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第5章 トラブルは突然に
(5-6)
しおりを挟む「節子さん、いますか」
梨花は玄関チャイムを鳴らしてから声をかけた。
「ニャッ」
扉の向こうから微かにツバキの鳴き声がした。続けて節子の声もして扉が開く。
「いらっしゃい。もしかして夕飯を食べに寄ったのかい」
「そ、そんな違いますよ。もう節子さんたら。そんな意地悪言わないでくださいよ。なんだか小百合さんのこと思い出しちゃいましたよ」
「そうだねぇ。小百合さんみたいなこと言ってしまったねぇ。なんでだろうねぇ。あたしの中に小百合さんがいるのかもしれないねぇ」
「やめてくださいよ。小百合さんはお墓に。じゃなくて天国で今頃旦那さんと楽しんでいるはずですよ」
墓でのことは話さないほうがいいかもしれない。いや、話したほうがいいだろうか。楓が来ればきっと話してしまうはず。
「そうだねぇ」
「あの話は変わるんですけど、楓ちゃんって幼稚園行っているんですよね。それなのに観音様であったんですよね」
「ああ、楓ちゃんかい。幼稚園に行っているはずだけどねぇ。あそこの家は母子家庭だしいろいろと事情があるんだろう」
「そうなんですね」
楓はもしかして勝手に幼稚園を休んでしまっているのかもしれない。いや、そんなことあの子はしないか。母子家庭だと金銭面でも大変だろうし幼稚園に通わせていないってこともあるのだろうか。けど、それだとずっと一人で家にいることになる。やっぱり花屋に来てほしい。そうすれば一安心だし。今の世の中、危ない人が多いから攫われたりしたら大変だ。まあ、幼稚園に通っていないなんてことはないか。
約束通り、母親と一緒に花屋に来てくれたらいいけど。楓は幽霊が見えるみたいだし、そのことでいじめられたりしていないのだろうか。幼稚園じゃ、いじめはないか。そうとも言えないのだろうか。大丈夫だろうか。楓のことが妙に心配になってきた。気にし過ぎかもしれないけど。
「あの節子さん、今日、楓ちゃんと小百合さんの墓参りに行って来たんです」
「そうかい、そうかい」
「変な話をしてもいいですか」
「なんだい、変な話って」
「実は、楓ちゃん幽霊が見えるみたいで。小百合さんも見えるみたいで」
「そうなのかい」
節子は目を見開いて口をポカンと開けていた。信じてくれただろうか。
「子供のほうが見えるなんて話を聞くよな」
庄平が話に加わってきた。
「ニャッ」
ツバキまで来た。まさか、ツバキも幽霊の話に興味があるのだろうか。そういうわけじゃないか。節子の膝上に乗って丸くなってしまった。きっと偶然だろう。そう思ったのだがツバキの目はこっちを向いていた。なんだか興味津々って顔をしている。ツバキは小百合の話が聞きたいのかも。
「相変わらず、毒舌でしたよ。それで、花はピンポンマムがいいみたいです」
「そうかい、そうかい。そりゃよかった」
「なんだかあの世って快適なんですって。本当ですかね」
「どうだろうね。もしそうだとしたらあたしも早くあっちの世界へ行ってみたいものだねぇ」
「ちょっと、節子さん。そんなこと言わないでくださいよ。寂しいじゃないですか」
「ふふふ、ありがとうねぇ」
小百合の話でそのあとも盛り上がって長居をしてしまった。そうなると庄平から「夕飯を食べて行きなさい」との言葉が。
今日は自分で作って食べるつもりだったのに。時計の針は午後六時を回っている。買い物もしていないし、まあいいか。ご馳走になってしまおう。そんなとき、結衣からLINEのメッセージが届いた。
なんだか大変なことになっている。ストーカーだなんて。 颯と一緒みたいだからとりあえず大丈夫みたいだけど。
節子とも話して待つことにした。
節子と庄平は急に立ち上がったと思ったら、どこに行くわけでもなくすぐに座るなんてことが何度かあった。物音にも敏感になっている気がする。結衣たちが来たのかもと思っているのかもしれない。そういう自分もどこか胸の奥がざわざわしている。
結衣の気持ちを考えると気が気じゃない。
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