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警告の午後
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「そう。ミス・メラニーが」
ミス・レイチェルはいつになく険しく眉間の縦皺を深くして、顎に手を当てて考え込んでいる。
「ケイムは未だに女性に注目されているから」
しょんぼりとアリアは呟く。
「あの男は恋愛に関して何ら問題はないわよ」
ミス・レイチェルは、意味ありげに真っ赤な唇から息を吐いた。
「あの男は、昔からアリアのことに関して底なし沼にはまり込んでいるから」
「何それ? 」
「言葉通りよ。アリアしか見えてないの」
「彼、あんなに女性関係が派手だったじゃない」
「悪あがきしてただけよ」
ミス・レイチェルは仕方なさそうに首を横に振った。
「とっとと認めてしまえば良かったのに。私がお膳立てしてあげなくちゃ何にも動けない情けない男よね」
「ケイムが私をずっと好きでいてくれてたってこと? 」
まさか。
アリアのことはいつだって子供扱い。単なる友人の娘としか見られていなかった。
押して押して押しまくって、ほんの少し生まれた隙に、アリアが強引に恋愛に持ち込んだのだ。
「そうよ。自覚もなくね」
ミス・レイチェルは最初からわかってたわ、とくすくす笑う。
アリアの目がきらきらと光った。
「それじゃあ、ミス・レイチェルは私達のキューピッドね」
「そうよ。もっと感謝してくれなくちゃ」
茶目っけたっぷりにミス・レイチェルがウィンクを寄越す。
「お礼なら、これからもどんどん書いてちょうだい。あなたは、今うちで一番の注目作家なんだから」
年代関係なく女性らの間では『愛と熱情の夜想曲』が載った雑誌が飛ぶように売れて、次はまだかとひっきりなしに問い合わせがきている。皆んな、ライバルの未亡人との展開に前のめりだ。
「随分とお腹が目立ってきたわね」
そろそろ臨月に差し掛かってきている。
だが、精密な機械がまだ開発途上であり、医者が診断した予定日に間違いがないとは言い難い。
「無理にうちに来なくても良いのよ。誰かに原稿を預けるなりしてくれたら」
「すぐに届けたかったの」
アリアが差し出した原稿を、ミス・レイチェルは繰っていく。
「あら。これは創作かしら? 」
「あ、当たり前でしょ」
「そう。ジョナサンったら、ちょっと胸を揉み過ぎだわ。幾ら妊婦相手で性行為が叶わないからって」
「だから、創作だってば」
「欲求全てを胸にぶつけられたら、アリアの身がもたないわよ」
「だから違うから」
「はいはい」
くすくすとミス・レイチェルは喉を鳴らした。
「あら、もうこんな時間だわ。早くお帰りなさいな」
「まだ明るいわ」
「最近、何かと物騒なのよ」
言いにくそうにミス・レイチェルが目線をずらした。
「ほら、ジョナサンは仕事に関して貪欲だから。敵も多いのよ」
彼はその強引なやり方で、会社を大きくしてきた。関連する会社が業績を伸ばす一方で、中には倒産に追い込まれた会社も多い。
「ミス・メラニーの父親とも揉めているしね」
彼女の父は外国ではなかなか名が通っているとか。
「彼、あちらの国の作家の卵に目をつけて、声を掛けているそうよ」
ケイムは視野を広げて、各国の才能ある作家を目指す若者に声をかけているようだ。
アリアがいるため留守には出来ないため、代わりに彼の秘書を務めるミス・レイチェルの恋人が大陸を飛び回っている。
「あちらの国の同業者は、面白くないでしょ」
自分達が目を掛けるよりも早く、有能な作家を横からかっさわれてしまうのだ。しかも、他国で割と人気を博す。
「何だかあまりよくない噂も耳に入ってくるし」
何やら情報を掴んでいるような口振りだ。
アリアが前のめりになる。
だが、企業秘密であるのか、ミス・レイチェルは手で制し、頑と口を割る気配はない。
「アリア。あなたは身重なんだし。くれぐれも気をつけてね」
「ええ。肝に銘じるわ」
不穏な空気が、明らかに忍び寄ってきていた。
ミス・レイチェルはいつになく険しく眉間の縦皺を深くして、顎に手を当てて考え込んでいる。
「ケイムは未だに女性に注目されているから」
しょんぼりとアリアは呟く。
「あの男は恋愛に関して何ら問題はないわよ」
ミス・レイチェルは、意味ありげに真っ赤な唇から息を吐いた。
「あの男は、昔からアリアのことに関して底なし沼にはまり込んでいるから」
「何それ? 」
「言葉通りよ。アリアしか見えてないの」
「彼、あんなに女性関係が派手だったじゃない」
「悪あがきしてただけよ」
ミス・レイチェルは仕方なさそうに首を横に振った。
「とっとと認めてしまえば良かったのに。私がお膳立てしてあげなくちゃ何にも動けない情けない男よね」
「ケイムが私をずっと好きでいてくれてたってこと? 」
まさか。
アリアのことはいつだって子供扱い。単なる友人の娘としか見られていなかった。
押して押して押しまくって、ほんの少し生まれた隙に、アリアが強引に恋愛に持ち込んだのだ。
「そうよ。自覚もなくね」
ミス・レイチェルは最初からわかってたわ、とくすくす笑う。
アリアの目がきらきらと光った。
「それじゃあ、ミス・レイチェルは私達のキューピッドね」
「そうよ。もっと感謝してくれなくちゃ」
茶目っけたっぷりにミス・レイチェルがウィンクを寄越す。
「お礼なら、これからもどんどん書いてちょうだい。あなたは、今うちで一番の注目作家なんだから」
年代関係なく女性らの間では『愛と熱情の夜想曲』が載った雑誌が飛ぶように売れて、次はまだかとひっきりなしに問い合わせがきている。皆んな、ライバルの未亡人との展開に前のめりだ。
「随分とお腹が目立ってきたわね」
そろそろ臨月に差し掛かってきている。
だが、精密な機械がまだ開発途上であり、医者が診断した予定日に間違いがないとは言い難い。
「無理にうちに来なくても良いのよ。誰かに原稿を預けるなりしてくれたら」
「すぐに届けたかったの」
アリアが差し出した原稿を、ミス・レイチェルは繰っていく。
「あら。これは創作かしら? 」
「あ、当たり前でしょ」
「そう。ジョナサンったら、ちょっと胸を揉み過ぎだわ。幾ら妊婦相手で性行為が叶わないからって」
「だから、創作だってば」
「欲求全てを胸にぶつけられたら、アリアの身がもたないわよ」
「だから違うから」
「はいはい」
くすくすとミス・レイチェルは喉を鳴らした。
「あら、もうこんな時間だわ。早くお帰りなさいな」
「まだ明るいわ」
「最近、何かと物騒なのよ」
言いにくそうにミス・レイチェルが目線をずらした。
「ほら、ジョナサンは仕事に関して貪欲だから。敵も多いのよ」
彼はその強引なやり方で、会社を大きくしてきた。関連する会社が業績を伸ばす一方で、中には倒産に追い込まれた会社も多い。
「ミス・メラニーの父親とも揉めているしね」
彼女の父は外国ではなかなか名が通っているとか。
「彼、あちらの国の作家の卵に目をつけて、声を掛けているそうよ」
ケイムは視野を広げて、各国の才能ある作家を目指す若者に声をかけているようだ。
アリアがいるため留守には出来ないため、代わりに彼の秘書を務めるミス・レイチェルの恋人が大陸を飛び回っている。
「あちらの国の同業者は、面白くないでしょ」
自分達が目を掛けるよりも早く、有能な作家を横からかっさわれてしまうのだ。しかも、他国で割と人気を博す。
「何だかあまりよくない噂も耳に入ってくるし」
何やら情報を掴んでいるような口振りだ。
アリアが前のめりになる。
だが、企業秘密であるのか、ミス・レイチェルは手で制し、頑と口を割る気配はない。
「アリア。あなたは身重なんだし。くれぐれも気をつけてね」
「ええ。肝に銘じるわ」
不穏な空気が、明らかに忍び寄ってきていた。
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