猫縁日和

景綱

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第7章 パッと咲いた笑顔の便り

(7-11)

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「梨花さん、花の手入れよろしくねぇ」
「はい、任せてください」
「梨花さんのおかげでずいぶん助かっているよ。ありがとうねぇ」
「そんな、私なんてまだまだですから」

 そんな会話をしていたら、突然ツバキが変な声音で鳴きビクッとしてしまった。

「なんだい、ツバキ。驚かせないでおくれよ」

 ツバキは節子の言葉が耳に届かなかったのか、見向きもしないで外をじっとみつめていた。
 ツバキは寝ぼけてでもいたのだろうか。そもそも寝ていたかどうかもわからない。ところで、なんであんな鳴き方したのだろう。人だったら叫び声ってところだろうか。

 何か嫌な予感がする。そう思った矢先、店の電話が鳴った。
 庄平が電話に出て話をしている。

「えっ、そ、そんな。それで病院は」

 そんな声が届き、予感が的中してしまったのだろうかと寒気を感じた。
 庄平が電話を切り「節子、す、すみれが事故に……事故にあったらしい。急いで支度して行くぞ」と声を上擦らせながら話す。

「そ、そんな。さっきまですみれは……」
「とにかく急ごう。病院は隣町の麻田中央病院だ。えっと、どう行けばいいんだったろうか」
「ああ、なんでこんなことに」

 節子は狼狽うろたえている。大丈夫だろうか。庄平だって冷静でいられないはず。隣町まで車を運転できるだろうか。それこそ庄平まで事故を起こしかねない。急ごうと言いながらもどうしていいのかわからないみたいだし。

「あの、庄平さん。私が運転していきましょうか」
「えっ、いや、それはまずいだろう。店がある」
「そんな場合じゃありません。庄平さんまで事故を起こしてしまったら大変ですから」
「それもそうだが。あっ、話している場合じゃない。すみれのとこに」
「ですから、私が。庄平さん」
「ああ、いや、わかった。でも、鍵が」

 庄平は、話も聞かずに車の鍵を探しはじめた。どうやら、車の鍵がみつからないらしい。節子も探している。ふたりともかなり動揺しているみたいだ。
 車の鍵なら、いつも通りポケットにあるんじゃないだろうか。

「庄平さん、鍵は上着のポケットじゃないですか」
「ああ、そ、そうだった」
「節子さんもしっかりしてください」
「ええ、あたしは、えっと。なんだったかねぇ。ああ、すみれだよ、すみれ」

 ダメだ。ここは自分がしっかりしなくてはいけない。
 上の空って感じだ。

 梨花はすぐに店の扉に鍵をかけて『CLOSE』との札をかける。続いて、庄平と節子を自宅側の玄関から車へと連れて行く。
 ツバキには「お留守番お願いね」とだけ話して戸締り確認をすると運転席へと乗り込んだ。

 事故だなんて、どうして。すみれは大丈夫だろうか。庄平に訊いても状況がよくわからない。やっぱり頭がパニックを起こしているのだろう。
 自分だけは冷静でいなきゃ。梨花は深呼吸をして麻田中央病院へと車を走らせた。
 大丈夫、すみれは無事だ。無事でなくては困る。幸せになってもらわなきゃ。

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