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真昼間の誘拐
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「エマリーヌ! 」
アリアは叫んだ。
御影石の造りが見事なその賭博場は、あまり品が良いとは言い難い身なりの貴族らが出入りしていた。
五段ほどの階段を昇った先に観音開きの大きな扉があり、その両脇にある円筒の飾り柱の前には獅子の象が守り神のように置かれて、蝶ネクタイの屈強な監視が二人、入り口で睨みをきかせている。
アリアはコソコソとその前を通り過ぎると、すぐに右に折れた。
分厚いベルベットのカーテンが閉められた建物の脇を通り裏側へ回る。
表の喧騒とは違ってひっそりと静まり返っていたその場所は、建物の影になっており、じめじめと湿気って昼間でも薄暗い。
「ああ、アリア! 来てくれたのね! 」
エマリーヌは、その建物の裏側の壁に背中をつけ、座り込んでいた。
目隠しをされて、縄で手枷足枷をされている。
アリアはその姿に蒼白になった。
やはり、メイドの制止を振り切って、馬車を飛ばして来て良かった。
だが、馬車のみ帰らせたのは失敗だったかも知れない。
アークライト家の紋章の入った馬車が大通りにあれば、酷く目立つ。
もしかしたら、相手の狙いはそれだったかも。丸腰のアリアは、エマリーヌを囲む柄の悪そうな中年男らを遠巻きに、後悔した。
「騙されたのよ! 」
エマリーヌは涎を垂らしながら叫んだ。
「夜会で知り合った学者の彼に誘われて、賭博場に向かおうとしたの。そうしたら、いきなり縛られてしまって」
「すぐ助けるわ! 」
「ごめんなさい。私が浅はかだったばかりに」
アリアはエマリーヌに駆け寄るなり抱きしめる。
バカにしたような発言はするものの、彼女が一番のアリアの理解者だ。親子ほど年の離れた男への憧れを、呆れながらも応援してくれたのは、エマリーヌだけ。
そして、エマリーヌ自身も、己の危機に顔を浮かべるのがアリア。
エマリーヌは後悔に、目隠しの下から涙流した。
「おいおい。お涙頂戴はまだ早いぞ」
柄の悪そうな中年の中で、一人だけ整った身なりの、天然パーマに銀縁眼鏡の男がニタニタと笑いかけてきた。年は三十初め頃、痩せ型で青白い顔をしている、いかにもインテリ然とした男だ。
「お前はもう用無しだ」
その学者らしき男は、傍らの柄の悪い中年を顎先で指示する。
中年は頷くなり、エマリーヌの脇腹を軽く蹴り上げ、地面に転がせた。
「いやあ! 」
「エマリーヌ! 」
慌ててエマリーヌに覆い被さるアリア。
「来い! 」
学者風の男は、アリアの襟首を掴み上げた。
「離して! 」
ケイムよりは力はないものの、やはり男の筋肉には敵わない。
「いやあ! 」
「アリア! 」
「助けて! 」
抵抗すれど虚しく、ずるずると引っ張られていく。
地面に靴跡が曲線を描く。
「おとなしくしろ! 」
逃げようと必死に体を捻ったり、手足を振り乱したりするアリアの頬に平手が入る。
容赦ない痛みに、アリアはぐったりと力を失った。
「いやあ! アリア! 」
エマリーヌの悲痛な叫びが遠退いていく。
アリアはあまりにもチカチカする痛みに耐えきれず、意識が朦朧とし、やがてぷっつりと途絶えてしまった。
アリアは叫んだ。
御影石の造りが見事なその賭博場は、あまり品が良いとは言い難い身なりの貴族らが出入りしていた。
五段ほどの階段を昇った先に観音開きの大きな扉があり、その両脇にある円筒の飾り柱の前には獅子の象が守り神のように置かれて、蝶ネクタイの屈強な監視が二人、入り口で睨みをきかせている。
アリアはコソコソとその前を通り過ぎると、すぐに右に折れた。
分厚いベルベットのカーテンが閉められた建物の脇を通り裏側へ回る。
表の喧騒とは違ってひっそりと静まり返っていたその場所は、建物の影になっており、じめじめと湿気って昼間でも薄暗い。
「ああ、アリア! 来てくれたのね! 」
エマリーヌは、その建物の裏側の壁に背中をつけ、座り込んでいた。
目隠しをされて、縄で手枷足枷をされている。
アリアはその姿に蒼白になった。
やはり、メイドの制止を振り切って、馬車を飛ばして来て良かった。
だが、馬車のみ帰らせたのは失敗だったかも知れない。
アークライト家の紋章の入った馬車が大通りにあれば、酷く目立つ。
もしかしたら、相手の狙いはそれだったかも。丸腰のアリアは、エマリーヌを囲む柄の悪そうな中年男らを遠巻きに、後悔した。
「騙されたのよ! 」
エマリーヌは涎を垂らしながら叫んだ。
「夜会で知り合った学者の彼に誘われて、賭博場に向かおうとしたの。そうしたら、いきなり縛られてしまって」
「すぐ助けるわ! 」
「ごめんなさい。私が浅はかだったばかりに」
アリアはエマリーヌに駆け寄るなり抱きしめる。
バカにしたような発言はするものの、彼女が一番のアリアの理解者だ。親子ほど年の離れた男への憧れを、呆れながらも応援してくれたのは、エマリーヌだけ。
そして、エマリーヌ自身も、己の危機に顔を浮かべるのがアリア。
エマリーヌは後悔に、目隠しの下から涙流した。
「おいおい。お涙頂戴はまだ早いぞ」
柄の悪そうな中年の中で、一人だけ整った身なりの、天然パーマに銀縁眼鏡の男がニタニタと笑いかけてきた。年は三十初め頃、痩せ型で青白い顔をしている、いかにもインテリ然とした男だ。
「お前はもう用無しだ」
その学者らしき男は、傍らの柄の悪い中年を顎先で指示する。
中年は頷くなり、エマリーヌの脇腹を軽く蹴り上げ、地面に転がせた。
「いやあ! 」
「エマリーヌ! 」
慌ててエマリーヌに覆い被さるアリア。
「来い! 」
学者風の男は、アリアの襟首を掴み上げた。
「離して! 」
ケイムよりは力はないものの、やはり男の筋肉には敵わない。
「いやあ! 」
「アリア! 」
「助けて! 」
抵抗すれど虚しく、ずるずると引っ張られていく。
地面に靴跡が曲線を描く。
「おとなしくしろ! 」
逃げようと必死に体を捻ったり、手足を振り乱したりするアリアの頬に平手が入る。
容赦ない痛みに、アリアはぐったりと力を失った。
「いやあ! アリア! 」
エマリーヌの悲痛な叫びが遠退いていく。
アリアはあまりにもチカチカする痛みに耐えきれず、意識が朦朧とし、やがてぷっつりと途絶えてしまった。
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