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屋根の上の対決

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「あれを見ろ! 」
 誰かが人混みから指をさした。
「あの屋根の上!」
 皆が同時に指差した方を向いた。
「国王と毒りんごだ! 」
 二人は同じ屋根の上で距離を取り、睨み合っていた。
 国王は玉座に居座るだけのではない。数多の戦争をかいくぐってきた猛者だ。
「わしに歯向かうとは。なかなかの男だな」 
 国王は剣先を毒りんごに向ける。
 ニタリ、とほうれい線の目立つ口元が歪んだ。
「いや、女か」
 国王はあっさりと毒りんごの正体を見破る。
 アデリーは平静を保とうとしたが、ピクリと肩が揺れた。
 国王はそんな微かな動揺を見逃さない。
「わしの目は騙せんぞ。男のなりをしようと、その体つきは誤魔化せん」
 さすが、国中の女を次から次へと迎え入れるだけある。たとえ肉体関係がなかろうと、妃として迎えるのが僅かな時間だろうと、彼は数多の女と接しているだけのことはある。
 いや、それだけではない。
 獣の雄の本能というべきか。
 彼の直感は鋭い。
「わしは最早、これまで。せめてお前を道連れにしてやる」
 たとえ相手が何者であろうと、国王はお構いなしだ。国王の目に映るのは、スノウ・ホワイトしかない。
 アデリーはそんな国王に薄気味悪さえ覚えた。
 国王の愛は、すでに娘に対するそれを遥かに越えてしまっている。
 そして、そのような父親の愛を、疑うことなく受け入れるスノウ・ホワイトにも。
「お前は私が生け捕りにしてやる。そして、断頭台の上で皆に詫びろ」
 彼らの異常な愛は、彼らだけで処理するなら構わない。
 だが、彼らは罪のない国民に手を掛けた。思い通りにならないという、全くもって身勝手な理由で。
 アデリーの足先が、鉄の靴を履かされり寸前の痛みを思い出し、ちくちく痛んだ。
 あのとき、ランハートが現れなければ、確実に自分はこの世にはいなかった。
 アデリーはチラリと横目で屋根の下の路地に視線を流す。
 ランハートは息を呑んで瞳孔を開き、アデリーから目を逸らさない。
 彼がいなければ、今はない。
 守らなければ。
 アデリーは剣を構える。
「そのような屈辱は、わしには無縁だ」
 国王は酷薄に笑う。
「白雪姫もだ」
 国王が娘の名を口にしたとき、ことさら不気味に顔に翳りが出来た。
 まるで蝋人形のように表情がない。
 ぞくり、とアデリーの背筋が冷えた。
「姫は先に送った」
 国王は口元を吊り上げる。
 アデリーの目が見開いた。
「な、何てことを! 」
 たとえ非道なことを仕出かしたスノウ・ホワイトだろうと、罪は償わせなければならない。
 だが、もうそれは叶わなくなってしまったのだ。
 たちまちアデリーの顔が怒りで真っ赤になる。
「スノウ・ホワイトは気高く逝った。お前はあの世で姫に跪け」
 言うなり国王は間合いを詰める。
「それを見届けてから、わしは逝く」
 いやに落ち着き払った態度の理由を知り、さらにアデリーの怒りは燃えた。
「ふざけた真似を! 」
 身勝手に終わらせようとする国王への怒りは、アデリーを奮い立たせる。
「絶対に捕らえてやる! 」
 アデリーは、かつて城で対峙した国王に怯む部分があった。
 国に頂点に位置する男への畏怖。
 何十年と積み重ねられた威厳に対する萎縮。
 それらは、今、跡形もなく消し飛んだ。
「償え! 」
 アデリーは吠えた。





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