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第6章 心の雨には優しい傘を
(6-10)
しおりを挟む「違うの、そうじゃないの。あれは虐めじゃないの」
「えっ、どういうこと」
虐めじゃない。楓はその子を庇っているのだろうか。
まさか、虐められているってことも嘘だったってことなのだろうか。
どうなっているの。何が本当なの。噂好きのおばちゃんの話はすべて間違っていたってことなの。
とにかく、楓の話を聞かなきゃ。本当のことはわからない。
「あの、その。楓ね、どう話していいかよくわからないの。小百合婆ちゃん、どう話せばいいのかな」
小百合は知っているのか。また、直接何か聞こえるかもと期待したが耳を澄ませても小百合の声は届かなかった。外から聞こえる車の音や風音、外で誰かが会話している声がするだけだ。
楓を介して会話するしかない。
「楓ちゃん、小百合さんの言葉をそのまま話してくれるかな」
「うん、そうする」
楓はこくりと頷くと、横を向きもう一度頷く。
「小百合婆ちゃんがね。自分の言葉で話しなって。だから、話すね」
「そう、わかった」
しばらくの沈黙のあと、楓は話し出す。
「あのね、楓ね。ユウタくんがね。『おまえの母さんは悪い人なのか』って訊いてきてね。違うって怒鳴っちゃったの」
やっぱり虐められているんじゃないのか。
「でもね、すぐにごめんって謝ったのユウタくん」
謝ったって、それは……。
聞いていた話とは違う。楓の話を最後まで聞かないとまだわからない。
梨花は楓の話を整理しながら聞き続けた。
小百合の言葉を聞きながら話しているのだろう。楓の様子でそれはわかる。小百合とも直接話せたらいいのだが、聞こえないのだからしかたがない。それでも、なんとなく状況は理解できた。
要は、ユウタの母親が彩芽のことを悪く言っていたってことだ。
ユウタは彩芽と会ったことがあるらしく、悪い人だと思えなかったから楓にそんなことを訊いたらしい。
それなら、突き飛ばしたって話は嘘なのかと思ったのだが少し違った。突き飛ばしたのはユウタではなく、すぐ近くで話を聞いていたユウタの同級生だった。
ユウタは楓を庇ってくれたのに、虐めたと噂が流れている。
あれ、それじゃ、どういうこと。
彩芽の友達が悪いのか。噂を流した張本人は彩芽の友達ってことだろうか。ユウタも母親がそんなことをして困惑しているのだろうか。
「小百合婆ちゃん、楓、もうよくわかんない」
んっ、どうしたのだろう。
「えっと、うん。梨花ちゃん、小百合婆ちゃんがね。えっとね。よくわかんないんだけどね。中に入っていいかって」
中に入る。
えっ、なに、どういうこと。
「小百合さん、直接話すことできないのですか」
「あのね、『だから、中にわたしが入るって言っているだろう』だって」
んっ、あっ、中に入るって。
もしかして憑依するってことか。それは、うーん。
「『いいだろう。入っちまうよ。拒絶しないでおくれよ』だって。小百合婆ちゃん、なにを言っているの」
「ちょっと待って。私にも心の準備が。私の中に入るってことでしょ。小百合さんが私に取り憑くってことでしょ」
「梨花ちゃん。小百合婆ちゃん、ちょっとムッとしているみたい。『その言い方は嫌だね』だって」
「そうね。ごめんなさい。ああ、でも中に入るだなんて。うーん、わかりました。もうどうにでもしてください」
梨花は小百合を受け入れることにした。
「『力をぬいて』だって」
楓に腰をポンポンとされて、気づく。
身体に力が入っていたら入るのが難しいのか。
フッと息を吐きゆったりした気分になろうと努めたそのとき、何か首筋あたりが擽ったくなった。ちょっと気持ちが悪くもなった。
不思議な感覚。小百合が入ってきている。
「聞こえるかい」
あっ、小百合の声だ。
あれ、これは何。何が見えているの。
不思議なことに小百合の言葉と同時に見知らぬ姿が眼前に現れた。
どうやら小百合の目で見た光景が映し出されているようだ。小百合はこの光景を見せたかったのかもしれない。
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