教養が足りない、ですって

たくわん

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舞踏会から数日後、王国に新たな問題が浮上した。

「陛下、西の隣国が我が国との貿易協定の見直しを要求しています」

外務卿が緊急で報告に来た。レオナルドは眉を寄せた。

「見直し?どういうことだ」
「関税の大幅な引き上げを要求しています。応じなければ、貿易を停止すると」

レオナルドは拳を握った。西の隣国は重要な貿易相手だ。特に、鉄鉱石と木材の多くをそこから輸入している。貿易が停止すれば、王国の産業に大打撃を与える。

「なぜ、今このタイミングで」
「おそらく、我が国の財政改革で経済が好転していることを知り、より多くの利益を得ようとしているのでしょう」

重臣たちが集まり、対応を協議した。

「関税引き上げに応じるべきです。貿易停止は避けなければなりません」
「いや、一度譲歩すれば、今後も要求はエスカレートする」
「では、強硬姿勢を取るのか?それこそ危険だ」

議論は平行線を辿った。レオナルドは頭を抱えた。どちらの選択も、リスクが大きい。

「一旦、休会としよう。明日、再度協議する」

会議が解散した後、レオナルドは一人執務室に残った。

「憂国の民なら、どう考えるだろうか」

彼は呟いた。あの匿名の提言者なら、この問題にどう対処するか。

一方、ハルトマン侯爵家では、エリーゼが新聞を読んでいた。

「西の隣国、貿易協定の見直しを要求」

記事を読み進めるうちに、エリーゼの表情が険しくなった。

「これは、王国を試している」

彼女はすぐに地図を広げた。西の隣国との貿易ルート、輸入品目、その重要性。全てを確認する。

「鉄鉱石と木材。確かに重要だけれど」

エリーゼはさらに地図を調べた。南の国々、東の国々。代替の貿易相手はいないか。

「南の連邦には鉄鉱石がある。東の島国には良質な木材がある」

彼女はノートに書き込んでいく。だが、問題は時間だ。新しい貿易ルートを確立するには、交渉と準備が必要だ。

「短期的には譲歩が必要かもしれない。でも、長期的には選択肢を増やすべき」

エリーゼは一晩かけて、包括的な対策案をまとめた。

翌朝、彼女は再び匿名の提言書を王宮に送った。

レオナルドがその提言書を受け取ったのは、午後の会議の直前だった。

「また『憂国の民』からです」

側近が封筒を差し出す。レオナルドは素早く封を切った。

「西の隣国の要求は、短期的な圧力です。しかし、これを機に王国の貿易依存体制を見直すべきです」

レオナルドは読み進める。

「南の連邦との鉄鉱石貿易、東の島国との木材貿易を並行して交渉すること。ただし、これには時間がかかるため、短期的には西の隣国に部分的な譲歩を示すべきです」

「重要なのは、譲歩の範囲を明確に限定すること。関税引き上げは認めるが、その代わりに長期契約を結ぶ。そして、その間に代替ルートを確立する」

レオナルドは感嘆した。この案は、短期と長期の両方を考慮している。そして、何より実現可能だ。

「素晴らしい」

彼は提言書を持って会議室に向かった。

「諸君、解決策が見つかった」

レオナルドは「憂国の民」の提言を説明した。重臣たちは最初驚いていたが、内容を聞くうちに納得の表情を浮かべた。

「なるほど、短期的な譲歩で時間を稼ぎつつ、長期的には依存体制を脱却する」
「現実的で、賢明な策です」

レオナルドは頷いた。

「すぐに実行に移す。外務卿、西の隣国との交渉を開始してくれ。同時に、南と東への使節も派遣する」

数週間後、西の隣国との交渉がまとまった。関税は部分的に引き上げられたが、五年間の長期契約を結ぶことができた。

そして、南と東の国々との交渉も順調に進んでいた。

「陛下、見事な外交でした」

重臣たちが賞賛する。だが、レオナルドは首を横に振った。

「これは、私の功績ではない。『憂国の民』のおかげだ」

彼は執務室に戻り、提言書を手に取った。

「お前は一体、誰なんだ?」

レオナルドは舞踏会でのエリーゼとの会話を思い出していた。あの洞察力、あの知性。

「まさか」

彼は側近を呼んだ。

「ハルトマン侯爵令嬢の調査結果は?」
「はい。彼女は毎日図書室に籠もり、経済学や政治学の書物を読んでいるとのことです。また、王国の新聞を三紙全て購読しています」

レオナルドの確信が強まった。

「筆跡の鑑定は?」
「困難です。提言書は意図的に筆跡を変えて書かれているようです」

レオナルドは考え込んだ。直接問いただすべきか。だが、もし違ったら、彼女を傷つけてしまう。

「もう少し、様子を見よう」

彼は窓の外を見た。

「だが、いずれ必ず真実を確かめる」

その頃、ハルトマン侯爵家の図書室では、エリーゼが新聞を読んでいた。

「西の隣国との交渉妥結。南と東への新たな貿易ルート開拓へ」

記事を読みながら、エリーゼは微笑んだ。

「成功した」

彼女は椅子に深く座り込んだ。疲れていたが、満足感があった。

「私は、王国の役に立っている」

その実感が、何より嬉しかった。婚約破棄の屈辱も、社交界での嘲笑も、もう遠い昔のことのように思えた。

「これが、私の道」

エリーゼは新しいノートを開いた。王国にはまだ、多くの課題がある。教育制度の改革、インフラの整備、医療の充実。

「次は、何を提言しようかしら」

窓の外では、秋の風が木々を揺らしていた。

二人の距離は、まだ遠い。だが、確実に近づいている。

「憂国の民」と国王。二人は、それぞれの立場から、王国の未来を描いていた。
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