本の御魂が舞い降りる

景綱

文字の大きさ
18 / 161
第一話 謎の鍵が示す先

【十八】小海と祖母のハル(一)

しおりを挟む

 うっ、重い。
 腹に重みを感じて目を覚ますと、腹の上に乗ったグレンと目が合った。何か文句でもあるのかと鋭い目つきでにらまれてしまった。
『文句なんてないですよ』と心の中で呟き、グレンの首筋や耳の付け根を撫でてあげる。目を細めて気持ち良さそうにするグレンを見ていると安らげた。

「なあ、グレン。変な夢を見ちまったよ。なんだか子供の頃に戻っていてさ。夢の国だとか。けど、あれは地下室だ。実際にはどこにあるんだろうな、地下室は。そうそう、グレン、おまえ踊っていたぞ」

 もちろん、返答はない。
 グレンが言葉を話してくれたら、何かわかるかもしれないのに。
 とにかく探すしかない。それでどこを探せばいいのだろう。闇雲に探し回っても無駄な時間を過ごすだけだ。

 夢にヒントがある気がして、必死に思い出す。
 どこだったろう。入り口。

 ちょっと待て。夢の場所が正解とは限らない。というか、地下室のことを考えていたからあんな夢を見たんじゃないのか。
 少し落ち着け。

「遼哉、来たよ」

 あれ、まだ夕方じゃないけど小海の声がする。幻聴か。
 時計に目を向けると午後一時過ぎだった。仮眠と言いつつ、結構寝ていたらしい。そんなことより小海が来るには早過ぎる。まったく幻聴が聞こえるなんて、心が小海を欲しているのだろうか。遼哉は頭を振り嘆息を漏らした。

「遼哉、また寝ているの」

 幻聴じゃないのか。こんな大声の幻聴はないだろう。
 早いところ玄関扉を開けてやらなきゃ。また回り込んで部屋の窓を叩きかねない。まだ大声張り上げている。まったく近所迷惑もいいところだ。
 腹の上のグレンを抱き上げて玄関に小走りで向かって扉を開ける。

「小海、チャイムを鳴らせよな」
「えっ、そこのチャイム壊れているでしょ」
「んっ、壊れている。そうか」
「そうよ、いくら押しても鳴らないもん。それより、その猫どうしたの」
「ああ、こいつか。こいつはグレン。可愛いだろう。なんかいつの間にか家にいたんだよな」
「いつの間にって。そんなことありえないでしょ」
「まあ、そうなんだけどさ」
「まさか、ずっと家にいたとか」
「それはないだろう。ずっと誰もいなかったんだぞ」
「そうよね」

 小海はグレンをじっとみつめて「可愛い」と呟いた。
 小海も可愛いぞと心の中で呟き、頬を緩める。ああ、何を思っているんだか。
 心の声が漏れていなかっただろうかと一瞬焦ったが、大丈夫そうだ。小海はグレンの頭を撫でて笑っている。

「ところで学校はどうしたんだよ。サボったわけじゃないだろうな」
「サボってなんかないわよ。期末テストで帰りが早いだけ。もう、それくらいわかるでしょ」
「ああ、そうか。そんな時期か」

 テスト期間中か。小海はわかるでしょと言うが、正直そんなこと言われるまで気づかなかった。そんなことよりも勉強したほうがいいんじゃないのか。期末テストって一日じゃ終わらないはずだ。
 まあ、言っても無駄か。あの顔は手伝う気満々で来たって感じだ。

「ちょっと、何よ。私の顔に何かついている?」
「いや、試験勉強したほうがいいんじゃないのかなって」

 ああ、危なかった。無意識に小海をみつめてしまっていた。

「ああ、私はいいの。もう就職も決まったしね。それにいい点を取る自信あるから」

 流石、小海だ。そうか就職も決まっているのか。

「すごいな、小海は」
「まあね」

 小海は照れ臭そうにして頭を掻いた。

「で、地下室のことで来たんだろう」
「そうだけど、ずっと外で話させる気なの。寒いんだけど。今日は、お祖母ちゃんもいるんだからね。気づきなさいよね」

 えっ、お婆ちゃん?
 小海の後ろから腰を曲げて杖をついているお婆ちゃんが頭を下げる。

角橋かどはしハルです」
「あっ、すみません。気づかなくて。高宮遼哉です」

 慌てて遼哉もお辞儀をした。

「いやいや、大丈夫ですよ。お気遣いなく」

 ハルの柔らかな笑みに遼哉の頬も緩む。

「それよりも、小海。もうちょっと言葉遣いを考えなくてはいけないよ」とハルは言葉を続けた。
「えっ、あ、ごめんなさい」
「仕方がないねぇ。そんなんじゃ嫌われてしまうよ。そうですよねぇ」

 突然、言葉を投げかけられて面食らってしまい「確かに」と同意しかけて、小海が目の端に映り「いや、そのなんだ。小海らしくていいんじゃないかと」と言葉を繋げた。

「おや、そうかい。やっぱり源蔵さんのお孫さんだねぇ。お優しい。小海、うまくやんなさいよ」

 ハルは、微笑んでひとり頷いている。
 なんだか、ハルの笑顔は陽だまりみたいで心地いい。

「お祖母ちゃん、うまくってなによ。遼哉とはただの幼馴染なんだから。何か勘違いしているわよ。こんな頼りない奴。あっ」

 チラッとこっちに目を向けて口をつぐむ。

「小海、そんな口を利いてはいけないと言ったばかりだろう」
「ごめんなさい」
「謝るのは私にじゃないだろう」

 小海は俯き加減でこっちに向き「ごめん、遼哉」と呟いた。

「いや、謝らなくても。本当のことだし。いつも迷惑かけてばかりなんですよ、俺」

 なんだかバツが悪い。

「なんて心根が優しい人なんだろうねぇ。本当に大事にしなきゃいけないよ、小海」
「もう、お祖母ちゃんたら」

 小海の顔が少しだけ赤みをびている気がした。
 遼哉はいまだに玄関先にいることに気づき「あっ、すみません。中に入ってください」と招き入れた。

「それでは、お邪魔しますよ」

しおりを挟む
感想 65

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

魔力ゼロの英雄の娘と魔族の秘密

藤原遊
ファンタジー
魔法が支配する世界で、魔力を持たない少女アリア・マーウェラ。彼女は、かつて街を守るために命を落とした英雄的冒険者の両親を持ちながら、その体質ゆえに魔法を使えず、魔道具すら扱えない。しかし、彼女は圧倒的な身体能力と戦闘センスを武器に、ギルドでソロ冒険者として活動していた。街の人々やギルド仲間からは「英雄の娘」として大切にされつつも、「魔力を捨てて進化した次世代型脳筋剣士」と妙な評価を受けている。 そんなある日、アリアは山中で倒れていた謎の魔法使いイアンを助ける。彼は並外れた魔法の才能を持ちながら、孤独な影を背負っていた。やがて二人は冒険の中で信頼を深め、街を脅かす魔王復活を阻止するため、「カギ」を探す旅に出る。 しかしイアンには秘密があった。彼は魔族と人間の混血であり、魔王軍四天王の血を引いていたのだ。その事実が明らかになったとき、アリアは「どんな過去があっても、イアンはイアンだよ」と笑顔で受け入れる。 過去に囚われたイアンと、前を向いて進むアリア。二人の絆が、世界を揺るがす冒険の行方を決める――。シリアスとギャグが織り交ざる、剣と魔法の冒険譚!

田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛

タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】 田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~

Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」 病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。 気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた! これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。 だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。 皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。 その結果、 うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。 慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。 「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。 僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに! 行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。 そんな僕が、ついに魔法学園へ入学! 当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート! しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。 魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。 この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――! 勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる! 腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!

【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~

いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。 地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。 「――もう、草とだけ暮らせればいい」 絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。 やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる―― 「あなたの薬に、国を救ってほしい」 導かれるように再び王都へと向かうレイナ。 医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。 薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える―― これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。 ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

仕事で疲れて会えないと、恋人に距離を置かれましたが、彼の上司に溺愛されているので幸せです!

ぽんちゃん
恋愛
 ――仕事で疲れて会えない。  十年付き合ってきた恋人を支えてきたけど、いつも後回しにされる日々。  記念日すら仕事を優先する彼に、十分だけでいいから会いたいとお願いすると、『距離を置こう』と言われてしまう。  そして、思い出の高級レストランで、予約した席に座る恋人が、他の女性と食事をしているところを目撃してしまい――!?

【完結】魔法大戦 〜失われた古代魔法で無双する!〜

加瀬 一葉
ファンタジー
 王立魔法学校。高等部に編入してきた冴えない生徒ラフィト。エリートが集うこの学校で、辺境出身のラフィトは落ちこぼれの劣等生なのだが……。  実は彼は、失われたはずの古代魔法を操る一族の末裔。魔族の脅威が増す時代に、ラフィトは人類を救うことができるのか?  過去と現在が交錯する、魔法ファンタジー。

処理中です...