89 / 107
第7章 パッと咲いた笑顔の便り
(7-9)
しおりを挟む「これは、美味そうだ」
颯はまずなめこ汁を一口飲み、「美味い。出汁がきいている」と満面の笑みになった。
その笑顔にホッとする。
赤魚の竜田揚げはどうだろう。きんぴらごぼうはどうだろう。ごぼうと人参は少し太めに切って食べ応えある感じにしてみたけど、颯の反応がすごく気になってしまう。
「きんぴらも美味い。歯ごたえもあるし、このピリ辛いいね。魚も美味い。これは何の魚だろう」
「赤魚よ。竜田揚げにしてみたの」
「赤魚か。うん、これも美味い。ほうれん草のお浸しもいい。お浸し好きなんだ。というか、好きな物ばかりだ」
「それはよかった」
結衣に好みの味付けと好物を訊いていてよかった。
「梨花さんは料理上手なんだね」
もう最高。今の自分にはその言葉が一番のプレゼント。
「うれしい。ありがとう」
颯はきれいに完食してくれた。もちろん、自分も完食。我ながらうまくできたと思う。最高のできだ。
しばらくゆっくりしたあと梨花はすみれの話をした。
難しい問題だと颯は話していた。
確かにそうだ。一番いいのは、仲良くみんなで一つ屋根の下で暮らすことだと思うとも話していた。努の母親とすみれが実の母親みたいな関係になれたらいいのに、なんてことも話していた。
確かにそうだ。なかなかそうなれないだろうとは思う。ざっくばらんな性格なら難しくないのか。すみれはどうだろう。
そうではないにしても、なにかきっかけがあればいいのか。
「颯さん、私も颯さんのお母さんと仲良くできるかな」
「んっ、そうだな。うちの母さんはのんびり屋だし梨花さんと似たところもあるかもしれないな。気が合うと思うよ」
のんびり屋か。
ふとタンスの横に目がいき洋服が落ちてグシャグシャになっていることに気づき、ハッとする。
まずい、だらしない女だと思われたらどうしよう。気づかれているだろうか。あれを見て、のんびり屋だなんて口にしたとしたら。
ああ、もうなんで片づけなかったのだろう。あれを見て、のんびり屋だとは思わない。料理のことで頭がいっぱいだったせいだ。
失敗した。
片づけたつもりだったのに。あんなに大きな忘れ物をしていたなんて、最悪。
颯は結局、グシャグシャの洋服には触れずにすみれについての話をしていた。気づかなかったのか、気づいたが気づかないふりをしてくれたのかわからない。
今更、どうしようもない。取り返しがつかない。
ぐしゃぐしゃの服のことは忘れよう。
違う。こっそり片づけて、なかったことにしよう。
他は綺麗になっている。気づいていたとしても、たまたまだろうと思ってくれたと信じよう。
「あの、ビールでも飲む」
「あっ、飲みたいけど、車だしやめとくよ」
「そうか、わかった」
一緒に飲めばいいムードになると思ったんだけど、しかたがないか。諦めよう。
颯は「そろそろ帰るよ」と口にした。
そろそろか。
時間が経つのって早い。
立ち上がると、振り向きざま「また来るからさ」の言葉とともに、頬にキスをしてきた。
えっ、なに。そんな不意打ち。
梨花は顔が火照っていくのを感じて「待っているね」とだけ告げて見送った。
自分にはこんな幸せ気分味わえないと思っていたのに。
なぜか、ツバキの顔がふと浮かんだ。
ツバキが颯と出会わせてくれたようなものだ。間接的だとしてもそう言える。
ツバキに感謝だ。
庄平と節子にも感謝しなきゃ。
だからこそ、二人の孫のすみれにも幸せになってもらわなきゃ。庄平と節子が笑顔になれるように。何ができるだろうか。大きなお世話って思われないようにしないといけない。そう考えると、できることって何だろうと首を捻るばかりだ。
見守ることしかできないのだろうか。
そう思いつつも、頭の中では颯のキスの記憶でいっぱいになっていく。
0
あなたにおすすめの小説
【bl】砕かれた誇り
perari
BL
アルファの幼馴染と淫らに絡んだあと、彼は医者を呼んで、私の印を消させた。
「来月結婚するんだ。君に誤解はさせたくない。」
「あいつは嫉妬深い。泣かせるわけにはいかない。」
「君ももう年頃の残り物のオメガだろ? 俺の印をつけたまま、他のアルファとお見合いするなんてありえない。」
彼は冷たく、けれどどこか薄情な笑みを浮かべながら、一枚の小切手を私に投げ渡す。
「長い間、俺に従ってきたんだから、君を傷つけたりはしない。」
「結婚の日には招待状を送る。必ず来て、席につけよ。」
---
いくつかのコメントを拝見し、大変申し訳なく思っております。
私は現在日本語を勉強しており、この文章はAI作品ではありませんが、
一部に翻訳ソフトを使用しています。
もし読んでくださる中で日本語のおかしな点をご指摘いただけましたら、
本当にありがたく思います。
10年引きこもりの私が外に出たら、御曹司の妻になりました
専業プウタ
恋愛
25歳の桜田未来は中学生から10年以上引きこもりだったが、2人暮らしの母親の死により外に出なくてはならなくなる。城ヶ崎冬馬は女遊びの激しい大手アパレルブランドの副社長。彼をストーカーから身を張って助けた事で未来は一時的に記憶喪失に陥る。冬馬はちょっとした興味から、未来は自分の恋人だったと偽る。冬馬は未来の純粋さと直向きさに惹かれていき、嘘が明らかになる日を恐れながらも未来の為に自分を変えていく。そして、未来は恐れもなくし、愛する人の胸に飛び込み夢を叶える扉を自ら開くのだった。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
🥕おしどり夫婦として12年間の結婚生活を過ごしてきたが一波乱あり、妻は夫を誰かに譲りたくなるのだった。
設楽理沙
ライト文芸
☘ 累計ポイント/ 180万pt 超えました。ありがとうございます。
―― 備忘録 ――
第8回ライト文芸大賞では大賞2位ではじまり2位で終了。 最高 57,392 pt
〃 24h/pt-1位ではじまり2位で終了。 最高 89,034 pt
◇ ◇ ◇ ◇
紳士的でいつだって私や私の両親にやさしくしてくれる
素敵な旦那さま・・だと思ってきたのに。
隠された夫の一面を知った日から、眞奈の苦悩が
始まる。
苦しくて、悲しくてもののすごく惨めで・・
消えてしまいたいと思う眞奈は小さな子供のように
大きな声で泣いた。
泣きながらも、よろけながらも、気がつけば
大地をしっかりと踏みしめていた。
そう、立ち止まってなんていられない。
☆-★-☆-★+☆-★-☆-★+☆-★-☆-★
2025.4.19☑~
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ヤクザに医官はおりません
ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
彼は私の知らない組織の人間でした
会社の飲み会の隣の席のグループが怪しい。
シャバだの、残弾なしだの、会話が物騒すぎる。刈り上げ、角刈り、丸刈り、眉毛シャキーン。
無駄にムキムキした体に、堅い言葉遣い。
反社会組織の集まりか!
ヤ◯ザに見初められたら逃げられない?
勘違いから始まる異文化交流のお話です。
※もちろんフィクションです。
小説家になろう、カクヨムに投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる