、もう、終わりにしないか」
俺はリョフに手を差し伸べた。
「ふー…ふー
…わかった…
私の…敗け…だ…投降…する…」
リョフは俺の手を取り、校門から下りた。
「ふむ、どうやらリョフと我らの戦いは終わったようだな」
リョフの投降により、文芸部は制圧され、戦いは終結した。続いてソウソウはリョフ以下、軍団の主な者達への処遇について裁きの場を設けた。
「それではこれより捕虜の処遇について裁きを下す。まずはリョフ!」
カコウトン・カコウエンに連行される形でリョフがソウソウの前に連れてこられた。両腕を拘束されているが、彼女にはもう反抗する素振りは見えない。
「リョフよ、勢力を拡げるということは大なり小なり選挙戦に色気を見せたということだ。問おう。お前は何を望んでここにいる」
「チンキュウ…言った…会長に…なれば…赤兎と…一緒に…学校に…通えると…」
「赤兎?あの犬のことか。ふふ、そんなことでお前は…いや、お前にとってはそんなことではないんだな。
では、お前もチンキュウの口車に乗せられ、騙された一人か?」
「いや…共犯者…だ…」
「そうか…お前にはソンケンを始め多くの人を負傷させた罪科がある。私が生徒会代行権限を使えばお前も退学にさせることもできる」
「待ってくれソウソウ!退学までは許してあげて欲しい」
俺は思わず二人の前に飛び出して、ソウソウに向かって訴えた。
「リュービ、この狼の子を庇うのか?」
「リョフは確かに化物の様に強かった。でも、強いだけで普通の女の子なんだ。
彼女が普通の女の子として暮らす機会まで奪わないであげて欲しい」
「リュービ…」
「リョフ、お前はリュービが好きだったな。赤兎とリュービならどちらが大事だ?」
「どちらも…大事…どちらも…大好き…!」
「リョフ、お前に三つの罰を与える!」
「一つ、今後一切の戦闘行為を禁じる。
二つ、選挙戦が終わるまでお前は自宅謹慎とする。
三つ、謹慎後、迷惑をかけたリュービに対し、リュービに仕え、使用人として奉仕することを命じる!
この三つが守れるのなら、私が会長なった暁には、ペットとの登校を許可しよう」
「ソウソウ!リョフを使用人って、それは…」
「リュービ、女の子の一人や二人養える甲斐性がなくてどうする。私はこんな化物の面倒はごめんだ。普通の女の子と言うならお前が証明しろ」
「う…わ、わかった」
「ソウソウ…いいのか…赤兎とも…リュービとも…一緒に…いて…」
「ああ、いい。だが、忘れるな。自宅謹慎と一切の戦闘行為の禁止だ。違反したらリュービとも引き離すし、退学にする」
「わかった…ソウソウ…ありがとう…リュービ…よろしく…」
頬のこけた、目付きの鋭い男がソウソウの元に進み出る。
「ソウソウ様、そんな約束しても守られる保証はありませんよ。しかもリュービのところにいては監視もできません。私は反対です」
「ふふ、オウヒツ、職務に忠実なのはお前のいいところだが、それは無粋というものだぞ。それに私にあの笑顔は崩せんよ
では、チンキュウお前の番だ」
リョフに代わって痩せた眼鏡の男子生徒が前に出てくる。
「チンキュウ、久しいな。お前は自身の才能を鼻にかけていたが、これはどういうことだ?」
「いかなる才能をもってしても人の心までは操れない。私の歩んだ道はそこに至るまでの道に過ぎない」
「再び私に仕える気はないか?」
「私はリョフを…いやもう誰も騙したくはない。今の私には貴方に差し上げられるものが何もない」
「ではリョフと共にリュービの元に行くのはどうだ?」
「リュービか…御免被る。あの男が最も信用ならん男だ。
リョフ、友として一つ忠告だ。男を見る目はもう少し養った方がいい」
「チンキュウ…うるさ…い」
「ふっ、ではチンキュウ、お前にも自宅謹慎及び一切の戦闘行為の禁止を命じる。その後は好きにしろ」
「慎んでお受けしよう」
チンキュウはそのままこの場を去ってしまった。
「次、コウジュン」
続いて顔に傷のある、ガタイのいい男子生徒が前に出された。
「お前は私に仕える気があるか?」
「我は本来、選挙戦には興味がなかった。リョフ様の強さに魅せられここまで来た。今リョフ様が戦いから退かれるというのであれば我もまた戦う理由がなくなる」
「わかった。お前も同じく自宅謹慎とする」
「次、チョーリョー」
薄く青みがかった髪に、青い道着姿の男子生徒が前に出る。
「お前の話はカコウトンから聞いている。最強を求めるということだが、お前の言う最強とはリョフのことか?」
「リョフ様は最強であった。だが、それを望まずそれを拒否した。故に最強の座から降りた」
「最強とは自分でなるのか、他人が決めるのか」
「両方だ。己が求め、他者が認める。その先に最強はある」
「チョーリョー、お前が最強の道を求める者ならこのソウソウに仕えよ。道だけなら私が用意してやろう」
「わかりました。
このチョーリョー、貴方にお仕えいたします」
「では、これにてリョフ軍への裁きを終わる!ソウソウ軍の精鋭達よ!我等はリョフに勝った!だが、選挙戦の戦いはまだこれからだ!勝ち続けて行くぞ!」
ソウソウの声と共に軍団が一体となり閧の声を上げた。その声は学園中に響き渡った。
こうして最強の鬼神の伝説は幕を下ろした。
これから始まるのは、とある女子高生の話。一途で、不器用で、可愛いものが好きで、そんな女子高生の話。
でも、それはまた別のお話。
さぁ、選挙戦も後半戦に突入だ。果して俺達に何が待ち受けているのだろうか。
第三部 完
怒りに震えるリョフは一人前に歩き出した。
「リョフは一人だ!カコウトン・カコウエンはそのまま文芸部を押さえよ!その他の者はリョフを取り押さえよ!」
「リョフ様、お戻りください!貴方がいなければ教室を守れる者がおりません!」
「チンキュウ…
一人…にして…悪かっ…た」
「お前の…罪…は…」
「私の…罪…だ…!」
「リョフ…様…」
「食い止めよ!ソウソウ軍を部室に入れるな!」
「チョーリョー、助けに来たぞ!」
「コウジュン殿!助かった!」
「コウジュン!カコウトンが相手だ!防衛戦では陥陣営の本領は発揮できまい!」
「一度破った相手だ。ちょうどいいハンデだ!」
「チョーリョー!貴方の相手はこのカンウです!決着をつけましょう!」
「私は既に貴方に二度敗れている。今さら決着も無かろう」
「前回、目的を果たしたのは貴方です。だから一勝一敗です。我が名はカンウ!武の礼です、貴方も名乗りなさい!」
「ふ…我が名はチョーリョー!行くぞカンウ!」
文芸部・準備室~
リョフは一人で飛び出し、俺は部屋に取り残された。
一応、俺主人公なんだけどな。今回完全に囚われの姫じゃないか。
外が騒がしくなってきた。この騒動に紛れれば脱出できるだろう。何とか逃げ出してカンウ・チョーヒと合流しよう。
リョフに黙って抜け出すのは良心の呵責があるが、俺が留まる方が争いの種になる。
もっとも、ソウソウのことだ。俺がいようといまいとリョフを潰す気かもしれない。
それでも俺がいれば彼女を逃がしてやれるかもしれない。もう俺はリョフを戦わせたくはない。
「先ほどから何ぶつぶつ一人で喋ってるんですか、リュービさん?」
「わっ、チントウ。いつの間に」
「リュービさん、ソウソウ軍の総攻撃が始まりました。今のうちに脱出しましょう!」
「わかった、すぐ出よう」
俺はチントウの案内で、教室を抜け出した。ソウソウの包囲を受けてか、あちこちで部員達の怒号が飛び交い、とても一丸となって対処できる状況ではなさそうだ。
「人に見つかると面倒ですからね、危ない、隠れて!」
「ぎゃ!」
「すみませんリュービさん、大丈夫ですか?」
「い、いや、緊急事態だからね、気にしないでくれ。早く行こう」
チントウ、結構力強いんだな…しかし、俺のことは文芸部はもちろん、今回の捕縛事件でリョフ軍の連中にもよく知られているだろうから仕方ないな。
「危ない、チントウ。隠れて!
…ふぅ、通り過ぎたみたいだな」
「あ、あにょ…リュービしゃん…」
気づけば俺はチントウを抱きしめて壁の影に隠れていた。
「ご、ごめん。考えたらチントウは別に隠れる必要なかったよね」
「ひ、ひえ、き、緊急事態ですし、気にしにゃいでくだしゃい…
その…別に嫌というわけでは…」
「おい!お前らこんな時に何イチャイチャしてやがる!…お前はリュービ!」
「しまった、見つかった!」
短髪に眼鏡をかけた男子生徒が俺に襲いかかってきた。
「お前を逃がしたら何言われるかわかったもんじゃねぇ!」
「危ない、リュービさん逃げて!」
男は殴りかかってきたが、チョーヒの拳に比べれば全然遅い。俺は男の拳をかわすと、顔面に当て身一発、体勢を崩したところで、腕を掴み投げ飛ばした。
「お、お見事です…リュービさん」
「日頃のカンウやチョーヒとの特訓が役に立ったよ。
…ところでコイツは誰だ?」
「その人はホッケー部のヨウホウです。エンジュツからリョフに寝返りました」
「ホッケー部のヨウホウ…どこかで聞いたような…あ、リカク・カクシに手を貸した奴か!伸びてるならちょうどいい。コイツを連れて帰ろう」
「一応、脱出用に用意した縄ならこちらにあります」
「ありがとう…よし、こんなもんかな」
俺は気を失ったヨウホウを縛り上げた。しかし、男一人担ぐのは面倒だな。
立ち上がろうとしたその時、こちらに駆け足で向かってくる足音が聞こえた。まずいな、こちらに真っ直ぐ向かってきている。
やり過ごせそうにないな。こうなったら物陰に隠れて奇襲をかけるしかない。ヨウホウだって倒せたんだ、やってみるか。
俺は壁に隠れ、息を殺し、足音の主を待ち構えた。
今だ!
足音の主が壁に差し掛かると同時に俺は殴りかかった!
「邪魔すんじゃねーぜ!
…アニキ!」
「チョーヒ!?」
壁から現れたのはお団子ヘアーの義妹・チョーヒだった。俺は咄嗟に拳をそらした。
そして、反射で飛んできたチョーヒの拳が、俺に気づいて鼻先で止まる。
良かった。チョーヒが相手じゃ命がいくつあっても足りないところだった…
「アニキー!!」
「げふっ!」
チョーヒは全速力で俺の胸目掛けて飛びかかってきた。車にはねられたような衝撃で俺の体が吹き飛ばされ、床に押し倒された。
「アニキー!会いたかったよ~!」
「ぐはっ!…チョーヒ、そんなに強く抱きつかれると苦しい…」
「うるさい!心配したんだからな!このくらい我慢しろ!」
「ごめんな、チョーヒ、よしよし」
「へへへ、アニキ~
…なんかアニキからリョフの匂いがする」
「え゛っ!」
「そういやアニキ、ずっとリョフに抱きつかれてたんだったな…」
「チョーヒ…さん…?」
チョーヒはなおも抱きついたまま、俺を覗きこむように睨み付けてくる。
「イタタタタ…チョーヒそんなに体を擦り付けるな」
「うるさい!オレの匂いになるまで我慢しろ!」
「そんな擦り付けられると、ちょっと色々まずいんだが…男的に…」
「オホン、リュービさん、チョーヒさん、今そんなことしてる時間はありませんよ!」
「すみませんチントウさん!」
俺とチョーヒは素早く立ち上がり、気をつけの姿勢を取る。
「まあ、いいですけどね!」
「何か怒ってます?」
「怒ってません!
とにかく早く脱出しますよ!」
「そうだ、チョーヒ。コイツを運ぶのを手伝ってくれ」
「なんだコイツ?」
「コイツはヨウホウ、リカク・カクシの協力者さ」
「アニキ、お手柄じゃねーか。よし、運んでやるぜ!」
俺達は無事文芸部を脱出し、正面入口までやってきた。既に大勢は決したようで、リョフ軍の姿はほとんど見えない。
「兄さん!良かった、無事だったんですね!」
俺達に気づいて長い黒髪の義妹・カンウがこちらに向かってきた。
「カンウ!会えて良かった!
ところでリョフはどうなった!」
「それが…」
「ふー…ふー…」
校門の上によじ登り、鼻息荒くソウソウ軍を睨み付けるポニーテールの少女・リョフがそこにいた。
その鬼気迫る姿は確かに鬼神の名に違わない出で立ちだ。
周囲を取り囲む無数のソウソウ軍をただ見てることしかできない様子だった。
「取り囲んでるんですが、抵抗が激しくて…でも時間の問題だと思います。
兄さん!近づいては危険です!」
俺は群衆をかき分け、リョフの元に走った。
「リョフ!」
「リュービ…抜け…出した…か…
もう…お別れ…なの…か…」
「リョフ!俺はここにいる!君を怖がったりしない。だから、もう、終わりにしないか」
俺はリョフに手を差し伸べた。
「ふー…ふー
…わかった…
私の…敗け…だ…投降…する…」
リョフは俺の手を取り、校門から下りた。
「ふむ、どうやらリョフと我らの戦いは終わったようだな」
リョフの投降により、文芸部は制圧され、戦いは終結した。続いてソウソウはリョフ以下、軍団の主な者達への処遇について裁きの場を設けた。
「それではこれより捕虜の処遇について裁きを下す。まずはリョフ!」
カコウトン・カコウエンに連行される形でリョフがソウソウの前に連れてこられた。両腕を拘束されているが、彼女にはもう反抗する素振りは見えない。
「リョフよ、勢力を拡げるということは大なり小なり選挙戦に色気を見せたということだ。問おう。お前は何を望んでここにいる」
「チンキュウ…言った…会長に…なれば…赤兎と…一緒に…学校に…通えると…」
「赤兎?あの犬のことか。ふふ、そんなことでお前は…いや、お前にとってはそんなことではないんだな。
では、お前もチンキュウの口車に乗せられ、騙された一人か?」
「いや…共犯者…だ…」
「そうか…お前にはソンケンを始め多くの人を負傷させた罪科がある。私が生徒会代行権限を使えばお前も退学にさせることもできる」
「待ってくれソウソウ!退学までは許してあげて欲しい」
俺は思わず二人の前に飛び出して、ソウソウに向かって訴えた。
「リュービ、この狼の子を庇うのか?」
「リョフは確かに化物の様に強かった。でも、強いだけで普通の女の子なんだ。
彼女が普通の女の子として暮らす機会まで奪わないであげて欲しい」
「リュービ…」
「リョフ、お前はリュービが好きだったな。赤兎とリュービならどちらが大事だ?」
「どちらも…大事…どちらも…大好き…!」
「リョフ、お前に三つの罰を与える!」
「一つ、今後一切の戦闘行為を禁じる。
二つ、選挙戦が終わるまでお前は自宅謹慎とする。
三つ、謹慎後、迷惑をかけたリュービに対し、リュービに仕え、使用人として奉仕することを命じる!
この三つが守れるのなら、私が会長なった暁には、ペットとの登校を許可しよう」
「ソウソウ!リョフを使用人って、それは…」
「リュービ、女の子の一人や二人養える甲斐性がなくてどうする。私はこんな化物の面倒はごめんだ。普通の女の子と言うならお前が証明しろ」
「う…わ、わかった」
「ソウソウ…いいのか…赤兎とも…リュービとも…一緒に…いて…」
「ああ、いい。だが、忘れるな。自宅謹慎と一切の戦闘行為の禁止だ。違反したらリュービとも引き離すし、退学にする」
「わかった…ソウソウ…ありがとう…リュービ…よろしく…」
頬のこけた、目付きの鋭い男がソウソウの元に進み出る。
「ソウソウ様、そんな約束しても守られる保証はありませんよ。しかもリュービのところにいては監視もできません。私は反対です」
「ふふ、オウヒツ、職務に忠実なのはお前のいいところだが、それは無粋というものだぞ。それに私にあの笑顔は崩せんよ
では、チンキュウお前の番だ」
リョフに代わって痩せた眼鏡の男子生徒が前に出てくる。
「チンキュウ、久しいな。お前は自身の才能を鼻にかけていたが、これはどういうことだ?」
「いかなる才能をもってしても人の心までは操れない。私の歩んだ道はそこに至るまでの道に過ぎない」
「再び私に仕える気はないか?」
「私はリョフを…いやもう誰も騙したくはない。今の私には貴方に差し上げられるものが何もない」
「ではリョフと共にリュービの元に行くのはどうだ?」
「リュービか…御免被る。あの男が最も信用ならん男だ。
リョフ、友として一つ忠告だ。男を見る目はもう少し養った方がいい」
「チンキュウ…うるさ…い」
「ふっ、ではチンキュウ、お前にも自宅謹慎及び一切の戦闘行為の禁止を命じる。その後は好きにしろ」
「慎んでお受けしよう」
チンキュウはそのままこの場を去ってしまった。
「次、コウジュン」
続いて顔に傷のある、ガタイのいい男子生徒が前に出された。
「お前は私に仕える気があるか?」
「我は本来、選挙戦には興味がなかった。リョフ様の強さに魅せられここまで来た。今リョフ様が戦いから退かれるというのであれば我もまた戦う理由がなくなる」
「わかった。お前も同じく自宅謹慎とする」
「次、チョーリョー」
薄く青みがかった髪に、青い道着姿の男子生徒が前に出る。
「お前の話はカコウトンから聞いている。最強を求めるということだが、お前の言う最強とはリョフのことか?」
「リョフ様は最強であった。だが、それを望まずそれを拒否した。故に最強の座から降りた」
「最強とは自分でなるのか、他人が決めるのか」
「両方だ。己が求め、他者が認める。その先に最強はある」
「チョーリョー、お前が最強の道を求める者ならこのソウソウに仕えよ。道だけなら私が用意してやろう」
「わかりました。
このチョーリョー、貴方にお仕えいたします」
「では、これにてリョフ軍への裁きを終わる!ソウソウ軍の精鋭達よ!我等はリョフに勝った!だが、選挙戦の戦いはまだこれからだ!勝ち続けて行くぞ!」
ソウソウの声と共に軍団が一体となり閧の声を上げた。その声は学園中に響き渡った。
こうして最強の鬼神の伝説は幕を下ろした。
これから始まるのは、とある女子高生の話。一途で、不器用で、可愛いものが好きで、そんな女子高生の話。
でも、それはまた別のお話。
さぁ、選挙戦も後半戦に突入だ。果して俺達に何が待ち受けているのだろうか。
第三部 完
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「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
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