本の御魂が舞い降りる

景綱

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第一話 謎の鍵が示す先

【十八】小海と祖母のハル(一)

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 うっ、重い。
 腹に重みを感じて目を覚ますと、腹の上に乗ったグレンと目が合った。何か文句でもあるのかと鋭い目つきでにらまれてしまった。
『文句なんてないですよ』と心の中で呟き、グレンの首筋や耳の付け根を撫でてあげる。目を細めて気持ち良さそうにするグレンを見ていると安らげた。

「なあ、グレン。変な夢を見ちまったよ。なんだか子供の頃に戻っていてさ。夢の国だとか。けど、あれは地下室だ。実際にはどこにあるんだろうな、地下室は。そうそう、グレン、おまえ踊っていたぞ」

 もちろん、返答はない。
 グレンが言葉を話してくれたら、何かわかるかもしれないのに。
 とにかく探すしかない。それでどこを探せばいいのだろう。闇雲に探し回っても無駄な時間を過ごすだけだ。

 夢にヒントがある気がして、必死に思い出す。
 どこだったろう。入り口。

 ちょっと待て。夢の場所が正解とは限らない。というか、地下室のことを考えていたからあんな夢を見たんじゃないのか。
 少し落ち着け。

「遼哉、来たよ」

 あれ、まだ夕方じゃないけど小海の声がする。幻聴か。
 時計に目を向けると午後一時過ぎだった。仮眠と言いつつ、結構寝ていたらしい。そんなことより小海が来るには早過ぎる。まったく幻聴が聞こえるなんて、心が小海を欲しているのだろうか。遼哉は頭を振り嘆息を漏らした。

「遼哉、また寝ているの」

 幻聴じゃないのか。こんな大声の幻聴はないだろう。
 早いところ玄関扉を開けてやらなきゃ。また回り込んで部屋の窓を叩きかねない。まだ大声張り上げている。まったく近所迷惑もいいところだ。
 腹の上のグレンを抱き上げて玄関に小走りで向かって扉を開ける。

「小海、チャイムを鳴らせよな」
「えっ、そこのチャイム壊れているでしょ」
「んっ、壊れている。そうか」
「そうよ、いくら押しても鳴らないもん。それより、その猫どうしたの」
「ああ、こいつか。こいつはグレン。可愛いだろう。なんかいつの間にか家にいたんだよな」
「いつの間にって。そんなことありえないでしょ」
「まあ、そうなんだけどさ」
「まさか、ずっと家にいたとか」
「それはないだろう。ずっと誰もいなかったんだぞ」
「そうよね」

 小海はグレンをじっとみつめて「可愛い」と呟いた。
 小海も可愛いぞと心の中で呟き、頬を緩める。ああ、何を思っているんだか。
 心の声が漏れていなかっただろうかと一瞬焦ったが、大丈夫そうだ。小海はグレンの頭を撫でて笑っている。

「ところで学校はどうしたんだよ。サボったわけじゃないだろうな」
「サボってなんかないわよ。期末テストで帰りが早いだけ。もう、それくらいわかるでしょ」
「ああ、そうか。そんな時期か」

 テスト期間中か。小海はわかるでしょと言うが、正直そんなこと言われるまで気づかなかった。そんなことよりも勉強したほうがいいんじゃないのか。期末テストって一日じゃ終わらないはずだ。
 まあ、言っても無駄か。あの顔は手伝う気満々で来たって感じだ。

「ちょっと、何よ。私の顔に何かついている?」
「いや、試験勉強したほうがいいんじゃないのかなって」

 ああ、危なかった。無意識に小海をみつめてしまっていた。

「ああ、私はいいの。もう就職も決まったしね。それにいい点を取る自信あるから」

 流石、小海だ。そうか就職も決まっているのか。

「すごいな、小海は」
「まあね」

 小海は照れ臭そうにして頭を掻いた。

「で、地下室のことで来たんだろう」
「そうだけど、ずっと外で話させる気なの。寒いんだけど。今日は、お祖母ちゃんもいるんだからね。気づきなさいよね」

 えっ、お婆ちゃん?
 小海の後ろから腰を曲げて杖をついているお婆ちゃんが頭を下げる。

角橋かどはしハルです」
「あっ、すみません。気づかなくて。高宮遼哉です」

 慌てて遼哉もお辞儀をした。

「いやいや、大丈夫ですよ。お気遣いなく」

 ハルの柔らかな笑みに遼哉の頬も緩む。

「それよりも、小海。もうちょっと言葉遣いを考えなくてはいけないよ」とハルは言葉を続けた。
「えっ、あ、ごめんなさい」
「仕方がないねぇ。そんなんじゃ嫌われてしまうよ。そうですよねぇ」

 突然、言葉を投げかけられて面食らってしまい「確かに」と同意しかけて、小海が目の端に映り「いや、そのなんだ。小海らしくていいんじゃないかと」と言葉を繋げた。

「おや、そうかい。やっぱり源蔵さんのお孫さんだねぇ。お優しい。小海、うまくやんなさいよ」

 ハルは、微笑んでひとり頷いている。
 なんだか、ハルの笑顔は陽だまりみたいで心地いい。

「お祖母ちゃん、うまくってなによ。遼哉とはただの幼馴染なんだから。何か勘違いしているわよ。こんな頼りない奴。あっ」

 チラッとこっちに目を向けて口をつぐむ。

「小海、そんな口を利いてはいけないと言ったばかりだろう」
「ごめんなさい」
「謝るのは私にじゃないだろう」

 小海は俯き加減でこっちに向き「ごめん、遼哉」と呟いた。

「いや、謝らなくても。本当のことだし。いつも迷惑かけてばかりなんですよ、俺」

 なんだかバツが悪い。

「なんて心根が優しい人なんだろうねぇ。本当に大事にしなきゃいけないよ、小海」
「もう、お祖母ちゃんたら」

 小海の顔が少しだけ赤みをびている気がした。
 遼哉はいまだに玄関先にいることに気づき「あっ、すみません。中に入ってください」と招き入れた。

「それでは、お邪魔しますよ」

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