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キスのその先
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一度経験してしまえば、今度はそれが当たり前の行為へと化した。
一日の内に、目が合うたびニコラさんの顔が近付く。
私もそれに吸い寄せられるように、唇を重ねる。
初めこそ恥ずかしくてその度に赤面していた私も、だんだんと口付けられないと物足りなくなってくる。気付けば強請るように、ニコラさんの唇を見つめている時すらあるくらいだ。
“慣れ”って人をこんなにも変えてしまうのね。
「アリシアからの熱烈な視線が僕を滾らせる」
「そんなに見てません!!」
「そんなことないよ。アリシアからの視線だけで、唇が燃えてしまいそうだ」
こうして何かと理由をつけてはキスをする。
私はそれを喜んで受け入れる。
今度はどんな言い訳をして口付けてくれるのだろう。
結局私は、少しもニコラさんから視線が離せないのだ。
しかし、こんなにもキスをしたり抱きしめたりするのに、寝室は必ず別の部屋なのだ。
もう私がここへ来て一ヶ月も過ぎた。次の発情期に番になるのなら、一緒に眠ってもいいんじゃないか……。
なんて思っているのは内緒。
口が裂けても言わないし、ニコラさんのことだから思うところがあるのだろう。
私から言い出すのを、待っているようにも思えない。
一人じゃないと眠れない体質なのかもしれないと、推測していた。
———本当は、あの逞しい胸に包まれて眠りについてみたいけどね。
きっとそういう顔でニコラさんを見ていたのだろう。
またチュッとされて我に返った。
「そんなに見つめられたら照れちゃうな」
笑いながら頭を撫でられる。
全然照れていないじゃないの。
いつだってニコラさんは余裕があって、私はずっと落ち着かないでいる。
流石に一ヶ月も経てば、色々と慣れる気もしていたけれど、全くそんなことはなかった。
こんなので、本当に番になんてなれるのだろうかと、密かに不安に思っている。
今まで、一度も恋愛してこなかったのが悔やまれる。
好きな人がいなかったわけではなかった。
でも私のような人から言い寄られても、迷惑だろうと思って、誰にも好きだと伝えないまま今まできたのだ。
今にして思えば、ニコラさんのように素直になっていれば、別の人生があったのかもしれない。
自分に正直に行動するニコラさんが羨ましくも感じる。
「何考えてるの?」
「あ、ごめんなさい。なんでもありません」
「アリシアがどんなことを考えているのか、たまには教えてほしいんだけどな」
そんな、子犬のような目で見られると、私が断れなくなるのをニコラさんは知っててやってる。
———熊なのに、本当に犬みたい。
まあるい耳がヒクヒクと動いている。
こんな時は甘えたいと思っているのだと、最近気づいた。
「私が……恋愛経験がないので、どんな風に反応を返せば良いのか分からないんです。恋愛経験どころか、まともに男性とお話ししたこともなくて……。もっと、いろんな経験をしておくべきだったと反省していました」
私が言うや否や、ニコラさんは勢いよく立ち上がった。
「そんな経験、僕だけで良いじゃないか!!」
「そう……なんですか? でも、ニコラさんの期待に応えられていない気がして……。男性がどんな風に接したら喜んでもらえるか、全然分からないんです。そんな余裕もないですし」
「それでいいの!! 僕のために作った反応なんていらない。いつだって自然なアリシアが好きなんだよ。他の男なんて知らなくていい。僕が最初で最後のアリシアのパートナーだから!!」
ニコラさんは少し怒っているような、焦っているような感じがした。
呆然としている私を抱きしめ、ずっと今のままでいいと囁いた。
「アリシアがとんでもないこと言うから、ビックリしちゃった」
しばらく抱きしめていたニコラさんが、温かいミルクを淹れてくれた。
ほんのりと甘くて、ホッとする。
「でも、不安に思ったらなんでも相談して? きっとアリシアの勘違いが多そうだけどね」
いつもの笑顔を見せてくれた。
私も話してみてスッキリしたし、ニコラさんのいう通り、私の不安は勘違いが多いかもしれないと思った。
素直に「はい」と返事をする。
「そろそろ寝ようか」
ニコラさんが立ち上がる。
いつもよりも今日は早く寝るんだな。なんて少し寂しく思った。
今日はもっと話をしたい気分だ。
部屋の前までは何も言わなかったけど、さっきニコラさんからなんでも言って欲しいと言われたばかりなので、素直に言ってみようと勇気を出す。
「おやすみ」と、自室へ向かう後ろ姿に声をかけた。
「あの! 今日、一緒に寝てほしい……です……」
声が上擦った。
震えていたし、聞き取れなかったかもしれない。
ニコラさんは私を振り返ったまま、少しの間固まっていた。
そして大きなため息を吐きながら蹲ってしまった。
「ごめんなさい!! 私が変なことを言ってしまったから!! やっぱり、なんでも口に出すなんて、いけませんね」
慌てて駆け寄ると、「そうじゃない」と髪をかき乱した。
「ずっと我慢してたのに」
「何をです?」
「一緒のベッドに入っちゃったら、絶対ガマンできないから」
「なっ、何を……です?」
「だからぁ! アリシアとえっちしたくなるから!! でも怖がることはしないって約束したし、だから別々の部屋にしたんだよ」
ニコラさんの話を聞いて、自分がとんでもないことを言っていたと気付いた。
一緒に寝てほしいなんて。
そんなの『抱いてください』と言ってるのも同然じゃない!!!
脚の力が抜け、ニコラさんの隣にへたり込む。
自分が間抜けすぎて救いようがない。
もうこれでは、ニコラさんに呆れられても仕方がないと思った。
一日の内に、目が合うたびニコラさんの顔が近付く。
私もそれに吸い寄せられるように、唇を重ねる。
初めこそ恥ずかしくてその度に赤面していた私も、だんだんと口付けられないと物足りなくなってくる。気付けば強請るように、ニコラさんの唇を見つめている時すらあるくらいだ。
“慣れ”って人をこんなにも変えてしまうのね。
「アリシアからの熱烈な視線が僕を滾らせる」
「そんなに見てません!!」
「そんなことないよ。アリシアからの視線だけで、唇が燃えてしまいそうだ」
こうして何かと理由をつけてはキスをする。
私はそれを喜んで受け入れる。
今度はどんな言い訳をして口付けてくれるのだろう。
結局私は、少しもニコラさんから視線が離せないのだ。
しかし、こんなにもキスをしたり抱きしめたりするのに、寝室は必ず別の部屋なのだ。
もう私がここへ来て一ヶ月も過ぎた。次の発情期に番になるのなら、一緒に眠ってもいいんじゃないか……。
なんて思っているのは内緒。
口が裂けても言わないし、ニコラさんのことだから思うところがあるのだろう。
私から言い出すのを、待っているようにも思えない。
一人じゃないと眠れない体質なのかもしれないと、推測していた。
———本当は、あの逞しい胸に包まれて眠りについてみたいけどね。
きっとそういう顔でニコラさんを見ていたのだろう。
またチュッとされて我に返った。
「そんなに見つめられたら照れちゃうな」
笑いながら頭を撫でられる。
全然照れていないじゃないの。
いつだってニコラさんは余裕があって、私はずっと落ち着かないでいる。
流石に一ヶ月も経てば、色々と慣れる気もしていたけれど、全くそんなことはなかった。
こんなので、本当に番になんてなれるのだろうかと、密かに不安に思っている。
今まで、一度も恋愛してこなかったのが悔やまれる。
好きな人がいなかったわけではなかった。
でも私のような人から言い寄られても、迷惑だろうと思って、誰にも好きだと伝えないまま今まできたのだ。
今にして思えば、ニコラさんのように素直になっていれば、別の人生があったのかもしれない。
自分に正直に行動するニコラさんが羨ましくも感じる。
「何考えてるの?」
「あ、ごめんなさい。なんでもありません」
「アリシアがどんなことを考えているのか、たまには教えてほしいんだけどな」
そんな、子犬のような目で見られると、私が断れなくなるのをニコラさんは知っててやってる。
———熊なのに、本当に犬みたい。
まあるい耳がヒクヒクと動いている。
こんな時は甘えたいと思っているのだと、最近気づいた。
「私が……恋愛経験がないので、どんな風に反応を返せば良いのか分からないんです。恋愛経験どころか、まともに男性とお話ししたこともなくて……。もっと、いろんな経験をしておくべきだったと反省していました」
私が言うや否や、ニコラさんは勢いよく立ち上がった。
「そんな経験、僕だけで良いじゃないか!!」
「そう……なんですか? でも、ニコラさんの期待に応えられていない気がして……。男性がどんな風に接したら喜んでもらえるか、全然分からないんです。そんな余裕もないですし」
「それでいいの!! 僕のために作った反応なんていらない。いつだって自然なアリシアが好きなんだよ。他の男なんて知らなくていい。僕が最初で最後のアリシアのパートナーだから!!」
ニコラさんは少し怒っているような、焦っているような感じがした。
呆然としている私を抱きしめ、ずっと今のままでいいと囁いた。
「アリシアがとんでもないこと言うから、ビックリしちゃった」
しばらく抱きしめていたニコラさんが、温かいミルクを淹れてくれた。
ほんのりと甘くて、ホッとする。
「でも、不安に思ったらなんでも相談して? きっとアリシアの勘違いが多そうだけどね」
いつもの笑顔を見せてくれた。
私も話してみてスッキリしたし、ニコラさんのいう通り、私の不安は勘違いが多いかもしれないと思った。
素直に「はい」と返事をする。
「そろそろ寝ようか」
ニコラさんが立ち上がる。
いつもよりも今日は早く寝るんだな。なんて少し寂しく思った。
今日はもっと話をしたい気分だ。
部屋の前までは何も言わなかったけど、さっきニコラさんからなんでも言って欲しいと言われたばかりなので、素直に言ってみようと勇気を出す。
「おやすみ」と、自室へ向かう後ろ姿に声をかけた。
「あの! 今日、一緒に寝てほしい……です……」
声が上擦った。
震えていたし、聞き取れなかったかもしれない。
ニコラさんは私を振り返ったまま、少しの間固まっていた。
そして大きなため息を吐きながら蹲ってしまった。
「ごめんなさい!! 私が変なことを言ってしまったから!! やっぱり、なんでも口に出すなんて、いけませんね」
慌てて駆け寄ると、「そうじゃない」と髪をかき乱した。
「ずっと我慢してたのに」
「何をです?」
「一緒のベッドに入っちゃったら、絶対ガマンできないから」
「なっ、何を……です?」
「だからぁ! アリシアとえっちしたくなるから!! でも怖がることはしないって約束したし、だから別々の部屋にしたんだよ」
ニコラさんの話を聞いて、自分がとんでもないことを言っていたと気付いた。
一緒に寝てほしいなんて。
そんなの『抱いてください』と言ってるのも同然じゃない!!!
脚の力が抜け、ニコラさんの隣にへたり込む。
自分が間抜けすぎて救いようがない。
もうこれでは、ニコラさんに呆れられても仕方がないと思った。
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