上 下
20 / 30

20話 王位継承権 その3

しおりを挟む
「それでは、一旦失礼いたします父上、母上」

「うむ。苦労をかけるな」

「いえ、とんでもないことです」


 アレンは父親の謝罪の言葉を真っすぐに受け取り、叱責をすることはなかった。王位継承自体は彼が生まれた頃から決まっていたことだ。将来的に民を導くために、アレンは努力を積み重ねて来たのだ。その努力の成果が試される場が来ただけ。

 アレンとしてはむしろ願ったりでもあったのだ。予想よりはやや早いタイミングではあったが。リオナとシャルロッテを引き連れて、アレンはヨハン国王陛下の前から姿を消した。

 それを見計らってから、ヨハンはふうっ、とため息をつく。彼は一仕事終えた勤務者のような顔をしていた。


「いよいよ、アレンとグレンが争う時がきたのか……」

「ええ。私としては、アレンが王位に就くものと考えていたけれど。まさか、選挙での抗争に発展するなんて」

 シャルロッテのことについては反省の念を持っているヨハンとリズリット。しかし、王位継承権争いについてはどこか楽しんいる節があった。アレンが順当に国王の座に就いては面白くないと考えているのか。それとも次男であるグレンにも頑張ってもらいたいと考えているのか。

 この場でも二人は「親バカ」を発揮しているのは間違いがなかった。それなりの功績を手にし、現在の地位を築いているヨハンとリズリット。しかし、我が子のことになると一般人に成り下がってしまうのであった。ラウコーン王国唯一にして、最大の欠点と言えるのかもしれない。


「アレンは順当に民の票を勝ち取るだろう。グレンは……裏の民の票。あとは、アレンを快く思わない貴族達の票といったところか」

「ええ、そうですね」

 王位継承権争いは民の票とは言っているが、そこには貴族達の票も含まれている。しかも、貴族の票は2倍の効力を発揮することでも有名だ。これは周辺国家にはない、ラウコーン王国独自のスタイルであった。


「さて……私達もまだまだ若い。政権を退いたあとは、のんびりと田舎でスローライフとでもいくか? あまり、後見人を務める雰囲気でもないだろう」

「そうね……スローライフ。良い響きね」

 なにやら平和的な雑談に興じている国のトップ二人……。悪い言い方をすれば他人行儀な会話は玉座の間でしばらく続いていたという……。アレンとリオナ、シャルロッテの気苦労が増すのは確実な事態でもあった……。
しおりを挟む

処理中です...