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第五話 思い出を抱いて
【六】急げ、流瀧
しおりを挟む今の鳴き声はグレンか。
流瀧はすぐに外へ飛び出した。
「グレン、どうしたのです」
焼け焦げた毛と爛れた肌。いったい何が起きている。
嫌な予感しかしない。そうか、さっきの樹実渡の声。あれは空耳ではなかったのか。樹実渡に何かあったのだろうか。
グレンが弱々しく鳴きながらこっちをみつめ近づいて来る。ふらつきつつ、ゆっくりと。
「痛いだろう。こんな姿になってしまって」
流瀧はグレンを抱きしめようとしてやめた。触れたら痛いはずだ。
とにかく動物病院に連れて行かなくては。
「伴治、グレンが大変です。早く来てください」
「何、グレンがどうしたって」
伴治は呑気そうにやってきてグレンの様子に目を見開き抱き寄せた。
「ギャッ」とのグレンの鳴き声に、伴治はさっと手を放す。
「ごめん、痛かったな」
「早く動物病院へ連れていかなくてはいけません」
「そうだな。えっと、動物病院は近くにあっただろうか」
「吉野動物病院なら歩いていけます」
「そうか、よし急ごう」
伴治は丁度よさそうな籠をみつけて、グレンを入れる。籠を抱え込み、伴治は動物病院へと向かった。流瀧は足に力を込めて伴治の肩に飛び乗る。
グレンは口をパクパクしていた。
何か言いたいことでもあるのだろうか。流瀧は伴治の腕を伝わりグレンの傍に近づき、耳を傾けた。
「どうした。何が言いたい」
『死んじゃう。樹実渡、火乃花、ハルが死んじゃう。ハルの家に……早く』
か細い声が心に直接届く。
『死んじゃう』
どういうことだ。
こんな状態でグレンが嘘をつくはずがない。焦げた毛と爛れた肌をもう一度見遣り、ハッとする。
火事か。
流瀧は炎に包まれるハルの家を想像してすぐに頭を振った。
樹実渡が死ぬ。火乃花が死ぬ。ハルも。
そんなことあってたまるか。そう思いたかった。
血の気が引いていく。
ハルの家に急ぐべきだ。
火事が起きているのなら、あの二人では無理だ。逃げていてくれればいいのだが。
流瀧は心臓が凍る思いがした。
「グレン、こんな身体でよく知らせてくれました。あとは任せてください」
グレンは安心した顔をして目を閉じた。
一瞬、息を引き取ったのかと思ったがそうではなさそうだ。ホッと胸を撫で下ろして、すぐに顔を引き締める。安堵している場合ではない。とにかく急ごう。
「伴治、すまないがグレンを頼む。急ぎの用事が出来た」
「ああ、任せておけ」
流瀧は伴治から飛び降りると、ハルの家へ走り出した。
間に合ってくれとの思いを胸に全速力で駆けていく。
ダメだ、自分の足じゃ間に合わない。
猫はいないかとあたりを見回す。感じる。どこだ、どこにいる。
いた。
車の下で涼んでいる茶トラ猫をみつけて、頼み込み跨った。
「茶トラ猫、超特急でお願いします」
茶トラ猫は道なき道を走り抜けていく。
家と家の間のブロック塀を駆け抜け、生け垣にある隙間を潜り他所の家の庭を通っていく。これなら、間に合うかもしれない。
『無事でいてください。お願いです』
流瀧は心の内で願い、茶トラ猫の背にしがみついていた。
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