猫縁日和

景綱

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第4章 花ホタルの花言葉

(4-9)

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 さてと、いよいよ花屋に出陣よ。小宮山結衣は握りこぶしを作り、気合いを入れる。
 なんて戦いに行くわけじゃない。

 ここはしっかり見極めてあげなきゃ。素敵な人だったらいいな。颯兄そうにいは、だいぶ熱をあげているみたいだから。

 目的地は『たんぽぽ』って花屋。

 結衣は駅前でスマホを手にして、検索する。これ、どの辺だろう。地図アプリを開いてじっと眺める。

 うーん、あっちだろうか。

 顔を上げて、正面の駅前通りに目を向けて、ぐるりと街並みを見回した。
 駅がここでしょ。ショッピングモールがすぐそこにあって、まっすぐな道がずっと続いている。
 歩いて行ける距離じゃないのか。颯兄は車で目の前を通っただろうって話していたけど、正直暗くてよくわからなかった。明るくてもわからなかったかもしれないけど。

 結衣は、スマホと周りの景色を見比べて首を捻る。
 よくわからない。

 そういえば、いつだったか迷ったことがあった。スマホの案内通りに歩いて行ったはずなのに、なぜか反対方向に進んでいて、わけのわからない場所に行ってしまった。

 そんな人がいるのって思うかもしれないけど、実際にここにいる。
 なんの自慢にもならないけど。

 はたして今日は行き着けるだろうか。颯兄のためだ。絶対に辿り着かなきゃ。やっぱりある意味出陣かも。

 あっ、バスで行けばいいみたい。バスなら迷うこともなさそうだ。バス停はすぐそこだし、さすがに迷わない。けど、バスを降りてからが問題だ。まあいいか。降りてから考えよう。

 早坂総合病院行きのバスに乗ればいいみたい。よし、行こう。

 降りる停留所は、NTT前。
 あっ、あのバスだ。急げ。

「待って、待って。乗ります」

 結衣は颯兄の想い人を想像して、笑みを浮かべた。

 どんな人だろう。なんだかスキップをしたい気分。もちろん、そんな恥ずかしいことしない。いい大人がスキップしながらバスに乗り込んでいったなんて、SNSで呟かれちゃうかもしれないでしょ。写真まで投稿されたら最悪だ。動画だったらもっと最悪。

 そんな人がいないって言い切れないから、気をつけなきゃ。考え無しで投稿する馬鹿者が大勢いる世の中だから。

「あっ、運転手さん。このバス、NTT前に止まりますよね」
「止まりますよ」
「じゃ、よろしくお願いします」

 結衣は、敬礼しながらお辞儀をした。
 運転手に一瞬笑われた気がしたが、気にせずニコリとして空いている席に座った。

 あれ、なんだかまわりの視線を感じる。なに、そんなに自分って注目されるほど可愛いの。

 あっ、違う。

 もしかして、さっきの敬礼がおかしかったのかもしれない。面白い人が乗ってきたって思っているに違いない。ああ、だから運転手も笑ったのか。よくあることだ。つい、余計なことしちゃう。けど、いいの。それが自分だから。

 でもさ、バスの運転手に敬礼はおかしいのかな。警察官ならいいのか。そういう問題じゃないのか。
 まあ、いいか。

 気にしない、気にしない。今日はやっと颯兄の想い人に会えるのだから。
 楽しみだ。

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