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第9章:スタート地点
第1話:展望
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――竜皇バハムート3世歴462年 4月1日――
まだまだ戦後復興が進まぬ中、王都:キヤマクラにある王城にて、イソロク=ホバート王は客人を招き、その客人からの意志を聞き取りしていた。この時期になって、ようやくイソロク王は自分の足で立ち上がり、日々の政務を少しづつこなせるようになっていた。そのイソロク王は客人を眼の前にして、立ち眩みが起きそうになってた。
イソロク王は今、王城の自分専用の執務室にいた。王以外にこの執務室に居るのは、タラオウ=フタグ大臣他に2名の大臣。そして、血濡れの女王の団の首魁とその軍師。さらには何故、ここに呼ばれたのかわからないといった顔つきのホランド将軍であった。
「エーリカ。そなたの意志はあれから半年以上経っても変わらぬか?」
「はい。恐れながら、あたしの野望はあたしの中で膨らみ続けています。そして、それをイソロク王が後押ししてくれることを信じています」
イソロク王から何度、しつこく聞かれても、エーリカ=スミスは頑なに自分の主張を曲げようとはしなかった。イソロク王はヤレヤレ……と嘆息し、椅子に腰を掛ける。その後、ふぅぅぅと長い息を吐き、タラオウ大臣に発言を任せるのであった。
「わたしも言っていたように、エーリカ殿は夢を追い続けると言っていたでしょう。エーリカ殿。王はエーリカ殿に、この国に留まってほしいと願っている。だが、それをもう止めようとは思わぬ」
タラオウ大臣はそう言うと、手に持っていた丸まった大地図をイソロク王の前にある仕事机の上に広げて置くのであった。その地図はテクロ大陸本土とその周辺をも含めた世界地図であった。
「エーリカ殿の意志が変わらぬことを確認した今、ホバート王国が矢面に立ち、テクロ大陸本土とのやりとりを行う予定だ。ちなみにエーリカ殿からの希望はあるか?」
タラオウ大臣がエーリカに前へ進み出るようにと促す。エーリカは我が軍の軍師である大魔導士:クロウリー=ムーンライトを伴い、仕事机に張り付くくらいに前へと出る。そして、じっくりとその世界地図を見て、エーリカはとある国のとある場所を指し示す。
「あたしとクロウリーとの話し合いでは、ここから上陸して、アデレート王国の遺児たちと接触するのが正しいと思います」
「ふむ。ケアンズ王国では無く、アデレート王国を選ぶか。それは何故か?」
「はい。アデレート王国とケアンズ王国。どちらも内乱に継ぐ内乱で国力は疲弊するばかりと聞き及んでいます。でも、ケアンズ王国はそれでもまとまっている方です」
エーリカはここまで言っておいて、口をごにょごにょさせて、言っていいのか悪いのか、悩み始めたのである。そんなエーリカに対して、イソロク王はククッ! と可笑しそうな笑みを口から零す。エーリカは急に恥ずかしさを覚えたのか、申し訳なさそうな雰囲気を身体から発するのであった。
「よいよい。そんなにかしこまらなくても。わしがエーリカほどに若く、エーリカほどの野心に燃えているなら、わしもつけ込むなら、アデレート王国の遺児たちに決まっておる」
イソロク王の方も、エーリカたちが自分たちのホバート王国に留まる案を蹴った場合、エーリカがどうするのかはある程度、考えていた。それゆえにエーリカが選びそうな上陸地点にある領主たちと水面下である交渉を進めていたのだ。
ホバート王国から見て、テクロ大陸本土へ上陸しやすい場所は、ホバート王国から海を渡り、北西に進んだアデレート王国。そして、海を渡り東周りに北へ進んだ位置にあるのがケアンズ王国であった。その中でもアデレート王国はすでに王国としての体を為していない。
アデレート王国は今から170年前には分裂してしまい、それぞれの州同士でしのぎを削り合ってきた。アデレート王家は年数が経れば経るほど、領地を失い、近年ではケアンズ王国と国境を有するヨク州まで追い込まれていたのだ。
それでもアデレート王国が真に滅びていないのは、4人の武王の存在であった。アデレート王国は200年前から続いている戦国乱世の時代において、1番の激戦区となり続けている。強き者が強き者を引き寄せるという法則がある。前剣王のマンチス=カーンがアデレート王国の2分の1を支配してみせた。
だが、前剣王の強さに惹かれたのか、他の武王たちもアデレート王国へと介入する。泥沼の戦いの中、前剣王のマンチス=カーンはアデレート王国全土を支配するには至らなかった。そして、さらにはマンチス=カーンは日々、戦い続けるために圧政を敷く。それゆえにマンチス=カーンにはもうひとつ字名がつけられることになる。
マンチス=カーンは誉れある『剣王』だけでなく、『凶王』という不名誉な字名も付けられる。遅々として増えぬ領土。身体に忍び寄ってくる老い。そして、積み重なる不名誉。戦うことしか知らぬ出来ぬマンチス=カーンですら、お先真っ暗な将来が脳内を駆け巡っていたに違いない。
「つけ込む先としては、アデレート王国の遺児たちがいるヨク州が良さそうとは見える。だが、アデレート王国の内情からして、なかなかの賭けになるぞ? それでも良いのか?」
「はい。こちらで掴んでいる情報からも、なかなか分が悪い賭けなのは承知しています。でも、ハイリスクゆえにハイリターンが望めます」
エーリカの言を受け、イソロク王はカッカッカ! と気持ち良さそうに笑ってみせる。もし、自分がエーリカのように若く、さらには才器に溢れ、大きすぎる夢を持っていたなら、ホバート王国全体としても、かなり違った未来を見いだせていただろうと思ってしまう。
だが、エーリカが持っているモノをイソロク王は何一つ持っていなかった。それゆえにイタズラに国土並びに国民たちを傷つけることになってしまった。その後遺症の重さはとんでもないモノであり、終戦から半年経った今でも、後始末に追われる日々となってしまっている。
そんな状況下でエーリカたちをテクロ大陸本土に行かせるのは危険すぎた。エーリカたちを見殺しにする可能性が大きいのだ。ホバート王国の北都:ファイブスターに出現した特異点は段々と収束を見せつつあったが、まだまだ予断は許されなかった。いつ、そこから魔が噴き出すかはわからない。
もし、この先、その特異点が収束を止め、さらには急激な広がりを見せるのであれば、ホバート王国はその特異点を抑え込むことにいっぱいっぱいになる。そうなれば、エーリカたちのサポートは疎かになるのは間違いない。そういった事情をタラオウ=フタグ大臣を通して、エーリカたちに散々忠告してきた。
だが、エーリカの意志が曲がることは無かった。そして、体調が回復しつつあったイソロク王は、エーリカを王城へと招き、イソロク王直々にエーリカの意志を聞くとい場を設けたのである。イソロク王はこれも『若さ』ゆえなのかと思いつつも、これ以上、エーリカをホバート王国に留まらせようとはしなかった……。
まだまだ戦後復興が進まぬ中、王都:キヤマクラにある王城にて、イソロク=ホバート王は客人を招き、その客人からの意志を聞き取りしていた。この時期になって、ようやくイソロク王は自分の足で立ち上がり、日々の政務を少しづつこなせるようになっていた。そのイソロク王は客人を眼の前にして、立ち眩みが起きそうになってた。
イソロク王は今、王城の自分専用の執務室にいた。王以外にこの執務室に居るのは、タラオウ=フタグ大臣他に2名の大臣。そして、血濡れの女王の団の首魁とその軍師。さらには何故、ここに呼ばれたのかわからないといった顔つきのホランド将軍であった。
「エーリカ。そなたの意志はあれから半年以上経っても変わらぬか?」
「はい。恐れながら、あたしの野望はあたしの中で膨らみ続けています。そして、それをイソロク王が後押ししてくれることを信じています」
イソロク王から何度、しつこく聞かれても、エーリカ=スミスは頑なに自分の主張を曲げようとはしなかった。イソロク王はヤレヤレ……と嘆息し、椅子に腰を掛ける。その後、ふぅぅぅと長い息を吐き、タラオウ大臣に発言を任せるのであった。
「わたしも言っていたように、エーリカ殿は夢を追い続けると言っていたでしょう。エーリカ殿。王はエーリカ殿に、この国に留まってほしいと願っている。だが、それをもう止めようとは思わぬ」
タラオウ大臣はそう言うと、手に持っていた丸まった大地図をイソロク王の前にある仕事机の上に広げて置くのであった。その地図はテクロ大陸本土とその周辺をも含めた世界地図であった。
「エーリカ殿の意志が変わらぬことを確認した今、ホバート王国が矢面に立ち、テクロ大陸本土とのやりとりを行う予定だ。ちなみにエーリカ殿からの希望はあるか?」
タラオウ大臣がエーリカに前へ進み出るようにと促す。エーリカは我が軍の軍師である大魔導士:クロウリー=ムーンライトを伴い、仕事机に張り付くくらいに前へと出る。そして、じっくりとその世界地図を見て、エーリカはとある国のとある場所を指し示す。
「あたしとクロウリーとの話し合いでは、ここから上陸して、アデレート王国の遺児たちと接触するのが正しいと思います」
「ふむ。ケアンズ王国では無く、アデレート王国を選ぶか。それは何故か?」
「はい。アデレート王国とケアンズ王国。どちらも内乱に継ぐ内乱で国力は疲弊するばかりと聞き及んでいます。でも、ケアンズ王国はそれでもまとまっている方です」
エーリカはここまで言っておいて、口をごにょごにょさせて、言っていいのか悪いのか、悩み始めたのである。そんなエーリカに対して、イソロク王はククッ! と可笑しそうな笑みを口から零す。エーリカは急に恥ずかしさを覚えたのか、申し訳なさそうな雰囲気を身体から発するのであった。
「よいよい。そんなにかしこまらなくても。わしがエーリカほどに若く、エーリカほどの野心に燃えているなら、わしもつけ込むなら、アデレート王国の遺児たちに決まっておる」
イソロク王の方も、エーリカたちが自分たちのホバート王国に留まる案を蹴った場合、エーリカがどうするのかはある程度、考えていた。それゆえにエーリカが選びそうな上陸地点にある領主たちと水面下である交渉を進めていたのだ。
ホバート王国から見て、テクロ大陸本土へ上陸しやすい場所は、ホバート王国から海を渡り、北西に進んだアデレート王国。そして、海を渡り東周りに北へ進んだ位置にあるのがケアンズ王国であった。その中でもアデレート王国はすでに王国としての体を為していない。
アデレート王国は今から170年前には分裂してしまい、それぞれの州同士でしのぎを削り合ってきた。アデレート王家は年数が経れば経るほど、領地を失い、近年ではケアンズ王国と国境を有するヨク州まで追い込まれていたのだ。
それでもアデレート王国が真に滅びていないのは、4人の武王の存在であった。アデレート王国は200年前から続いている戦国乱世の時代において、1番の激戦区となり続けている。強き者が強き者を引き寄せるという法則がある。前剣王のマンチス=カーンがアデレート王国の2分の1を支配してみせた。
だが、前剣王の強さに惹かれたのか、他の武王たちもアデレート王国へと介入する。泥沼の戦いの中、前剣王のマンチス=カーンはアデレート王国全土を支配するには至らなかった。そして、さらにはマンチス=カーンは日々、戦い続けるために圧政を敷く。それゆえにマンチス=カーンにはもうひとつ字名がつけられることになる。
マンチス=カーンは誉れある『剣王』だけでなく、『凶王』という不名誉な字名も付けられる。遅々として増えぬ領土。身体に忍び寄ってくる老い。そして、積み重なる不名誉。戦うことしか知らぬ出来ぬマンチス=カーンですら、お先真っ暗な将来が脳内を駆け巡っていたに違いない。
「つけ込む先としては、アデレート王国の遺児たちがいるヨク州が良さそうとは見える。だが、アデレート王国の内情からして、なかなかの賭けになるぞ? それでも良いのか?」
「はい。こちらで掴んでいる情報からも、なかなか分が悪い賭けなのは承知しています。でも、ハイリスクゆえにハイリターンが望めます」
エーリカの言を受け、イソロク王はカッカッカ! と気持ち良さそうに笑ってみせる。もし、自分がエーリカのように若く、さらには才器に溢れ、大きすぎる夢を持っていたなら、ホバート王国全体としても、かなり違った未来を見いだせていただろうと思ってしまう。
だが、エーリカが持っているモノをイソロク王は何一つ持っていなかった。それゆえにイタズラに国土並びに国民たちを傷つけることになってしまった。その後遺症の重さはとんでもないモノであり、終戦から半年経った今でも、後始末に追われる日々となってしまっている。
そんな状況下でエーリカたちをテクロ大陸本土に行かせるのは危険すぎた。エーリカたちを見殺しにする可能性が大きいのだ。ホバート王国の北都:ファイブスターに出現した特異点は段々と収束を見せつつあったが、まだまだ予断は許されなかった。いつ、そこから魔が噴き出すかはわからない。
もし、この先、その特異点が収束を止め、さらには急激な広がりを見せるのであれば、ホバート王国はその特異点を抑え込むことにいっぱいっぱいになる。そうなれば、エーリカたちのサポートは疎かになるのは間違いない。そういった事情をタラオウ=フタグ大臣を通して、エーリカたちに散々忠告してきた。
だが、エーリカの意志が曲がることは無かった。そして、体調が回復しつつあったイソロク王は、エーリカを王城へと招き、イソロク王直々にエーリカの意志を聞くとい場を設けたのである。イソロク王はこれも『若さ』ゆえなのかと思いつつも、これ以上、エーリカをホバート王国に留まらせようとはしなかった……。
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