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34話 挑戦権

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 その日、ギルド内部は一番の盛り上がりを見せていた。先ほどまで受付に居た智司達。カシムと無事合流を果たし、そのまますぐに出て行ったのだ。彼らが居なくなってから、バーンからオーガロード討伐の話を聞いた周囲は驚きに満ち溢れていた。




「でも驚きやな。カシムさんもソウルタワーの100階を超えてるなんて」
「ふふ、拙者ではとてもそのようには見えないかな?」
「いやいや、そんなことありませんよ」

 カシムは全く不快な態度は取らずにナイゼルを見据えた。ナイゼル自身もカシムの能力は分かっているような印象だ。彼はさらに続ける。

「オーガロード以上の闘気がひしひしと伝わってくる。もう、雰囲気だけでわかってしまうのが怖いわ」
「ありがとう」
「でも、智司の奴と比較したらな……」

 ナイゼルは少し離れた場所でリリーと談話している智司に視線を合わせた。カシムもそれに釣られるように視線を動かす。

「彼が、魔法空間内でのオーガロードを討伐したのか」
「ええ、そうですわ」

 カシムは真剣な表情で智司を見ていた。

「大したものだ。年齢はあまり関係ないとして、オーガロードを討伐している時点で既に限られた才能の持ち主であることは明白。例え魔法空間内の出来事でも、実力は保証されるからね。拙者としても、ソウルタワーの攻略メンバーにぜひ欲しい逸材だ」

 攻略組の上位、カシムからの絶大とも言える称賛の言葉だ。ナイゼルにもそれは伝わって来た。

「うわ~、智司の奴はやっぱりすごいねんな。俺なんて、単独やと10階に行くのも厳しかったのに……」
「最初はそんなものさ。焦らずに力を付けて行けば問題はない。単独の力だけで攻略するわけでもないからな」
「そういってもらえると助かりますわ。それで、カシムさんから見て智司の奴はどうですか?」

 カシムはナイゼルからの質問を受け、再び智司に目をやる。

「我々ランカークスはこの間、200階のエリアボスを討伐したところだ。200階のエリアボスはゴールデンベアと呼ばれる金色の熊であったが、オーガロードを大きく凌駕する強さを秘めていた」
「200階って……もう人間の領域やないですやん……」

 自らが魔法空間内とはいえ、ソウルタワーに挑戦した経験から鑑みた印象だ。ナイゼルは19階層までの敵の強さを思い出しながら考えていた。1階のバラクーダから考えても異常な強さであったが、19階に到達する頃にはさらに強大なコカトリスなどが普通にエンカウントしていたからだ。

「人外の領域か……そう言ってもらえるのは嬉しいがね」
「いやいや、マジですって。評議会序列10位のサラでも単独で30階層には辿り着かれへんかもしれませんもん。その間にオーガロードが出現すれば、それで終わりやし」

 そう言いながら、ナイゼルは今度はサラの方向へと目をやった。なにやら宿屋の受付のおばさんと話しているようだ。

「まだ20歳にも満たない子が評議会メンバーか。順調に若い芽が育っているようで安心といったところかな? ランカークスと同じく100階層を超えていた「ルビシャス」のメンバーは全滅したからね」
「全滅?」
「拙者としても信じられないことではあるが……100階層~300階層の間に現れるレアモンスターのブラッドハーケンに相対した可能性が高い。漆黒のマントに覆われた骸骨のような外見の大鎌を扱う魔物だ。彼らの死体は無残にも千切りのようになっていた……183階層での出来事だ」

 カシムの言葉を聞いたナイゼルの表情は曇る。ソウルタワーは命のやり取りが行われる戦場と同じなのだ。さらに、その死亡率は大陸でもトップと言っても過言ではない。だからこそ、強力な冒険者以外の立ち入りはできないようにされている。しかし、その中でも当然死者は出ているのだ。

「ブラッドハーケン……初めて聞きますわ」
「ソウルタワー以外には存在しない魔物とも言われているからな。その強さは300階層のエリアボスを超える。噂では神のお気に入りの1体とも言われており、本来であればさらに上位の階層に出現するはずの化け物とのことだ」

 ナイゼルはあまりにレベルの違う話を聞かされている為に、自らの自信が喪失しそうになっていた。ソウルタワーのレベルの高さをカシムから垣間見たのだ。しかも、まだまだタワー自体の半分にも満たない階層での話だ。

「確か、現在の冒険者パーティで100階層を超えたんは3組。その内の1組が死亡ってことは、あとは「アルノートゥン」の二人組だけってことですやん……」
「その通り。想像以上に100階層の壁は厚く、そこを超えたとしても万が一、ブラッドハーケンに出くわそうものなら、そこで人生は潰えるだろう」

 カシムとナイゼルの間に流れるしばしの沈黙。ナイゼルにとってはソウルタワーの難易度を改めて確認したような感覚であった。カシムとしては、そのことを後輩の一人に伝えることで、100階層を超える数少ない人間の一人として気を引き締め直すきっかけにしたのだ。ルビシャスやその他の散って行った冒険者の無念を晴らす意味合いでも、まだまだ上を目指す覚悟なのだから。

「かなり厳しいみたいですね、ソウルタワーは」

 どこから話を聞いていたのかは定かではないが、彼らの話すテーブルにいつの間にか智司がやって来ていた。彼の表情はオーガロードを討伐した時のように平然としている。

「確かに非常に厳しいダンジョンと言える。しかし、智司くん。君ならば200階まで到達することは単独でも可能だろう」
「それはオーガロードを倒せたところからの予想ですか?」
「それもある。あとは君の雰囲気を見ての拙者なりの意見だよ。どうだろうか、一度ソウルタワーに本格的に挑戦してみる気はないか?」

 カシムからの言葉は智司としても意外であった。本来であれば、学生の身分で入ることなど敵わない危険地帯だからだ。


「それは、カシムさんが推薦してくれるということですか?」
「拙者の推薦と同行があれば、君は入ることは可能だ。さらに、200階までの直通エレベーターは本来であれば新規メンバーが居る場合は作動しないが、強さ指数で合格すればそのまま200階まで登ることもできる」

 直通エレベーター……カシムたちが200階まで到達している為に、彼らは塔によって記録されている。直通の魔法型エレベーターで一気に攻略階層を上ることが出来るのだ。智司は本来は不可能だが、エレベーターの測定する強さ基準を満たせば、彼も上ることができるようになっている。

「さすがに200階までを通常通り上るとするなら、何日かかるかわからないからね」
「……魅力的な提案ありがとうございます。俺も自分の強さは試したいと考えていましたので、ぜひお願いします」
「そう言ってくれて嬉しいよ。ソウルタワーの攻略には強い者が大いに越したことはないからね。拙者としても願ったりだ」
「他の皆はどうなりますか?」

 智司は肝心の部分の話を持ち掛けた。カシムはしばらく沈黙をした後、首を横に振った。

「残念だが、今回は智司くん以外の者を許可するわけには行かない。魔法空間での戦闘はそういう面での判定もできる優れものだからね」
「なるほど、確かに事前の挑戦やったわけやしな……くそっ」

 ナイゼルは悔しそうにしていたが、自分では挑戦権はないこともわかっているようで、それ以上、何も言うことはしなかった。
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