猫縁日和

景綱

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第3章 花屋『たんぽぽ』に集う

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 花屋の仕事もだいぶ慣れた。堕落だらくした生活ともおさらばできた。

 そう思っているのは、自分だけかもしれない。小百合がいたら、『まだまだ、あんたは半人前だよ』と小言を言われるかもしれない。けど、今はわかっている。小百合は、意地悪でそんなこと口にするわけではないことを。

 本当に、この花屋に来てよかった。
 節子や庄平に猫のツバキとも出会えて、優しさに触れられた。最高に幸せ。
 もちろん、楓と小百合との出会いも自分の人生には欠かせない存在だ。

 あっ、そういえば、今日はまだ小百合が来ていない。帰りにでも寄ってみようか。たまには、夕飯をご馳走にならずに帰って料理作るのもいいかも。

 んっ、サイレン。
 救急車だ。花屋の目の前を通り過ぎていく。

「ンナァーーーオォ、ンナァーーーオォ」

 えっ、何。

 ツバキが、突然頭をもたげて大声で鳴き出した。どうみても、救急車に反応した感じだ。サイレンの音が耳障りだったのだろうか。違うのかな。何かを訴えているようにも聞こえる。

「おや、おや、ツバキ。どうしたんだい」

 振り向いたツバキの目がギラギラと翡翠色ひすいいろに光輝いている。光の加減だろうか。それになぜかすごく興奮している。

 どこかに、怪しい猫でもいるのだろうか。見当たらないけど。そうかと思うと入り口の扉をガリガリとやりはじめた。なんだか変だ。いつものツバキと違う。本当に救急車のサイレンが原因なのかなと、梨花は小首を傾げた。

「どうしたんでしょうね」

 とっくに救急車は行ってしまった。

「そうだねぇ。こんなこと、いままでなかったんだけどねぇ。こらこら、ツバキ。そんなにガリガリしちゃダメだよ」
「外に出たいんですかね」
「ちょっといつもと違う感じがするからねぇ。なんだか胸騒ぎがするねぇ」
「ニャニャニャッ」

 節子は「しかたがないねぇ」と呟き、扉を開けた。すると、ツバキは一目散に走っていった。何かに取り憑かれでもしたかのような勢いだった。

「節子さん、私、追いかけてみます」

 外へ出ようとしたところで「梨花さん、無理だよ。すぐ見失っちまうよ」と節子に引き止められた。

「節子の言う通りだよ。それにツバキはすぐに戻ってくるさ」
「そうそう、庄平さんの言う通りだねぇ。ちょっと心配だけど、きっと大丈夫だよ」

 確かにそうかも。けど、本当に大丈夫だろうか。やっぱり気にかかる。どうしよう。心配だけど、どこへ行ったかわからないし、待つしかないか。

「さあて、そろそろ店じまいしましょうかねぇ」
「あっ、はい。あのツバキはどうするんですか。シャッターは開けておいたほうがいいですか」
「そうだねぇ。CLOSEDの札だけ下げておいておくれ」

 梨花は頷き言われる通りにした。

「それじゃ、夕飯の準備でもするとしようか」

 庄平の言葉に梨花は「あの、今日は小百合さんのところに寄っていきますから、夕飯は遠慮します」

「んっ、そうか。わかったよ」

 庄平は微笑み、奥の部屋へと消えた。

「そういえば今日は来なかったからねぇ。それじゃ、後片付けが終わったら行っておいで。小百合さんによろしく伝えておくれ」

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