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第一話 謎の鍵が示す先
【六】魔法? それとも幻?
しおりを挟むふと両親と兄の顔が浮かんで消えた。
きっと、忙しく走り回っているのだろう。弱小企業の底力見せてやるなんて意気込んでいた。
源じぃの追悼本を出版するなんて話をしていた。
そこに自分も加わらなくてはいけない。わかっている。でも。
「源じぃ。俺、どうしたらいい」
答えが返ってこないとわかっても問いかけてしまう。
源じぃは小説家であり、芸術家でもあった。うちの出版社でいろいろと本を出していた。昔は、大学で講義していたなんて話も聞き及ぶ。そのときの教え子が源じぃの本を読んでくれていたらしい。
源じぃのファンのおかげで、小さいながらもなんとか倒産を免れてきたことは間違いない。追悼の意を込めて、源じぃの絶版してしまった本の何冊か再販をする。ある程度の売れ行きはあるのだろう。
そういえば色校が届いたとか話していたような。印刷の色味を確認するらしいけど。修正箇所があるとかなんとか。今、ここで考えても自分の出る幕はない。自分がやれることをやればいい。
やれることか。それはいったいなんだろう。
とにかく頑張らなくては。鍵のことも気にかかるが、ネットを通じて仕事をする約束を父とした。そのかわり、この家に住むことを許してくれたのだから。
あの会社に居ても自分の居場所はなかったから丁度いい。兄と比較されるのは御免だ。兄が嫌いなわけじゃない。尊敬している。父も母も尊敬している。それでも居心地は悪かった。
兄という後継者がいれば、きっと大丈夫だろう。そう考えている時点で自分はダメなのかもしれない。そんなことはないか。
これから頑張ればいい。
ネット社会の時代であって本当に助かった。出社せずとも仕事が出来る。だからといって大事な仕事を任されているわけではない。そりゃそうだ。そんな才能はない。自分が一番わかっている。機密事項漏洩なんてことになっても大変だし、任されても困る。
またそんな考えをして、情けない。仕方がない。実際の話、どう仕事をしていけばいいのか正直わかっていない。封筒を渡されて、これを早めに仕上げてくれと頼まれただけだ。渡されたとき、父は笑みを浮かべていた。はたしてどんな仕事なのか。
誰にでもできる仕事だろう。きっと。
そうだとしても自分なりに頑張ろう。源じぃの家でなら、できる気がする。
玄関扉のノブに手をかけたまま、ふぅーと息を吐く。
えっ、なに。静電気か。ピリッと指先に痛みを感じた。
な、なんだこれは。
気づくと、目の前の景色が一変していた。
源じぃの家が消えた。何もない広大な大地がそこにはあった。
どうなっている。地面が盛り上がっていく。身体がグラつきしゃがみ込む。
何か出て来た。あれは、芽か。
飛び出た芽をじっとみつめていたら、何かに引っぱられていくように一気に天に向かって伸びていく。あっという間に大樹となった。そうかと思うと、あたり一帯に木々がニョキニョキと生えて森となる。
風だ。どこかで水音がする。森の向こう側には、キラキラと輝く湖面が現れた。
なぜか、湖に目が釘付けになる。そばでは焚き火の炎が明々と照らしていた。いつの間に夜になったのだろう。空に瞬く星空があまりにも綺麗で心が満たされた。
何がどうなっているのだろう。
魔法か。
まさかそんなこと、ありえない。夢でも見ているのか。白昼夢ってやつか。
頭がおかしくなっちまったのか。幻覚なのか、これは。
再び、指先がピリッと痛む。
あっ、背後に誰かいる。あたたかい。柔らかな春の気配に包まれたようだ。
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