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第7章 パッと咲いた笑顔の便り
(7-12)
しおりを挟む麻田中央病院に着くと、梨花は庄平と節子を連れて受付に向かった。
「すみれは、すみれは、どこに」
節子はカウンターに身を乗り出していた。
受付の人は困り顔ではあるが、節子を落ち着かせようと声をかけてくれている。節子の肩に優しく触れて、梨花が代わりに受付の人にすみれのことを確認した。
どうやら、すみれは処置中らしい。整形外科にと案内された。
処置中ってことは手術しているのだろうか。最悪な想像が次から次へと浮かんできてしまう。梨花は首を振り、大丈夫だと自分に言い聞かせて整形外科へと足を向ける。
きっと、大丈夫。整形外科に案内されたってことは、手術中じゃない。そう思うことは、間違いだろうか。
とにかく、どんな様子なのか早く知りたい。
「事故だなんて。ああ、どうしてこんなことに。すみれ、すみれ」
庄平は涙声で呟きながら、ついてい来る。節子も涙目でついて来る。
「すみれは大丈夫なのかねぇ」
「庄平さんも節子さんも落ち着いてください」
ふたりとも頷いているが、心ここにあらずって感じだ。人のこと言えないか。どうにか、自分だけでも冷静にならなきゃ。
深呼吸をして。落ち着いて。
それでも心臓が大きく揺れて治まらない。.
無事なのだろうか。頭に浮かぶのはそればかり。
とにかく急ごう。
廊下を直進して、右へ曲がる。あそこだ。
整形外科の受付ですみれのことを訊いてみると、MRI検査中だと教えてくれた。検査中ってことは、意識はあるのだろうか。きっと、そうだ。それなら、大丈夫。
本当にそうだろうかと、すぐに嫌な想像が浮かんでしまう。
早く『大丈夫です』との言葉を聞きたい。
庄平と節子を見遣れば、青ざめた顔をしている。心配し過ぎて具合が悪くなってしまったのではないだろうか。すみれのことも気がかりではあるが、庄平と節子のことも気にかかる。
待合室で休んでもらったほうがいい。いや、すみれの無事を確認するほうが先だろうか。ならば一緒に行こう。MRI検査室へ。
「すみれさんは、きっと大丈夫ですよ」
そう二人に言い聞かせながらゆっくりと歩く。
MRI検査室の前まで来ると、すみれが目の前に立っていた。
「あっ、すみれさん」
庄平と節子がすみれのほうへ近づいて行く。
「事故って聞いたけど、怪我はないのかい」
「大丈夫なのかい」
二人とも涙ぐんで何度も何度もすみれに訊いていた。
「ごめんなさい。心配かけて。私は大丈夫よ。念のため脳の検査をしただけだから。単なる打撲だから」
打撲なの。車にはねられたんじゃないのか。
話しを聞くと骨折もしていないらしく左腕がちょっと痛む程度らしい。
その程度なの。それなら病院からの電話は何なの。んっ、そもそもあの電話って病院からだったのだろうか。
そういえば、病院からってだって誰も言っていないか。
それなら、警察だろうか。それも違うか。
庄平が狼狽えていたから、勝手に重症だと勘違いしただけってことか。
今更、電話のことを訊いたところでわからないだろう。気が動転していただろうし。
庄平と節子は、安堵した表情で泣き笑いしている。
すみれは大丈夫そうだ。訊かなくてもいい。
んっ、安心するのはまだ早いか。検査結果が出てからじゃないと、本当に大丈夫かはわからない。
すみれの話だと、車と接触して倒れたとき頭を打って気絶したらしい。
そう聞くと、やっぱり心配になってくる。
念のため入院をすることになった。頭を打っているから、そのほうがこっちも安心だ。
***
病室へと移動したあと、努の母親が息を切らせて飛び込んできた。
「大丈夫なの。怪我はないの。生きているわよね」
「あっ、はい。ちょっとした打撲だけです。ただ頭を打っているから念のため入院するように言われているんです」
「そ、そうなの。検査結果はどうなの。本当に大丈夫なの。何か必要なものはないの」
矢継ぎ早に話す努の母の言葉を制して、すみれは「お母さん、あの、大丈夫ですから」と言葉を詰まらせながら話し、瞳を潤ませていた。
「どうしたの、どこか痛いんじゃないの。そうなんでしょ。泣くほど痛いのね」
「あ、いえ。本当に大丈夫ですから。お母さんを見ていたら、泣けてきちゃって」
「えっ、どういうこと」
梨花はそんな光景に、頬を緩ませて「あの、すみれさんは嬉しんだと思います。心配して駆けつけてくれたことに」と口を挟んだ。
「えっ、ああ、そ、そうなの」
頷くすみれを見て、努の母親はフゥーと息を吐くと少しは落ち着きを取り戻したのかすみれの顔をみつめて言葉を続けた。
「本当に、びっくりしたのよ。大丈夫ならいいの。努と結婚するんでしょ。嫁になってくれるんでしょ。大事な家族じゃない。心配するのは当たり前のことよ」
努の母親は、安堵した表情をしていた。
優しい人だ。嫁姑問題でごたごたしているのかと思ったけど、そうでもないみたい。すみれのほうがちょっと壁を作ってしまっていたのかもしれない。
庄平と節子は、すみれと努の母親の姿を見て涙していた。梨花ももらい泣きしてしまった。
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