薔薇の令嬢と守護騎士の福音歌(ゴスペル)

ももちく

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第7章:脱出

6:筋肉の盾

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(ふんっ。どこまでも生意気な小娘也。まるでわれの力を値踏みしてやろうとでも言いたげ也)

 始祖神:S.N.O.Jは自分の後方にある玉座に座るメアリー帝を一息で殺してやろうかとすら思ったが、それでは恩を仇で返すことになるのでやめておくことにする。先ほど、メアリー帝がこの世を牛耳る手伝いをするとうっかり『約束』をしてしまったS.N.O.Jである。

 始祖神:S.N.O.Jといえども、神とヒトとの『約束』には縛られる。それを一方的に自分から反故ほごにするのは神の矜持を傷つける行為だ。S.N.O.Jはこのイラつきを眼の前で武器を構えるニンゲンたちで発散することに決めるのであった。

「さあ、どいつから相手をしてくれるのであるか? われは別に全員同時に攻めてきても良い也」

「ガハハッ! これは豪胆な男なのである。いや、ここは神と呼んだほうが良いのでもうすかな?」

 ヌレバ=スオーが右手に大斧。左手に大剣クレイモアを持ち、皆の前から一歩、また一歩、歩を進めていく。そんな不遜な態度のヌレバにS.N.O.Jのイラつきは頂点に達するのであった。

 S.N.O.Jはこの男を一瞬で灰にしてやろうと考えて、上腕の右手に炎が宿る長剣ロング・ソードを具現化し、右腕の1本を無造作に振り下ろす。

 しかし、S.N.O.Jの予想していた結果とはまったく異なることが起きる。

(なん……だと!?)

 S.N.O.Jが驚愕するのも無理は無かった。斬り伏せたモノ全てを燃やし尽くす炎が宿った炎迦具土ほのかぐつちで叩き斬るつもりが、眼の前の男が大剣クレイモアを巧みに操り、長剣ロング・ソードに宿る炎ごと受け流したのである。

 ヌレバは左手に持つ大剣クレイモアでS.N.O.Jの一撃目を防いだあと、右手に持つ大斧を上方に振り上げて、一気に下へと振り下ろす。その軌道はまさにS.N.O.Jの頭をかち割らんとしていた。

 S.N.O.Jはたまらず左の上腕を動かし、その手にもう1本、緑色の風が纏わりつく長剣ロング・ソードを具現化し、自分の頭頂へと振り下ろされてくる大斧をはじき返すのであった。

「誠に面白い男也。名をなんというのだ? 殺す前に名前を聞かせろ」

「ガハハッ! 我輩の名はヌレバ=スオーでもうす! 世の人々は我輩のことをエイコー大陸1の武芸者と呼ぶのでもうす! いやはや、我輩、まだまだひよっこゆえ、そんな呼ばれ方をされるのは恥ずかしい限りなのでもうす」

 自己紹介を終えたヌレバが、一度、S.N.O.Jと距離を取る。そして、左の腰に佩いていた一振りの剣を鞘ごと外し、ロージーにぽいっと放り投げるのであった。

「えっ? ヌレバ?」

 ヌレバが放り投げた剣を両手で受け取ったロージーではあったが、それが何を意味するのかが分からないとばかりにヌレバに問いかける。まるで今、渡してきたこの剣は自分の形見として取っておけと、ヌレバが言いたげでもあったのだ。

殿との。3分、いや5分は粘ってみせるのでもうす。ローズマリー殿のことを任せたのでもうす」

 ヌレバはハジュンにそう言った後、大きく口を縦に開き、ハアアアッ! と吼える。そして、その身からありったけの魔力を放出し、自分の身体能力を上げる風の恵みウインド・ブレスを発動させる。

「いくぞ! 始祖神:S.N.O.Jとやら! 我輩が今まで培ってきた剣技の全てを披露させてもらうのでもうす!」

 ヌレバはそう吼えると、大剣クレイモアと大斧を構え直して、一直線にS.N.O.Jへと挑みかかっていくのであった。

 ロージーはそんなヌレバを引き止めようと右手を前に突き出し、ヌレバの元へと駆け付けようとする。だがそのロージーの動きを止めるべく、クロードがロージーを真正面から受け止めて、さらにはロージーの尻に両腕を回し、彼女を抱え上げるのであった。

「ロージー。すまないっ! ヌレバ師匠が時間を稼いでくれているうちに、俺たちは逃げるんだっ!」

「クロっ! あなたは何を言っているかわかっているの!? ヌレバがたったひとりで始祖神とやらと闘っているのよ!? わたしたちが加勢しないでどうするのよっ!」

 ロージーは泣き出しそうな顔になりながら、クロードの背中を両手で叩く。だが、クロードはロージーの嘆きを無視して、彼女を右肩に担いだまま、逃走を開始するのであった。

「ヌレバー! ヌレバー!!」

 ロージーは段々と遠くなっていくヌレバの背中に向かって、彼の名前を呼び続けた。そんなヌレバが一瞬だけ、ロージーへと身体を向ける。彼は口を上下に開かせて、ロージーに何かを告げようとしていた。だが、その声はロージーには届かない。

 ヌレバは再び、S.N.O.Jの方へ身体を向けて、かの存在と対峙するのであった。



 それから5分間、ハジュンたちは必死に走った。ヌレバが稼いでくれるという貴重な5分間を1秒たりとも無駄にしないためにもだ。彼らは宮廷から外に出れる抜け道があるという西塔へとまっすぐに向かっていた。だが、そこで思わぬ追手がかけられることになる。

「ぶひっ! ハジュン! どこにお逃げになるんだブヒッ!」

「ちっ! ここでオレンジ=フォゲット卿に出くわすとは思わなかったんだねェ」

 セイ=ゲンドーにしては珍しく舌打ちをしてしまうのであった。彼にとってもまったくもって余裕がない状況だったからとしか言いようがなかったのである。

 新宰相:オレンジ=フォゲットは菜の花色の鎧に身を包んだ20人の兵士と共に、ハジュンたちの後を追ってきたのである。さらには、オレンジ=フォゲットは右手に持つ鞭の先を廊下の床にたたきつける。彼女の魔力が鞭を通り、廊下の床に伝播する。彼女は土の魔術を繰り出し、廊下の石畳をひっぺ替えしていく。

 廊下の床が荒らされたことにより、ハジュンたちの足取りは不安定になり、走る速度が急激に落とされることになる。しかし、オレンジ=フォゲット卿が率いる兵士たちの足取りは軽やかであった。

 彼らは荒れた廊下を土の魔術で次々と整地していくのだ。

「こんなの卑怯よっ! わたしたちはガタガタのボコボコの廊下を走っているのに、あいつらはキレイな床に直して、そこを走るなんてっ!」

 ロージーはそんな卑怯な戦法を取るオレンジ=フォゲットに対して、文句を言いまくる。だが、オレンジ=フォゲットは満足気にブヒッ! ブヒッ! と鼻息を荒くするばかりであった。

「よおし。おじさん、ここでオレンジ=フォゲット卿を足止めしちゃんだよォ?」

 セイ=ゲンドーが突然、足を止めて、迫りくるオレンジ=フォゲット卿たちへと振り向くのであった。ロージーはそのセイ=ゲンドーが取った行動に眼を白黒させてしまう。

「にゃはは。セイさま。ひとりで恰好つけようとするのはやめるんだニャン。ミサちゃんもお付き合いするニャン」

「ははっ。じゃあ、1人頭10人ってところで頼むんだよォ?」
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