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第12章:アデレート王国
第2話:騎馬民族
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レイヨンはエーリカの言わんとしていることがいまいちわからなかった。そんな不可思議な顔をしているレイヨンに馬を近づけたクロウリーが、レイヨンにゴニョゴニョと耳打ちする。レイヨンは謎が解けたとばかりに明るい顔になり、後方へと下がっていく。
「不満が溜まってるのは、アベルやレイヨンだけじゃないわ。でも、今はただ単に仕掛けるにはこちらの状況が悪いだけ。さあ、急いで次の町に入りましょ。あたしたちを高見から値踏みしといて、それで済むとは思わせないわ」
「それでこそ、我が主のエーリカ殿です。賊にとって、先生たちはさぞかし羊の群れに見えていることでしょう。狩る側の狼たちなのだから、奴らは間違っていません。ただ、奴らは勘違いしています。羊飼いは決して羊そのものではないってことを」
この時のクロウリーは、ここ最近では1番の邪悪な笑みをその顔に浮かべていた。徒歩のみの軍団であるがゆえに純粋な騎兵軍団にはボコボコにされる。だが、それはあくまでも徒歩のみならばだ。
血濡れの女王の団の先頭集団が石壁に囲まれた町に入る。門をくぐり、続々と町の中へと後方部隊が入っていく。血濡れの女王の団と並走していた賊たちは、チッ! と舌打ちし、馬を反転させて、その場を後にしようとする。
だが、奴らは気づいていなかった。7人の騎馬武者が自分たちの背後を急襲しようとしている事実に。賊たちが気づいた時にはすでに、7人の騎馬武者が自分たちのすぐ真後ろにまで接近してきていた。賊の頭領は大声をあげて、自分たちを襲おうとしている騎馬武者を屠れと部下たちに命じる。
馬に騎乗している賊たちは腰に佩いた鞘から三日月のように湾曲した刀を抜き出す。しかし、奴らはそうしておきながらも、その三日月刀を存分に振り回す前に、次々と落馬してしまうのであった。
それほどまでに7人の騎馬武者たちの動きは素早かった。50の騎馬兵の間をくぐり抜け、その手に持つ武器でバッサバッサと賊たちに斬りつけ、さらには賊たちを落馬させる。そうしておきながら、7人の騎馬武者はそこで馬の足を止めずに、その場を走り抜ける。
「ちっ! 舐めやがって! こちとら、赤子の頃から馬と寝食を共にしてきてんだっ! 徒歩集団のまとめ役風情に舐められっぱなしになるわけがないわっ!」
この賊徒たちは遊牧民出身で構成されていた。アデレート王国の正規兵相手でも、十分に戦える自負を持っていた。だが、奴らの自負が奴ら自身を追い詰める結果となる。賊の頭領は三日月刀を右手に、左手で手綱を持ち、足で馬の腹を抑える。そうすることで、馬をまるで自分の足のように操り、前方を走る7人の騎馬武者を追いかける。
「おやおや……。騎馬民族の誇りなのか知りませんが、相当に頭に血が昇っているみたいですね」
「もっと引き付けるわよ。あちらの方が圧倒的に、あたしたちよりは馬術は上。だからこそ、次の手は確実に決めないといけないわっ!」
エーリカたち血濡れの女王の隊長格と賊との距離は20馬身ほどの開きを見せていた。エーリカたちが馬をゆっくりと大きく右回りになるように走らせ、平地をどんどん進んでいく。
左手に竹林。右手に川が流れる土地にまでエーリカたちは馬を走らせた。その頃には賊徒たちはエーリカたちと3馬身差まで詰め寄っていた。エーリカたちはここで浅い川を渡る選択を取る。賊の頭領は笑いが込み上がってきていた。こいつらの馬の走らせ方は素人に毛が生えた程度にしか、その目には映らなかった。川の中ほどに到達する頃には、奴らを追い越してしまえるとまで思っていた。
「今よ! 一斉掃射!」
「なん……だと!? 武器を投げ捨ててきただけじゃなくて、こちらに弓を向けてきただとっ!?」
エーリカたちはその手に持つ武器を真後ろまで接近してきていた賊徒たちに向かってぶん投げる。それによって、賊徒たち数名が馬から落馬する。そこに追い打ちをかけるようにエーリカたちは複合弓を両手で構え、賊徒たちに次々と矢を射かけるのであった。
この距離で前からすっ飛んでくる矢を躱せるわけがない。賊徒たちは次々と矢を当てられ、さらには落馬してしまう。賊徒の頭領もまた、この至近距離で複合弓から発射された矢を喰らい、あえなく落馬してしまうのであった。
「さあ、逃げれないわよ。あんたたちのことだから、素人に毛が生えた程度の乗り手じゃ、こんな浅い川ですらまともに渡れないし、ましてや馬上で弓を扱うことも出来ないって思っていたでしょ?」
「チッ! まったくもって、その通りだっ! 嬢ちゃんにしてはやるじゃねえかっ! だが、第2第3の賊徒がお前たちを襲うぞっ! お前たちを美味しそうな羊だと思っている連中は、このテクロ大陸にはごまんといるらなっ!」
賊徒の頭領は腹に矢を受け、さらには落馬により全身をくまなく地面に打ち付けていた。そうでありながらも、馬上から美しい刀文が走る刀をこちらに突きつけてくる女武者に悪態をついてみせる。
「ご忠告、ありがとう。他の賊徒もぶちのめして、あんたが先に向かった場所へと次々と送り込んであげるわ」
エーリカはそう言うと、ミンミンに顎で指令を下す。ミンミンは先ほどぶん投げた金属製の大槌を拾い上げ、浅い川に半分、身体を沈めさせている賊徒の頭領に接近していく。そして、大きく上へと大槌を振りかぶる。
「あの世でエーリカの名前を広めておいてほしいんだべさ! おいらたちは血濡れの女王の団! そして、おいらたちを導くのはエーリカ=スミス女王様だべさっ!」
ミンミンはそう言った後、天高く振り上げた大槌を賊徒の頭領の頭へとぶち込む。骨と肉が巨大な物体に押しつぶされる音が周囲に響き渡る。賊徒は頭領をやられたことで、徒歩で逃げ出そうとする。しかし、エーリカは一切の容赦を賊徒に見せなかった。
「これより、賊徒の殲滅を行うわっ! 情けは一切無用! 情けをかけた分、被害を受けるのは善良な民よっ! ホバート王国だけでなく、あたしたちがアデレート王国の民を救う! これがあたしたちの第1歩よっ!」
エーリカの宣言を受け、騎馬武者たちが右手を降り上げる。そうした後、予備として持っている刀を鞘から抜き出し、逃げ惑う賊徒たちを殲滅していく。元遊牧民の賊徒たち50は瞬く間にエーリカたちによって、この世に別れを告げる。
「エーリカ殿。賊徒の殲滅を完了しました。賊徒の亡骸はどうします?」
「いくら賊徒といえども、死体に鞭打つような真似はしないわ。一か所に集めて土葬にしましょ。まあ、その支度の間に野の獣に少しくらい齧られるのは、さすがに彼らの業としか言いようが無いけど」
「では、そのように。町に戻った後、兵から人夫を出します。エーリカ殿。初陣の勝利、お見事です」
「賊徒相手に初陣も何も無いけど、とりあえずは喜んでおくわ」
「不満が溜まってるのは、アベルやレイヨンだけじゃないわ。でも、今はただ単に仕掛けるにはこちらの状況が悪いだけ。さあ、急いで次の町に入りましょ。あたしたちを高見から値踏みしといて、それで済むとは思わせないわ」
「それでこそ、我が主のエーリカ殿です。賊にとって、先生たちはさぞかし羊の群れに見えていることでしょう。狩る側の狼たちなのだから、奴らは間違っていません。ただ、奴らは勘違いしています。羊飼いは決して羊そのものではないってことを」
この時のクロウリーは、ここ最近では1番の邪悪な笑みをその顔に浮かべていた。徒歩のみの軍団であるがゆえに純粋な騎兵軍団にはボコボコにされる。だが、それはあくまでも徒歩のみならばだ。
血濡れの女王の団の先頭集団が石壁に囲まれた町に入る。門をくぐり、続々と町の中へと後方部隊が入っていく。血濡れの女王の団と並走していた賊たちは、チッ! と舌打ちし、馬を反転させて、その場を後にしようとする。
だが、奴らは気づいていなかった。7人の騎馬武者が自分たちの背後を急襲しようとしている事実に。賊たちが気づいた時にはすでに、7人の騎馬武者が自分たちのすぐ真後ろにまで接近してきていた。賊の頭領は大声をあげて、自分たちを襲おうとしている騎馬武者を屠れと部下たちに命じる。
馬に騎乗している賊たちは腰に佩いた鞘から三日月のように湾曲した刀を抜き出す。しかし、奴らはそうしておきながらも、その三日月刀を存分に振り回す前に、次々と落馬してしまうのであった。
それほどまでに7人の騎馬武者たちの動きは素早かった。50の騎馬兵の間をくぐり抜け、その手に持つ武器でバッサバッサと賊たちに斬りつけ、さらには賊たちを落馬させる。そうしておきながら、7人の騎馬武者はそこで馬の足を止めずに、その場を走り抜ける。
「ちっ! 舐めやがって! こちとら、赤子の頃から馬と寝食を共にしてきてんだっ! 徒歩集団のまとめ役風情に舐められっぱなしになるわけがないわっ!」
この賊徒たちは遊牧民出身で構成されていた。アデレート王国の正規兵相手でも、十分に戦える自負を持っていた。だが、奴らの自負が奴ら自身を追い詰める結果となる。賊の頭領は三日月刀を右手に、左手で手綱を持ち、足で馬の腹を抑える。そうすることで、馬をまるで自分の足のように操り、前方を走る7人の騎馬武者を追いかける。
「おやおや……。騎馬民族の誇りなのか知りませんが、相当に頭に血が昇っているみたいですね」
「もっと引き付けるわよ。あちらの方が圧倒的に、あたしたちよりは馬術は上。だからこそ、次の手は確実に決めないといけないわっ!」
エーリカたち血濡れの女王の隊長格と賊との距離は20馬身ほどの開きを見せていた。エーリカたちが馬をゆっくりと大きく右回りになるように走らせ、平地をどんどん進んでいく。
左手に竹林。右手に川が流れる土地にまでエーリカたちは馬を走らせた。その頃には賊徒たちはエーリカたちと3馬身差まで詰め寄っていた。エーリカたちはここで浅い川を渡る選択を取る。賊の頭領は笑いが込み上がってきていた。こいつらの馬の走らせ方は素人に毛が生えた程度にしか、その目には映らなかった。川の中ほどに到達する頃には、奴らを追い越してしまえるとまで思っていた。
「今よ! 一斉掃射!」
「なん……だと!? 武器を投げ捨ててきただけじゃなくて、こちらに弓を向けてきただとっ!?」
エーリカたちはその手に持つ武器を真後ろまで接近してきていた賊徒たちに向かってぶん投げる。それによって、賊徒たち数名が馬から落馬する。そこに追い打ちをかけるようにエーリカたちは複合弓を両手で構え、賊徒たちに次々と矢を射かけるのであった。
この距離で前からすっ飛んでくる矢を躱せるわけがない。賊徒たちは次々と矢を当てられ、さらには落馬してしまう。賊徒の頭領もまた、この至近距離で複合弓から発射された矢を喰らい、あえなく落馬してしまうのであった。
「さあ、逃げれないわよ。あんたたちのことだから、素人に毛が生えた程度の乗り手じゃ、こんな浅い川ですらまともに渡れないし、ましてや馬上で弓を扱うことも出来ないって思っていたでしょ?」
「チッ! まったくもって、その通りだっ! 嬢ちゃんにしてはやるじゃねえかっ! だが、第2第3の賊徒がお前たちを襲うぞっ! お前たちを美味しそうな羊だと思っている連中は、このテクロ大陸にはごまんといるらなっ!」
賊徒の頭領は腹に矢を受け、さらには落馬により全身をくまなく地面に打ち付けていた。そうでありながらも、馬上から美しい刀文が走る刀をこちらに突きつけてくる女武者に悪態をついてみせる。
「ご忠告、ありがとう。他の賊徒もぶちのめして、あんたが先に向かった場所へと次々と送り込んであげるわ」
エーリカはそう言うと、ミンミンに顎で指令を下す。ミンミンは先ほどぶん投げた金属製の大槌を拾い上げ、浅い川に半分、身体を沈めさせている賊徒の頭領に接近していく。そして、大きく上へと大槌を振りかぶる。
「あの世でエーリカの名前を広めておいてほしいんだべさ! おいらたちは血濡れの女王の団! そして、おいらたちを導くのはエーリカ=スミス女王様だべさっ!」
ミンミンはそう言った後、天高く振り上げた大槌を賊徒の頭領の頭へとぶち込む。骨と肉が巨大な物体に押しつぶされる音が周囲に響き渡る。賊徒は頭領をやられたことで、徒歩で逃げ出そうとする。しかし、エーリカは一切の容赦を賊徒に見せなかった。
「これより、賊徒の殲滅を行うわっ! 情けは一切無用! 情けをかけた分、被害を受けるのは善良な民よっ! ホバート王国だけでなく、あたしたちがアデレート王国の民を救う! これがあたしたちの第1歩よっ!」
エーリカの宣言を受け、騎馬武者たちが右手を降り上げる。そうした後、予備として持っている刀を鞘から抜き出し、逃げ惑う賊徒たちを殲滅していく。元遊牧民の賊徒たち50は瞬く間にエーリカたちによって、この世に別れを告げる。
「エーリカ殿。賊徒の殲滅を完了しました。賊徒の亡骸はどうします?」
「いくら賊徒といえども、死体に鞭打つような真似はしないわ。一か所に集めて土葬にしましょ。まあ、その支度の間に野の獣に少しくらい齧られるのは、さすがに彼らの業としか言いようが無いけど」
「では、そのように。町に戻った後、兵から人夫を出します。エーリカ殿。初陣の勝利、お見事です」
「賊徒相手に初陣も何も無いけど、とりあえずは喜んでおくわ」
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