猫縁日和

景綱

文字の大きさ
74 / 107
第6章 心の雨には優しい傘を

(6-9)

しおりを挟む

 庄平と節子の家をあとにして、梨花は彩芽の家に来ていた。

 楓の部屋にお邪魔して、あれっとなった。思っていた部屋の様子と違ったせいだ。
 入ってすぐに目についたのは、焦げ茶色の布団のかかるベッド。その脇にある小さな本棚に何度も読んだであろうボロボロの童話が並んでいる。

 あとは小さくてくすんだ色のテーブルと、白と黒の地味なクッションが床に転がっているだけ。カーテンはグレーでちょっと暗めだ。
 机はない。幼稚園だからまだ必要ないのかもしれない。

 女の子だとピンク色が散りばめてあるのかと思ったけど、そうではなかった。まあ好みの問題もあるが、それだけが理由ではなさそうだ。そういえばおもちゃがない。ぬいぐるみとか人形とかがあってもよさそうなものだが、やっぱり金銭的な問題なのだろうか。
 楓はこういう部屋が好きって可能性もなくはない。

 あまりそのへんは深入りしないほうがいい。
 やっぱり、なにかフラワーアレンジメントをプレゼントしよう。

 それよりも、楓の話を聞かなくては。今日は遊びに来たわけじゃない。

 いったい何の話をするつもりだろうか。
 梨花も二人っきりで話したいとは思っていたが、いざ楓と二人っきりになるとなかなか話を切り出せなかった。『虐められているの』なんて訊いて素直に認めるだろうか。

 まずは楓の話が先だ。
 楓は何かを言いたげな顔をしているが、まだ少し迷っている感じだ。あまり急かさないほうがいいか。おや、目線がまた上のほうに向いた。小百合もやっぱりいるのだろうか。

「あのね、楓ね。聞いちゃったの」

 唐突に放たれた言葉にハッとする。聞いたとはいったい……。噂話だろうか。

「聞いたって何をかな」

 少しの間があり「ママのお友達がね。悪口言っていたの」とぼそりと呟いた。
 彩芽の悪口を聞いたってことだろうか。きっとそうだろう。まさか彩芽の友達が噂の発信源なのだろうか。そんなことって。聞きたくない現実だ。

 彩芽は気づいているのだろうか。楓は彩芽には聞かれたくなくて二人でと話したのだろうか。
 こんなに小さいのに、なんて気遣いのある子だろう。

 あっ、そうか。小百合だ。
 彩芽には話してはいけないと楓に話したに違いない。

 こんなことってあるの。胸の奥がうずいてしまう。
 落ち着いて、まだそうと決まったわけじゃない。

「楓ちゃん、悪口ってもしかしてお母さんのことかな」

 訊きたくはないが、ここははっきりしておきたかった。

「うん、そう。えっと、えっとね。ユウタくんがね。あっ、ユウタくんってママの友達の子なの」
「もしかして、その子に聞いたの。まさか、その子に虐められているの」

 梨花は思わずそう口にしてしまった。
 あっ、今の発言はまずかっただろうか。

 楓の顔が一瞬固まった。やっぱりそうなのか。虐められているのか。
 彩芽の友達の子なのか。もしかしたら、その子が噂を流した張本人なのか。だが、楓が口にした言葉は思わぬものだった。

しおりを挟む
感想 138

あなたにおすすめの小説

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

【bl】砕かれた誇り

perari
BL
アルファの幼馴染と淫らに絡んだあと、彼は医者を呼んで、私の印を消させた。 「来月結婚するんだ。君に誤解はさせたくない。」 「あいつは嫉妬深い。泣かせるわけにはいかない。」 「君ももう年頃の残り物のオメガだろ? 俺の印をつけたまま、他のアルファとお見合いするなんてありえない。」 彼は冷たく、けれどどこか薄情な笑みを浮かべながら、一枚の小切手を私に投げ渡す。 「長い間、俺に従ってきたんだから、君を傷つけたりはしない。」 「結婚の日には招待状を送る。必ず来て、席につけよ。」 --- いくつかのコメントを拝見し、大変申し訳なく思っております。 私は現在日本語を勉強しており、この文章はAI作品ではありませんが、 一部に翻訳ソフトを使用しています。 もし読んでくださる中で日本語のおかしな点をご指摘いただけましたら、 本当にありがたく思います。

10年引きこもりの私が外に出たら、御曹司の妻になりました

専業プウタ
恋愛
25歳の桜田未来は中学生から10年以上引きこもりだったが、2人暮らしの母親の死により外に出なくてはならなくなる。城ヶ崎冬馬は女遊びの激しい大手アパレルブランドの副社長。彼をストーカーから身を張って助けた事で未来は一時的に記憶喪失に陥る。冬馬はちょっとした興味から、未来は自分の恋人だったと偽る。冬馬は未来の純粋さと直向きさに惹かれていき、嘘が明らかになる日を恐れながらも未来の為に自分を変えていく。そして、未来は恐れもなくし、愛する人の胸に飛び込み夢を叶える扉を自ら開くのだった。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

🥕おしどり夫婦として12年間の結婚生活を過ごしてきたが一波乱あり、妻は夫を誰かに譲りたくなるのだった。

設楽理沙
ライト文芸
 ☘ 累計ポイント/ 180万pt 超えました。ありがとうございます。 ―― 備忘録 ――    第8回ライト文芸大賞では大賞2位ではじまり2位で終了。  最高 57,392 pt      〃     24h/pt-1位ではじまり2位で終了。  最高 89,034 pt                    ◇ ◇ ◇ ◇ 紳士的でいつだって私や私の両親にやさしくしてくれる 素敵な旦那さま・・だと思ってきたのに。 隠された夫の一面を知った日から、眞奈の苦悩が 始まる。 苦しくて、悲しくてもののすごく惨めで・・ 消えてしまいたいと思う眞奈は小さな子供のように 大きな声で泣いた。 泣きながらも、よろけながらも、気がつけば 大地をしっかりと踏みしめていた。 そう、立ち止まってなんていられない。 ☆-★-☆-★+☆-★-☆-★+☆-★-☆-★ 2025.4.19☑~

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ヤクザに医官はおりません

ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
彼は私の知らない組織の人間でした 会社の飲み会の隣の席のグループが怪しい。 シャバだの、残弾なしだの、会話が物騒すぎる。刈り上げ、角刈り、丸刈り、眉毛シャキーン。 無駄にムキムキした体に、堅い言葉遣い。 反社会組織の集まりか! ヤ◯ザに見初められたら逃げられない? 勘違いから始まる異文化交流のお話です。 ※もちろんフィクションです。 小説家になろう、カクヨムに投稿しています。

処理中です...