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第6章:心に傷を負う者たち

第8話:貸切風呂

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 あとのことにはなるが、カズマ=マグナが悪いわけではないことが判明する。宿側の手違いで、同室に泊まる男女が貸切風呂を使用するということで、てっきり、2人が夫婦だったり、恋人同士だろうということで、2人でひとつの貸切風呂を用意していただけの話であった。

 しかしながら、それで困惑してしまうのは産まれたままの姿になっているエーリカとタケルの2人である。いくら昔からお兄ちゃんお兄ちゃんとある程度、親しみを込めている相手と言えども、16歳になってまで湯舟のある貸切風呂に一緒に入りたいとは思わなかった。

 タケル側もタケル側でエーリカをひとりの女性として見ているつもりはまったくなく、可愛い妹としか見れないのであった。それゆえに、この状況をどうしたものかと困り顔になってしまうのであった。

 エーリカはそんな困り顔のタケルお兄ちゃんに対して、はぁぁぁとため息をひとつつく。

「あたしが湯舟に浸かっている間、タケルお兄ちゃんは身体を流しなさいよ」

「うん? ああ。ここで外に飛び出るわけにもいかんからなぁ。んじゃ、俺が身体を洗い終わった後に交替してくれ」

「うん、わかった」

 タケルはエーリカの了承を得ると、洗い場で木製の風呂椅子に座り、身体をごしごしと石鹸とタオルで洗い始めるのであった。エーリカはタケルはただのお兄ちゃんなのよねぇと湯けむりと気持ちの良い湯の温度を用いて、頭の中を段々と良い意味でのバカにしていくのであった。

「タケルお兄ちゃんの身体って、そんなに傷だらけだったっけ?」

「ん? いつの時の話と比べてるんだ?」

「前にいっしょにお風呂に入ったのって、もうどれくらい前だっけ? 詳しくは覚えてないけど、あの頃に比べると、かなり傷が増えた感じがするぅ~」

 エーリカは貸切風呂の中で外の景色を見飽きたのか、タケルお兄ちゃんの方に視線を移し替えていた。タケルお兄ちゃんの不思議なところは、身体からまず洗うことである。そして、つぎに頭を洗うのだ。昔に洗い方が反対じゃないの? って、ツッコンだような記憶がある。

 そのタケルお兄ちゃんが頭を洗っているので、頭から下が丸見えであった。そんなタケルお兄ちゃんの身体には明らかに傷が増えていたのである。この大戦おおいくさでタケルお兄ちゃんが頑張っていた証拠なんだなと思うと、エーリカは嬉しく思う。

 それほどまでに、ホバート王国が分割されたことによって起きた大戦おおいくさはホバート王国自体だけでなく、そのいくさに身を投じたエーリカたちにも傷を負わせた。その傷を癒すためにも温泉慰労会がおこなわれたのである。エーリカはタケルお兄ちゃんの身体についている傷を数えつつ、つい、顔がほころんでしまうのであった。

 身体を洗い終えたタケルは、エーリカと交替してもらおうとエーリカの方を向く。そして、エーリカがニコニコとした笑顔だったために、タケルは頭にクエスチョンマークをひとつ浮かべつつ、首を傾げてしまうのであった。

「何を嬉しそうな顔してんだ? 戦場を嫌ほど体験した今となっちゃ、男の身体なんて、とっくに見飽きてんだろ」

「それはそうなんだけどぉ。まあ、いいや。今度はあたしが身体を洗う番ねぇ」

 エーリカは前を隠そうともせずに湯舟から出てくる。タケルはそんなに男としての威厳がないもんかねぇと思いながらも、湯舟にどっぷりと浸かることになる。そして、エーリカの方を見ずに、湯舟から見える外の景色に目を移すのであった。しかしながら、タケルも外の景色をすぐに見飽きたのか、自然と身体を洗っているエーリカの方へと視線が向いてしまうのであった。

「しっかし、昔からたいして成長しねえなぁ。どことは言わねぇぶへっ!」

「うっさい。あたしだって気にしてるんだから、そこの部分についてはタケルお兄ちゃんでも言っていいことと悪いことがある」

 エーリカは近くにあった木製の桶のひとつを右手で掴むや否や、失礼なことを言うタケルお兄ちゃんの顔面に向かって、クリーンヒットさせる。タケルはいたたた……と言いながら、赤くなってしまった鼻を抑えるのであった。タケルはエーリカの肉付きに触れぬように、次のような発言をする。

「エーリカも身体のあちこちに斬り傷や矢傷があるんだな」

「そりゃそうよ。タケルお兄ちゃんにはセツラお姉ちゃんを護ってもらえるようにと配置をしているけど、あたしが立っているのは皆の最前線よ。そりゃもう、死ぬかと思うくらいに矢が飛んできたわ」

 エーリカは自分の動きが阻害されすぎない程度の重さの甲冑を身に着けて、最前線で血濡れの女王ブラッディ・エーリカの団を率いて、大戦おおいくさを戦い抜いた。それゆえに少女としては似つかわしいいくさ傷が身体のあちこちにあった。しかしながら、エーリカはその傷のひとつすら、恥だとは思わなかった。むしろ、いくさによる傷はエーリカにとっての誇りであった。

 そんなエーリカの身体を見ていると、今度はタケルのほうがエーリカの身体につく傷を数え始め、さらにはニコニコとした笑顔になっていく。顔がほころんだことでタケルはやっと、ああ、エーリカが感じていた感情はこれなんだなと思えるようになる。

「ふぅ、さっぱりした。タケルお兄ちゃん、ちょっと横にずれてよ」

「ん? いっしょに湯舟に入るのか? さすがにそれはいただけないと思うぞ?」

 エーリカはすっぽんぽんのままでタケルの前で仁王立ちし、さらには横に動いてほしいと言い出す始末であった。こいつ、本当に女を捨ててるなぁ……と思わざるをえないタケルである。

「何言ってんのよ。早くしてよ、身体が冷えちゃうじゃない」

「はいはい。でも、後悔しても遅いからな?」

 なーにが後悔だと思ってしまうエーリカである。エーリカはタケルお兄ちゃんの横を陣取り、ふぅぅぅ~~~と気持ち良さそうな声を出すのであった。タケルは意識しないでおこうと努める。しかし、努力するだけ無駄だった。そんなことで男の性欲が消えるくらいであれば、誰でも悟りを開くことが出来る。さらにはホトケさまへと転生することも可能であろう。

「……。タケルお兄ちゃんって、見境なしなの?」

「だから言っただろうがよっ。ああ、畜生。なんで妹相手に起つんだ……。穴があったら入りたい」

 エーリカが身体を洗っている姿を見ている時は、タケルのおちんこさんは平常運転であった。だが、女を捨てていると感じてしまうエーリカだとしてもだ。エーリカが自分の眼の前で仁王立ちした時から、タケルのおちんこさんは男としての平常運転を開始してしまった。その現象が本格化する前にエーリカを遠ざけようと、後悔うんぬんの台詞を吐いてみせた。しかし、エーリカにとって、タケルはあくまでも【お兄ちゃん】である。

 兄妹仲良く同じ湯舟に入るのに、何の戸惑いが必要なのだろうか? と考えていた。タケルお兄ちゃんのおちんこさんが男としての平常運転を本格化させるまではだ。

「うん、あたしが悪かった。皆には内緒にしとくね?」

「頼む……。皆に言いふらされたら、俺は血濡れの女王ブラッディ・エーリカの団にいられなくなる……」

 何を大袈裟な……と思ってしまうエーリカであった。自分でも女をかなり捨てたつもりであったが、タケルお兄ちゃんのおちんこさんを反応させれたことに、何故か誇り高い気分になってしまう。エーリカは深い部分ではわからないが、タケルお兄ちゃんに勝ったと喜んでしまうのであった。
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