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明滅する光

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 ふと、アリアは思い至った。
 ミス・メラニー。
 彼女は何故、アークライト邸を訪ねたのだろうか。
 単にアリアを挑発するために?
 それとも、脅すため?
 それなら、もっと突っ込んだ話に持ち込んでいるはずだ。
 わざわざ子爵邸にまで足を運び、アリアが官能小説家であることを確かめたことを「大層な収穫」であると嘯いた。
 もしそれをネタに脅すなら、その際に口にしているはずだ。
 彼女の行動が理解出来ない。
 何か裏がある。
 食事を終えて、アリアは椅子から立ち上がるや窓辺に向かい、カーテンの皺を意味なく凝視した。
 頭の中は、ミス・メラニーの含み笑いで一杯になっている。
「何か思い当たるの? 」
 彼女の一見すると不可解な行動に、イザベラはいち早く察した。
「夕方、ミス・メラニーが屋敷に来たの」
「ミス・メラニー? 外国のガルシア出版の? 」
「大した用ではなさそうだったけど」
 敢えて、ミス・アリスン・プティングの名は出さない。
「だけど、その目的がケイムにあるなら」
 アリアは体を震わせた。
「どういうこと? 」
 イザベラが怪訝に眉を寄せた。
「ケイムを誘拐する時間稼ぎだったのかも」
 そうでなければ、説明がつかない。
 アリアにちょっかいをかけて時間を稼ぐなど、さっぱり了見がわからないが。
 ミス・メラニーの去り際の、何かの企みが見え見えの笑いが頭から離れない。
「ふむ」
 父は顎に手を当てて考え込んでいる。
 ケイムが外国のまだデビューしていない若手に目星をつけて、自国で売り出そうとしているのは、ルミナスも聞き及ぶところだ。
 それによって、相当なやっかみを買っていることも。
 ガルシアがこの国の社交界に潜り込んだのも、それが一因していると見る向きもある。
 実際に、ケイムの姿を見た途端に激昂し、相当抗議をしたとか。
 それから互いに二人きりで何やら遣り取りして、一旦は場が収まっていたらしいが。
 収まったとの考えは一方的なもので。
 実は密かに恨みを募らせているだけだとしたら。
「否定するには早いな」
 ルミナスはアリアに同意する。
 アリアは自分の血液が冷水に取って変わったかのような感覚に陥ってしまった。
 本当なら父に「バカバカしい」と真っ向から否定してほしかった。「ジョナサンは、そこら辺で飲んだくれているだけだ。放っておけ」と。そう言いながら、友人に対して悪態をつき、いつものようにワインをぐいと煽る。
 アリアはそれを期待していた。
 父の態度により、少しでも不安を蹴散らしたかった。
 だが、父の反応はアリアの期待とは真逆だった。
 次から次へと不吉な想像が浮かんでくる。
 イザベラがハンカチを差し出して来たことで、アリアは自分がいつの間にか啜り泣いていたことを知った。
 
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