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第6章 心の雨には優しい傘を
(6-9)
しおりを挟む庄平と節子の家をあとにして、梨花は彩芽の家に来ていた。
楓の部屋にお邪魔して、あれっとなった。思っていた部屋の様子と違ったせいだ。
入ってすぐに目についたのは、焦げ茶色の布団のかかるベッド。その脇にある小さな本棚に何度も読んだであろうボロボロの童話が並んでいる。
あとは小さくてくすんだ色のテーブルと、白と黒の地味なクッションが床に転がっているだけ。カーテンはグレーでちょっと暗めだ。
机はない。幼稚園だからまだ必要ないのかもしれない。
女の子だとピンク色が散りばめてあるのかと思ったけど、そうではなかった。まあ好みの問題もあるが、それだけが理由ではなさそうだ。そういえばおもちゃがない。ぬいぐるみとか人形とかがあってもよさそうなものだが、やっぱり金銭的な問題なのだろうか。
楓はこういう部屋が好きって可能性もなくはない。
あまりそのへんは深入りしないほうがいい。
やっぱり、なにかフラワーアレンジメントをプレゼントしよう。
それよりも、楓の話を聞かなくては。今日は遊びに来たわけじゃない。
いったい何の話をするつもりだろうか。
梨花も二人っきりで話したいとは思っていたが、いざ楓と二人っきりになるとなかなか話を切り出せなかった。『虐められているの』なんて訊いて素直に認めるだろうか。
まずは楓の話が先だ。
楓は何かを言いたげな顔をしているが、まだ少し迷っている感じだ。あまり急かさないほうがいいか。おや、目線がまた上のほうに向いた。小百合もやっぱりいるのだろうか。
「あのね、楓ね。聞いちゃったの」
唐突に放たれた言葉にハッとする。聞いたとはいったい……。噂話だろうか。
「聞いたって何をかな」
少しの間があり「ママのお友達がね。悪口言っていたの」とぼそりと呟いた。
彩芽の悪口を聞いたってことだろうか。きっとそうだろう。まさか彩芽の友達が噂の発信源なのだろうか。そんなことって。聞きたくない現実だ。
彩芽は気づいているのだろうか。楓は彩芽には聞かれたくなくて二人でと話したのだろうか。
こんなに小さいのに、なんて気遣いのある子だろう。
あっ、そうか。小百合だ。
彩芽には話してはいけないと楓に話したに違いない。
こんなことってあるの。胸の奥が疼いてしまう。
落ち着いて、まだそうと決まったわけじゃない。
「楓ちゃん、悪口ってもしかしてお母さんのことかな」
訊きたくはないが、ここははっきりしておきたかった。
「うん、そう。えっと、えっとね。ユウタくんがね。あっ、ユウタくんってママの友達の子なの」
「もしかして、その子に聞いたの。まさか、その子に虐められているの」
梨花は思わずそう口にしてしまった。
あっ、今の発言はまずかっただろうか。
楓の顔が一瞬固まった。やっぱりそうなのか。虐められているのか。
彩芽の友達の子なのか。もしかしたら、その子が噂を流した張本人なのか。だが、楓が口にした言葉は思わぬものだった。
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