寡黙な消防士でも恋はする

晴 菜葉

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続編 愛くらい語らせろ

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 あ、早まったかも?
 チラリと過ぎった後悔は、じわじわと脳内に行き渡っていく。
 後先考えないで勢いで突っ走り、気づいた頃には取り返しのつかないことになるっていうのは、毎度お決まりのパターンだ。今回も例に漏れず。進歩のない俺。
 啄むキスを繰り返すうちに、後頭部を引き寄せられ、重なりが深まる。舌先で口内を探られ、気持ち良い箇所を当てられ、堪らず口端をから息を漏らして正解だと明かしてしまう。
 その時点で、主導権は日浦に取って代わられた。
 そうなると、もう、相手の成すがままだ。
 うるさいくらいの水音を響かせて、日浦はひたすら舌を動かす。歯の裏、下顎、上顎、舌先、縦横無尽に駆けずり回す。まさに独立した生命体。
「あ……ひ、日浦……」
 もう、どうなっても良い。
 見合いなんか知るか。中止だ、中止。俺は棄権するぞ。署長が怒りで噴火しても、そんなん知るか。
 どんどん快楽の渦に巻き込まれていく。
 ふわふわ~と、脳味噌に羽が生えて飛んでいく錯覚。
 ……って、待て待て待て。ガキじゃあるまいし、何を勝手なことする気だ?このままじゃ不味い。無責任にも限度があるだろ。
 三十路の大人のやることじゃねえな。
 なけなしの理性を総動員して、快楽の羽を毟ってやる。
 あっという間に現実へ急降下。
 頭の中で戦う天使と悪魔は、天使に軍配が上がる。
「お、おい。い、今は駄目だ!」
 角度を変えて、さらに唇を深く吸おうとする日浦を、俺は思い切り突き飛ばした。
 不意打ちに、よろめくとかないのかよ?どんだけバランス感覚を鍛えてるんだよ。
 日浦はニタリと笑い、手の甲で唇の湿りを拭う。
「誘ってきたのはそっちなのに?」
 艶めかしい流し目。
 ぐうの音も出ず、奥歯を噛むしかない。
 こいつ、余裕が出てきやがった。ついちょっと前までは嫉妬の鬼で、誰彼構わず八つ当たりして、署内を不穏な空気にさせていたというのに。
 それが何だ、今は。橋本のいかがわしい玩具を使った夜以来、えらく余裕綽々な態度で、無自覚にフェミニストぶりを発揮して、女どもの目をハートにさせている。
 だから、髪をぐしゃぐしゃにかき混ぜてくるな。セットが乱れるだろうがよ。
「あの女には気をつけろよ」
 髪の毛を一掬いし、日浦はチュッと口付けてきた。
「あの女って?」
「『四ノ宮』さん」
「ちょっと世間知らずのお嬢様が?何で?」
 おい、わざとらしく肩を落としてでかい溜め息をつくな。かと思えば肩を竦め、三文役者のごとく首を横に振って、がっくりと項垂れる。
「あっちゃんは、何もわかってないな」
「あぁん?」
 いきなり喧嘩売る気か?
 腕組みし、睨みをくれてやる。
 一般人ならビクッと飛び上がる俺の睨みも、日浦にはちっとも通じない。
「あの女は、ただおとなしいだけの女じゃない」
 なーにが、俺の女を見る目に狂いはない、だ。
 もっと他にも自慢するとこあるだろ。
 俺は日浦のせいでぐしゃぐしゃになった前髪を手櫛で直した。


 
 
 
 
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