教養が足りない、ですって

たくわん

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王宮の執務室では、若き国王レオナルド・フォン・エーデルシュタインが書類の山を前に溜息をついていた。二十八歳の若さで即位して五年、彼は王国の改革に情熱を燃やしてきた。だが、現実は理想通りには進まない。

「陛下、財務卿がお見えです」

側近の声に、レオナルドは顔を上げた。

「通してくれ」

扉が開き、初老の貴族が入ってくる。財務卿ヴェルナー伯爵だ。彼の表情は暗い。

「陛下、王国の財政状況について、改めてご報告申し上げます」

ヴェルナーは書類を机に置いた。

「税収は昨年より三パーセント減少。一方で、軍事費と宮廷費は増加の一途。このままでは、来年度の予算編成が困難です」
「減税を提案したのは私だ。民の負担を減らさねば、経済は活性化しない」
「ですが、陛下。貴族たちへの増税案は、貴族院で否決されました。彼らは一歩も譲りません」

レオナルドは拳を握った。改革のたびに、古い貴族たちが壁となって立ちはだかる。彼らは既得権益を守ることしか考えていない。

「もう一度提案する。今度は私が直接、貴族院で演説しよう」
「陛下、それは」
「国王の権限で押し通すしかない」

ヴェルナーは憂いを含んだ表情で頭を下げた。

「畏まりました。ですが、反発は避けられません」
「構わない。このままでは王国が立ち行かなくなる」

財務卿が退出した後、レオナルドは窓の外を見つめた。王都の街並みが広がっている。だが、その下では民の不満が渦巻いていることを、彼は知っている。

一方、ハルトマン侯爵家の図書室では、エリーゼが新聞を広げていた。王国で発行されている三紙全てを取り寄せ、毎日読むのが彼女の日課になっていた。

「財政問題が深刻化、と」

エリーゼは記事を読み進める。税収の減少、支出の増加、国債の発行額。数字を追っていくうちに、彼女の眉が寄った。

「これは、構造的な問題だわ」

彼女はノートを開き、王国の財政状況を図式化していく。収入の柱は農民からの税、商人からの税、そして貴族からの税。だが、貴族への課税は軽すぎる。

「支出は、軍事費が四割、宮廷費が二割、公共事業が一割」

エリーゼはペンを走らせる。

「無駄が多すぎる。特に宮廷費。貴族たちへの恩給や補助金に消えている」

彼女はここ数ヶ月で読んだ経済学の書物を思い出す。税の公平性、予算の効率性、そして経済成長との関係。

「もし私が財務卿なら」

エリーゼは新しいページを開き、改革案を書き始めた。まず、貴族への課税強化。次に、宮廷費の削減。そして、削減した予算を公共事業と教育に回す。

筆が止まらない。一つのアイデアが次のアイデアを呼び、改革案は膨らんでいく。

数時間後、エリーゼは十ページにわたる財政改革案をまとめ上げていた。

「でも、これは机上の空論」

彼女は自嘲気味に笑った。社交界の笑い者だった侯爵令嬢が、何を偉そうに。

だが、諦めきれなかった。この案には価値がある。そう、彼女は感じていた。

その夜、王宮では緊急の会議が開かれていた。

「陛下、北部で凶作の兆しがあるとの報告です」

農務卿の言葉に、重臣たちの顔色が変わる。

「凶作だと?」
「今年の春は雨が少なく、夏も日照りが続きました。このままでは収穫量が例年の七割程度になる可能性があります」
「食糧の備蓄は?」

財務卿が首を横に振る。

「財政難で、備蓄を削減しておりました」

レオナルドは頭を抱えた。財政問題に加えて、食糧危機。王国は二重の危機に直面している。

「緊急に対策を」
「陛下、財源がありません。これ以上の国債発行は、王国の信用を失墜させます」

会議室に重苦しい沈黙が流れる。

「隣国からの食糧輸入を検討してはどうでしょうか」

ある重臣が提案したが、別の重臣が反対する。

「隣国は我が国の弱みにつけ込むでしょう。法外な値段を要求されるか、あるいは政治的な譲歩を迫られます」

レオナルドは深く息を吐いた。どの道も困難だ。だが、何もしなければ、民が飢える。

「明日、再度協議する。それぞれ、最善の案を持ち寄ってくれ」

会議は解散となったが、誰もが暗い顔で退出していった。

その頃、ハルトマン侯爵家の図書室では、エリーゼが新聞の凶作に関する記事を読んでいた。

「北部で凶作の可能性」

彼女は地図を広げた。北部は王国の穀倉地帯だ。そこでの凶作は、王国全体に影響を及ぼす。

「備蓄は?いや、財政難で削減されているはず」

エリーゼは素早くノートに書き込む。

「食糧危機と財政危機。二つの問題は連動している」

彼女の頭の中で、解決策が形を成していく。だが、それを誰に伝えればいい?

「国王陛下」

エリーゼは小さく呟いた。だが、すぐに首を振る。

「侯爵令嬢が国王に意見するなど」

それは不可能だ。門前払いされるだろう。いや、笑い者にされるだけだ。

だが、諦めきれない。この危機を放置すれば、民が苦しむ。

エリーゼは窓の外を見つめた。月が煌々と輝いている。

「何か、方法はないかしら」

その問いに、まだ答えは見つかっていなかった。だが、彼女の心の中で、ある決意が芽生え始めていた。
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