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公爵の特権
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長い廊下の先を抜ければ、たちまち眩しいくらいに明るさが戻った。
壮麗で圧巻。
客席数千五百を誇る劇場内部は、何度足を踏み入れても息を呑む素晴らしさ。
精巧なクリスタルガラスの大きなシャンデリアが天井から吊り下がり、天井画の天使達を輝かせている。
左右には金色の柱がずらりと並び、傾斜した造りの観客席を支えているようにどっしり構えていた。
開演を今か今かと待ち侘びる人々を前に、真紅の緞帳はピッタリ締め切られている。
マーレイ達がいるのは、中二階と言うべきか。ボックス席だ。一階と二階の間にあたる。二階よりは舞台が間近に感じられ、役者の息遣いまで届きそうだ。
しかも、他の席に比べて隣との幅にたっぷり余裕があり、座面はクッションがきいてふかふかしていた。
席と席との間には小さなテーブルが設えられ、細工の見事な空のグラスが二つ用意されていた。
「王室関係者がお忍びで観劇する席だ」
マーレイに座るよう促しながら、サーフェスが説明する。
「そ、そんな大それた席に」
どおりで、一般席よりも豪華なはずだ。
ここからは舞台がよく見通せるが、他所からは死角になっているのか、誰にも気づかれない。
マーレイ自身、何度か劇場に足を運んだことがあれども、この席の存在は知らなかった。
そのような一流の席に、たかだか伯爵令嬢が座するなど、恐れ多い。
マーレイは座面から尻を浮かせる。
「気にするな。私はこれでも王太子の従兄弟だ。忘れたか? 」
立ち上がりかけたマーレイの肩を軽くて押さえてから、サーフェスは素早くテーブルを挟んだ向かいの席に着いた。
紛れもない王室関係者の品格。
「まずは乾杯といこうか」
まるで見計らったかのように、高価そうなワインボトルを掲げた蝶ネクタイの初老の男性が、背後のカーテンから現れた。
演出まで完璧だ。
まるでお姫様になった気分で、マーレイはうっとりと瞬いた。
「本来ならジゼル嬢とするはずだったが」
せっかく、うっとりした気分がいっぺんに台無しになってしまった。
マーレイのこめかみに筋が浮き立つ。
「ジゼルでなくて悪かったですわね」
ツンとそっぽ向く。
ワインを注ごうとしていた執務の男も、サーフェスの失言に苦々しく顔を歪める。
「構わん。ジゼルとの予行演習と思っておく」
またもや、マーレイの機嫌を損ねるには充分だ。
執務の男は険悪になりそうな雰囲気を掴み、急いでワインを注ぐと、逃げるように後ろのカーテンへと引っ込んだ。
彼の心の中には常にジゼルがいる。
ジゼルの正体が自分でありながら、最初からジゼルは一人歩きし、マーレイから切り離された存在となっている。
ちっとも気づかないサーフェスにいらいらしながら、マーレイは一気にワインを煽る。
味を堪能する余裕などない。
アルコールが喉に染み渡り、ぐらりと視界が歪む。
そのとき開演の音楽が鳴り響いた。
壮麗で圧巻。
客席数千五百を誇る劇場内部は、何度足を踏み入れても息を呑む素晴らしさ。
精巧なクリスタルガラスの大きなシャンデリアが天井から吊り下がり、天井画の天使達を輝かせている。
左右には金色の柱がずらりと並び、傾斜した造りの観客席を支えているようにどっしり構えていた。
開演を今か今かと待ち侘びる人々を前に、真紅の緞帳はピッタリ締め切られている。
マーレイ達がいるのは、中二階と言うべきか。ボックス席だ。一階と二階の間にあたる。二階よりは舞台が間近に感じられ、役者の息遣いまで届きそうだ。
しかも、他の席に比べて隣との幅にたっぷり余裕があり、座面はクッションがきいてふかふかしていた。
席と席との間には小さなテーブルが設えられ、細工の見事な空のグラスが二つ用意されていた。
「王室関係者がお忍びで観劇する席だ」
マーレイに座るよう促しながら、サーフェスが説明する。
「そ、そんな大それた席に」
どおりで、一般席よりも豪華なはずだ。
ここからは舞台がよく見通せるが、他所からは死角になっているのか、誰にも気づかれない。
マーレイ自身、何度か劇場に足を運んだことがあれども、この席の存在は知らなかった。
そのような一流の席に、たかだか伯爵令嬢が座するなど、恐れ多い。
マーレイは座面から尻を浮かせる。
「気にするな。私はこれでも王太子の従兄弟だ。忘れたか? 」
立ち上がりかけたマーレイの肩を軽くて押さえてから、サーフェスは素早くテーブルを挟んだ向かいの席に着いた。
紛れもない王室関係者の品格。
「まずは乾杯といこうか」
まるで見計らったかのように、高価そうなワインボトルを掲げた蝶ネクタイの初老の男性が、背後のカーテンから現れた。
演出まで完璧だ。
まるでお姫様になった気分で、マーレイはうっとりと瞬いた。
「本来ならジゼル嬢とするはずだったが」
せっかく、うっとりした気分がいっぺんに台無しになってしまった。
マーレイのこめかみに筋が浮き立つ。
「ジゼルでなくて悪かったですわね」
ツンとそっぽ向く。
ワインを注ごうとしていた執務の男も、サーフェスの失言に苦々しく顔を歪める。
「構わん。ジゼルとの予行演習と思っておく」
またもや、マーレイの機嫌を損ねるには充分だ。
執務の男は険悪になりそうな雰囲気を掴み、急いでワインを注ぐと、逃げるように後ろのカーテンへと引っ込んだ。
彼の心の中には常にジゼルがいる。
ジゼルの正体が自分でありながら、最初からジゼルは一人歩きし、マーレイから切り離された存在となっている。
ちっとも気づかないサーフェスにいらいらしながら、マーレイは一気にワインを煽る。
味を堪能する余裕などない。
アルコールが喉に染み渡り、ぐらりと視界が歪む。
そのとき開演の音楽が鳴り響いた。
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