114 / 123
隠し部屋
しおりを挟む
ゆっくりと左から右へ書棚に添わせながら、アリアは注意深く匂いを辿る。
だんだん強く香る彼の葉巻。
「ここからだわ」
一際、匂いたつ場所まで来て、アリアはぴたりと止まる。
埋め込み式の書棚が途切れ、深緑のダマスク柄の壁紙が広がるばかり。隣室に続く扉などない。
「ケイム! ケイム! 」
どんどんとアリアは壁を叩く。
返事はない。
だが、壁から彼特有の香りが鼻先まで届いた。
「この壁の向こうだわ! 」
アリアは確信を持つ。
ケイムはこの壁の向こうにいる。
もしかしたら扉が壁と同化しているだけで、取手を見落としているだけかも知れない。
アリアは何度も何度も壁の前で左右に行ったり来たりを繰り返し、扉の境目がないかと目を凝らした。意図的に取手が外されたかも知れない。古びてささくれたのも構わず、アリアは手を添わせた。
「駄目だわ」
十五回ほど繰り返した後、途方に暮れて足を止める。
「入り口がないわ」
どれほど探しても、それらしき入り口は見当たらない。
「どうして? 」
ケイムは絶対にこの奥にいるはずなのに。
アリアが血相を変えて壁の前でうろうろしている間中、父はひたすら書棚と睨めっこしていた。
「隠し部屋だよ」
腕を組んだ父が無表情にぽつりと呟く。
「たまにあるんだ。愛人との密会や、拷問部屋、所得隠し。用途は様々だがな」
「まさか、アークライト邸にも? 」
「さあな」
適当に流したが、否定はしなかった。
つまりは、そういうことだ。
十六年をあの屋敷で過ごしたが、アリアはそのような仕掛け、見たことも聞いたこともない。
アークライト邸にはどのような秘密が隠されているのだろう。
「大概は似た造りだ。壁に継ぎ目がないか確かめろ」
ルミナスはアリアが目を凝らした壁をもう一度探る。
アリアも彼の後に続いた。
「ないわ」
「やはり本棚が怪しいな」
あらかた目星をつけていたのか。
父はアリアが一心不乱に壁を触っている間中、書棚に向いて何やら考え込んでいた。
「滅茶苦茶に詰め込んであるくせに、一冊だけ綺麗に立ててある」
父は書棚の細工を解いていたのだ。
書棚の三段目、左側から三冊目。綺麗に立ててある一冊を抜く。
「やはりな。取手が出て来た」
壁は空洞になっており、 書帙のように、その場所は中身のくり抜かれた本で隠されていた。
隠し扉だ。
「引き戸になっているのだな」
迷うことなくルミナスは取手を引っ掴む。
カモフラージュに使われた書物は本物だ。
ルミナスが取手を掴んだ拍子に振動で幾つか床に落ちた。
隠し扉を動かせば、もっと雪崩れてくるはずだ。
中には辞典やら分厚い類いもある。
バサバサと頭から落ちてきたら、下手すれば瘤が出来たり、分厚い本が足先に当たって怪我しかねない。
「アリア。後ろに下がっていなさい」
ルミナスは表情を強張らせたまま、アリアに命じた。
だんだん強く香る彼の葉巻。
「ここからだわ」
一際、匂いたつ場所まで来て、アリアはぴたりと止まる。
埋め込み式の書棚が途切れ、深緑のダマスク柄の壁紙が広がるばかり。隣室に続く扉などない。
「ケイム! ケイム! 」
どんどんとアリアは壁を叩く。
返事はない。
だが、壁から彼特有の香りが鼻先まで届いた。
「この壁の向こうだわ! 」
アリアは確信を持つ。
ケイムはこの壁の向こうにいる。
もしかしたら扉が壁と同化しているだけで、取手を見落としているだけかも知れない。
アリアは何度も何度も壁の前で左右に行ったり来たりを繰り返し、扉の境目がないかと目を凝らした。意図的に取手が外されたかも知れない。古びてささくれたのも構わず、アリアは手を添わせた。
「駄目だわ」
十五回ほど繰り返した後、途方に暮れて足を止める。
「入り口がないわ」
どれほど探しても、それらしき入り口は見当たらない。
「どうして? 」
ケイムは絶対にこの奥にいるはずなのに。
アリアが血相を変えて壁の前でうろうろしている間中、父はひたすら書棚と睨めっこしていた。
「隠し部屋だよ」
腕を組んだ父が無表情にぽつりと呟く。
「たまにあるんだ。愛人との密会や、拷問部屋、所得隠し。用途は様々だがな」
「まさか、アークライト邸にも? 」
「さあな」
適当に流したが、否定はしなかった。
つまりは、そういうことだ。
十六年をあの屋敷で過ごしたが、アリアはそのような仕掛け、見たことも聞いたこともない。
アークライト邸にはどのような秘密が隠されているのだろう。
「大概は似た造りだ。壁に継ぎ目がないか確かめろ」
ルミナスはアリアが目を凝らした壁をもう一度探る。
アリアも彼の後に続いた。
「ないわ」
「やはり本棚が怪しいな」
あらかた目星をつけていたのか。
父はアリアが一心不乱に壁を触っている間中、書棚に向いて何やら考え込んでいた。
「滅茶苦茶に詰め込んであるくせに、一冊だけ綺麗に立ててある」
父は書棚の細工を解いていたのだ。
書棚の三段目、左側から三冊目。綺麗に立ててある一冊を抜く。
「やはりな。取手が出て来た」
壁は空洞になっており、 書帙のように、その場所は中身のくり抜かれた本で隠されていた。
隠し扉だ。
「引き戸になっているのだな」
迷うことなくルミナスは取手を引っ掴む。
カモフラージュに使われた書物は本物だ。
ルミナスが取手を掴んだ拍子に振動で幾つか床に落ちた。
隠し扉を動かせば、もっと雪崩れてくるはずだ。
中には辞典やら分厚い類いもある。
バサバサと頭から落ちてきたら、下手すれば瘤が出来たり、分厚い本が足先に当たって怪我しかねない。
「アリア。後ろに下がっていなさい」
ルミナスは表情を強張らせたまま、アリアに命じた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
57
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる